第9話 『ブックカフェを始めよう!』を読んでみた3距離感!
—―おせんべいのしっけない距離――
とある休日の昼下がり、久しぶりに会った友人と、かつて明治の文豪たちも歩いたであろう谷根千は団子坂下三崎坂手前にあるお煎餅屋さんの店先に、二人並んで腰かけて、「一枚からどうぞ」と勧められたおしょうゆ味のおせんべいを食べながら、そんな言葉が思い浮かびました。
「よく歩いたよね」
ぱりんっ。
「そうだね。お店もいろいろ新しいのが出来てたね」
ぱりりんっ。
「来る前に地図見といてよかったよ。じゃなかったら、見たいとこ全部まわれなかった」
ぱりっ、ぱりっ。
「次来る時は、お店変わってるかもしれないしね」
ぽりぽり。
「思いたったら、だね」
ぱり、かりりっ、ぽり。
「そうだね」
ぽりんっ。
「おいしかった。真四角のおせんべって珍しいね」
「そうかもね。食べ歩きのおせんべって、丸いイメージかも」
指先におしょうゆの香ばしさ。
街歩き土産の、お菓子と雑貨と本で膨れたショルダーバッグを、よいしょっ、と肩にかけて、友人は立ち上がる。
外食べ用のおせんべいが湿気てしまう前に、うまい具合に会話が収まる。
うまい具合におせんべいが胃に収まる。
時間を経てもつき合いの途切れない旧友との距離感。
さて、前回が少々湿り気味でしたので、今回は、湿気大敵のお煎餅のミニコント!?で始めてみました。
ちなみに、このお煎餅屋さんは、創業明治八年の「菊見せんべい総本店」です。
東京のあられ・おせんべい屋さんの集まり東京都米菓工業協同組合略して東米工によると、創業当時にぎわっていた菊人形見物の客に何かお土産をということで誕生したそうです。
こちらのおせんべいは四角いのですが、その由来は、「円は天、方は地」という古代中国の宇宙観を表わす言葉からだそうです。
当時四角い形のおせんべいが珍しかったというのもあるようです。
では、ここで、本からの引用です。
『ブックカフェを始めよう! 』 P121~122
「接客の距離感について」
「目の前にいる『ひとりの人間』と真正面から向かい合うことで『正しい』接客がはじめて可能になるのである。」
情け容赦のない斟酌できない年代の頃からのつき合が続いてきた友とは、たぶん、無意識のうちに真正面から向かい合っていたのだと思います。
おせんべいは、慌てて食べるとのどに詰まってしまうことがあったり、おしゃべりに夢中になっていると湿気て香ばしさを失ってしまったりします。
お互いに聞き上手になりながら、しっけないうちに美味しくいただく。
それが、理想の距離感、かな。
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