第11話 国際博物館の日に行ってきました

  暑いですね。

 真夏のような初夏の5月です。


 さて、5月18日は、国際博物館の日でした。

 各種イベントや入館無料サービスなどがありましたが、みなさんは何か参加されましたか。


 私は、台東区谷中の朝倉彫塑館の無料開放に行ってきました。

 彫刻家朝倉文夫のアトリエ兼住居だったところを整備した美術館です。

 時折ふらりと訪れる、お気に入りの場所の一つです。


 大分県出身の朝倉文夫は、東京美術学校(現東京藝術大学美術学部)で彫塑を学び、卒業後谷中にアトリエと住居を構え、活動の拠点としました。

 彫刻家として活躍する一方、後進の育成にも努め、後年、彫刻家として初の文化勲章を受章しました。


 コンクリート造のアトリエ棟と木造住居棟で構成されている建物には、玄関、アトリエ、書斎、中庭、朝陽の間、素心の間など命名された和室、蘭の栽培温室の欄の間、電動昇降台、天王寺門と玄関、非公開の旧アトリエなど、彫刻家朝倉文夫の自由な発想から生まれた美意識「アサクリック」の行き届いた空間が展開されています。


 朝倉彫塑館の何が好きかって、屋上に庭園があることです。

 訪れるたびに屋上に上り、季節の花、とくに薔薇を愛で、オリーブの緑の木陰に憩い、しばし喧騒を離れて過ごします。


 なぜ鉄筋コンクリートの建物の屋上に庭園があるかと言いますと、朝倉彫塑塾では、なんと、園芸が必修科目だったからとのことです。

 園芸実習では、野菜を育ててもいたそうです。

 写実を重んじた朝倉氏の教えから、自然に親しみ自然を観察し形をつくっていく、ということが実践されていたわけです。



 屋上庭園の一角にあるオリーブの木。

 豊かに茂る緑の木。

 夏には木蔭を、涼風を。

 オリーブの木の向こう側には、今は、すっくとスカイツリー。

 初めて上った頃にはなかったな、と思いつつ、新しい風景に時の流れを感じたり。



 さて、では、展示室。


 靴を抜いで進んでいくと、いきなり、どーんと天井高くだだっ広く開けるのがアトリエで、現在は彫刻作品が展示されています。

 三方向から光を取り入れられるようになっていて、壁は丸みを帯び、光と影、陰影に配慮されています。


 今回の展示物では、明治時代の外交官小村寿太郎氏の巨大な座像に圧倒されました。

 二階建ての建築物のような威圧感でした。

 家であれば威圧感にはなりませんが、人間が二階建ての大きさであるのですから、それはもう。

 立ち上がって、握手の手を差し出されたどうしよう、と、一瞬ひるみました。

 あり得そうな写実感だったのです。


 外に展示されていたものを見れば、このような感じは受けなかったでしょう。

 しかし、室内では違います。


 人間の感覚というのは、壁や天井がないところだと、どこまでも伸び伸びしているものなのだなと、その逆の場所にいることで感じました。


 人の手でつくられたものは、人の感覚を惑わせるものであるし、その感じは新しい脳の扉が開くような感じでもあります。


 未知のものへの恐れを感じた時に、引いて避けるタイプと、ぐっと一歩踏み込んでかきわけて進んでいくタイプがあるように思います。


 人の手になるものであってもそうなのですから、人をはるかに凌駕した自然や超常的なものに接した時、何か根源的なものを、きっと感じますよね。

 それが日常的になって、たいしたもののように感じなくなった時が、危険です。


 「感じ」の摩耗、危険です。


 と、日常ならざることを思ったり考えたりさせてもらった、国際博物館の日でした。



国際博物館の日については公益財団法人日本博物館協会に詳細が掲載されています。https://www.j-muse.or.jp/02program/pro





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