第34話 映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」

 映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」は、躍動感あふれる公共図書館の在り方を見せてくれます。

(ニューヨーク公共図書館・New York Public Library・NYPL。以下NYPLと表記)


 NYPL は、1911年に竣工された観光名所として知られるボザール様式建築の本館をはじめ、研究目的の専門性の高い4つの研究図書館、地域に密着した88の分館で成り立っています。


 本館は、マンハッタンの五番街と42丁目との交差点に位置し、入口には図書館ライオンの像が鎮座し、百獣の王ライオンが知の殿堂を守っている風情が醸し出されています。


 名称にパブリックと入っていますが、独立法人で、財政基盤は市の支出と民間の寄付によって成立しています。

 ここでのパブリックは、「公立」ではなく、一般公衆に開かれている「公共」という意味になるとのことです。

 日本の公立図書館とは成立基盤が違っています。


 では、映画で描かれている図書館の活動の様子をみてみましょう。


 映画では、トークイベント、芸術紹介の使命に則ったコンサート、ライブパフォーマンス、著者の講演会、レファレンスサービスなど司書たちの図書館業務、活発に議論されている運営や予算などについての「幹部たちの会議」、各分館とのミーティング、専門的な図書館コレクションの紹介、デジタル化への対応など、図書館で行われている様々な試み、催しについて、ランダムに次から次へと映像が流されていきます。


 教育・就労関連のプログラムも多彩で、移民へのパソコン講座、端末の貸出、各種障害者向けサービス、展覧会、就職フェア(就労支援・セミナー開催)、読書会、読み聞かせ教室、著者を招いての語る会、歴史文化の研究会、地域住民のための多数のプログラムの紹介など枚挙にいとまがありません。


 ディナーパーティーや、ウェディングパーティー、ファッションショーも開催されます。


 また、公共図書館を運営していくために重要な活動として、図書館運営費用を捻出するための、館長の寄付の呼びかけにも注目したいと思いました。

 運営費用を捻出するのは、大変なのですよね。


 著名人が、図書館を利用して、アーティストになった、ミュージシャンになった、作家になったというのを、本人がOKであればそれを全面に出して、図書館を利用することは未来への扉を開くといったアピールをします。

 著名人たち、図書館を利用して今の自分があると発信します。


 日本では、おこがましいといった感覚から、批判を受けそうな気がして、そういったアピールはなかなかしにくいのかもしれませんね。

 謙遜、謙譲の美徳、これは美しいことですが、そこにつけこまれて、無償でなんでも提供することは、結局、文化の衰退につながるので、有償と無償の折り合いをつけることを意識しなければならないのだと思います。


 文化は、すぐに目に見える形で出現するわけではありません。

 時間がかかります。

 人の育ちも、学問も、文化も。

 その時間を待つという行為に、価値を見出せなくなってしまっているのが、ひずみを生み出しているのかもしれませんね。


 日本でも、中央図書館など規模の大きなところでは、NYPLでの活動の多くは行われるようになっています。

 現在、図書館へ行くと、その地域の中央図書館と言われる基幹を成す図書館では、本の貸出は、図書館の担う役割の一つに過ぎないのではないかと錯覚してしまうほど、多様な役割を担っています。

 それに伴い、司書もさまざまな専門性とコミュニケーション、発信などをする存在になっています。


 もちろん以前からやっていたものもあると思いますが、実際にそのような活動に注意が向くようになったのは、司書の仕事に興味を持ち、資格の勉強をするようになってからです。

 それまでは、図書館は、一人で静かに過ごせる、宝さがしの基地のように思っていました。

 それもまた、図書館の一つの在り方だと思います。



 それにしましても、NYPLの市民のニーズに答えるサービスの充実ぶり、担っている役割の多彩さには、目を見張らされました。


 臨場感溢れる映像に接しているうちに、自分もその場にたちあっているような気になり、生きている図書館を実感できました。


 図書館文化が成熟し、活気があり、図書館自体が、常に変化、進化しているのが伝わって来る映画でした。



 映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を観てから日がたってしまいましたが、最近見かけた日本の司書に関する記事『図書館司書は「いらない仕事」? 非正規・低賃金労働とパワハラの実態』を目にし、図書館関連のMLからもその記事についてまわってきまして、司書の専門性について考えさせられ、司書の担う役割の重要性を知ることができる映画の紹介をと思い、ここに記すことにしました。



追記

 図書館での著者を招いての講演会の様子については、『サルビアとガーデニア 作家志望の彼女と私』で触れました。

 主人公の大学時代の文芸サークルの後輩が、「私は、地元でお役所勤めです。区の施設でのイベントの折衝係とかやってます。そうそう、今度、担当してる中央図書館で、夏原ノエ先生の講演会をするんですよ。」(「第20話 後輩の匂い 彼女の匂い」より)と発言してまして、その講演会の様子が第46話に出てきます。

 よろしかったら、ご参考までにご覧くださいませ。


『サルビアとガーデニア 作家志望の彼女と私』

「第46話 薔薇は棘の痛みで人を引きとめる」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890430472/episodes/1177354054890941058






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