第13章 特別なテスト



 カリオット領 フィラメル遺跡


 秋の涼しい季節になってようやく私達は進級テストに挑む事になった。

 急ぎ過ぎた一年の時とはえらい違いだ。


「お前らには普通の試験を免除してやる、だがその代わり俺の手伝いをしろ」


 と、言われたので手伝うことになったのだ。

 それが進級試験の代わりになるらしい。

 そんな事になるのは、前々から知っていたので発表タイミング以外でそれほど驚きはしなかった。


 テスト内容は、とにかく得意遺跡のガーディアンを撃破できればそれでいいらしい。

 

 二年の進級試験の内容は、本来は遺物発見だったのだが、今の私達にはぬるい内容だとでも思われたのだろうか。


 正直、先生から頼られるなんて思わなかった。

 未だに信じられない。


 でも、事実だった。

 現実に私達は遺跡に来ている。


 行先は、宝石加工で有名な富める領地カリオット領。

 その領地のはじにあるフィラメル遺跡は、そうとう古い遺跡だが、かなり踏破難易度の高い場所だ。


 中にいるガーディアンは協力で、今の所奥まで踏破した者はいないらしい。


 そんなフィラメル遺跡の内部は比較的綺麗で、白い石材で作られた建物内は幻想的な雰囲気があった。


「変わるもんもありゃ、変わらないもんもあんだな。ここらへん地形が全然変わってねぇ」


 ここに来るまでに獣が通るような道なき道を通って来たが、先生の案内があったので迷うなんて事はなかった。

 前にも来た事があるらしいので、その経験だろう。


 それもあるが、今回は頼もしい同行者もいるから、万が一遭難してしまうという事も心配しなくて良さそうだった。


「私……本当に、ついてきて良かったの?」


 心配げにそう言うのは、エルルカだ。

 彼女は、占いの腕がすごくよくて、危ない所とか進むべき道順をしっかり教えてくれたのだった。

 正確に言うと、未来予知の類いの力らしいが、そういうと色々面倒な事があるらしいので彼女は占いとして力を振るっているらしい。


「エルルカの力ってすごいのね、すごく助かったわ」

「そんな事、ない」

「あるわよ。一年の時は大変だったのよ。いくら気を付けてても、蛇にかまれそうになったり、道を間違えそうになったりした事が何度かあったし」

「そう……」


 照れているのか、エルルカは顔を赤くしながら視線をおとした。

 外部の人間が協力する形になったが、ステラ達のテストは最奥にいるガーディアンとの戦闘のみなので、特に減点されるということはない。


 居心地悪そうにしている彼女に、、今度はニオが話かけていく。


「エルルカちゃんって、水晶玉をとりだして、むむむって占ってるのが様になってたよね。よくやってるの?」

「……いい小遣いかせぎになるから」


 日常的に占いをやっていてお金を稼いでいるというのなら、本職の人にもなれるかもしれない。

 けど、本人にその気はないようであくまでも趣味として嗜んでいるらしい。


「占いなら私の家にも趣味にしてる人がいるわよ。アンヌって言うんだけど、でもエルルカほどじゃないわね」

「そんな事……本当に私のは、大した事じゃない、から……」


 変な事言っただろうか。

 私は思った事を言っただけだ。

 けれど、エルルカは声も体も小さくして、縮こまってしまった。

 悪い事を言ったというわけではないはずだけど、エルルカはこれ以上聞きたくないといったようだった。


「剣も触れない。姉さんと同じにはなれない。こんな力、あっても意味ない」


 エルルカはどうして自分の力を頑なに否定するのだろうか。

 見つめる先のエルルカは自信無さげで、目を話すとどこかに消えてしまいそうだった。


 空気を変えるようにニオが明るい声を出す。


「もーっ、それにしても試験内容勝手に変えちゃうなんてどうなの? 職権乱用じゃないの? たしかに特異遺跡とか行き過ぎて普通の遺跡じゃ試験にならないかもって思ったけどー、めんどくさいんですけど!」


 私達の前、前方を歩いている先生に向かって、ニオがそんな事をぼやいている。

 彼女は頬を膨らませて分かりやすい表情で怒っている。


「せっかく楽にクリアできるかもって思ってたのに、暗殺しちゃえばよかったかな。ね、ライド君殺っちゃう?」

「さらっと怖い事提案しないでくれなニオちゃん、さすがにそこで殺っちゃったら、今までのあれこれは何なのって話になるぜ?」


 そんなニオの言葉に応じるライドは、呆れ交じりだがやや楽しそうでもあった。

 彼はニオと話している時は基本、そんな感じだが、特に一緒に何かをやるかと持ち掛けられた時は嬉しさが数倍増しだ。


「俺とニオちゃんの共同作業って事なら、年中受け付けてるぜ? やむおえない理由があった時は心置きなく声をかけてほしいわ。俺ニオちゃんの為なら、培った人脈駆使して、骨も残らない殺し方を提供する自信が結構あるから」


 内容はかなり物騒で、微笑ましいとは言えない代物で、とてつもなく第三者に聞かれたら誤解されそうな内容でだった。


 だが、もう慣れた。

 ニオ達がそんなやり取りをするのはいつもの事だったからだ。


 ライドはともかくニオがそんな事を言うのは、大体先生がいる時しかないので、本気でそうしようとは考えていないのだろう。


 ニオなりの甘え方なんじゃないかと思う。

 そう言ったら、「ちっがーう!」と本気で否定されたが。


 そんなやりとりをしていたからだろうか。

 前に歩いていた先生が急に立ち止まった。

 そのすぐ後ろを歩いてたエルルカが背中にぶつかって、恨めしい視線を向けている。


「……お前ら、緊張感どこに落としてきた。巣立ち前のひな鳥よろしく、ぴーちくぱーちくさえずってんじゃねぇよ。帰った時に宿題増やすぞ」

「やだもー。ちょとしたおふざけじゃないですかー」



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