第14章 フィラメル遺跡
フィラメル遺跡の内部では色々起こった。
入り口辺りだったらまだお喋りしながら歩く余裕があったのだが、先に進むごとに殺傷力の高いトラップが流れ作業のように作動したり、(どうやってトラップ満載の遺跡に入り込んだのか知らないが)害獣とか魔物とかがいっしょくたになって襲い掛かってきたりして、たまにちょっと可愛い「きゅ?」と鳴く小さい生き物にニオと一緒に癒されたりして、それどころじゃなくなってしまった。
先生やエルルカがいなかったら、私達の命はなかっただろう。
そんな言葉も大げさではないほどだった(一部まったく害のないイベントもあったりしたが)。
とにかく、説明できないような色々や諸々があったが、それらを乗り越えて私達は一応無事に最奥まで辿り着いた。(一応というのは、さすがにちょっと被弾したりかすり傷を負ったからだ)
目の前には、今までの区画では見なかった大きな扉がある。
いよいよ終わりが見えて来た。
「さてと、こっから俺が手出ししたら試験になんねぇからな。せいぜいお前達の未熟な腕で何とかしてみせろ」
先生はそう言って、私達を見る。
という事はつまり、こここから先は手伝ってくれないようだ。
当然だろう、そうでなければテストにならない。
「エルルカ、お前もだ。とばっちり食いたくなかったら、部屋の外にいろ」
「……」
臨時参戦してくれた頼もしき助っ人にもそう声をかけて、先生は私に前に進む様に促してくる。
「ステラード。せいぜいヒヨコなりに、俺の弟子として恥ずかしくない戦いをするんだな」
当たり前だ。そんなの決まっている。
「もちろんです!」
もとよりそのつもりだと、できるだけ自信満々に見えるように私は頷いた。
仲間へと視線を移せば彼等も、同じ思いでいるようで……。
「ステラに良い所を見せるチャンス。今度こそ、暴走しないように、意識跳ばないように! 毎日ステラの家に通ってした特訓の成果の見せ所だ!」
同じようで……。
「じゃあ、この先にガーディアンがいる!? ステラちゃん頑張って」
「いやいや、ニオちゃんも頑張るんだって、そうじゃなきゃチームで来た意味ないでしょ」
「えー、ライド君ノリわるーい」
「生憎と、俺は状況に分けて態度を使い分ける男なの。 どう?惚れちゃった?」
「うーん、晴れちゃったかな?」
「晴れちゃった!? 腫れちゃったでもない!? ……どうしようニオちゃんの使う言語が斬新すぎて、とうとう意味が分かんなくなってきた。どういう意味なのアレ! いい返事だったらどうしよう!!」
どうだろう。
割と心がバラバラかもしれない。
とにかく緊張しすぎるよりはいいはずだ。
おおらかな気持ちでスルーした後、気合を入れ直した。
誰かに頼られるのは嬉しい。
それが普段頼ってこない人なら余計に。
そういう運命なのか、よく人から色々頼まれたりして、どうなのその仕事を持ってくるのはって思う時もあるけど、面倒だし重いと思う反面やっぱり嬉しいのだ。
色んなトラブルに引き寄せられるような体質をしてる私だけど、それで得た物が確かにあるのだから、最近はちょっとだけ前を向いて受け入れても良いかなと思えるようになってきた。
特別だから頑張るんじゃない。
頑張りたいから、頑張ってる人に近づきたいから頑張れる。
ステラード・リィンレイシアは先生に期待されてるらしい。だから、この先のガーディアンとの戦いはとてもすっごく頑張っていかないといけないのだ。
数多くの挑戦者を叩き伏せただけあって、遺跡のガーディアンは威圧感たっぷりだった。
扉を開けると、巨大な獅子の様な姿をした石造が動き出して、こちらを睨みつけた。
「皆、来るわよ!」
私達は、各自攻撃しやすい位置へと移動していって、ばらける。
やはりこういう場面では、一人で戦う時とは勝手が違う。
班を組んで行動する時は、うまく仲間達と息を合わせるかどうかで、生存率も撃破率も大幅に変わってしまう。
だから、私は仲間達の動向に常に目を配りながら戦わなければならない。
「やぁぁ!」
真っ先に風ろ切る様にして、突進。
積極的に前に出て、ガーディアンの注意を引いていく。
「このっ!」
絶えず相手の真正面を陣取って、視界から外れないようにするのは大変だ。
相手は俊敏だ。
本物の獅子さながらの身動きをしながら、こちらを翻弄してくる。
相手は、実際にそんな個体が自然界にいるのかどうなのか分からないような巨躯をしていて、身の丈は私達の身長の二倍以上もある。
もう怪物とか巨大獣とか言っていいサイズだ。
そんな姿なので、飛びかかられたりすると大惨事だ。
相手に押しつぶされるだけならまだしも、重量の乗ったひっかきだったり噛みつきだったりすると、一撃で致命傷になりかねない。
「やっかいね、威圧も使えないし」
相手の身動きをとめるために、クマあつめイベントで見せたような威圧を放ちたかったのだが、あれは生きている相手でなければ効かないので、手札には加えられない。
「――邪魔よ、退きなさい! ……効き目無しみたいね。」
やはり、駄目だ。
一回機会を見て試しにやってみたものの、まるで聞いていない様だったので、選択肢に残しておかない方が良いだろう。
だが、そんなやっかいな相手との戦闘は慣れている。
「あいにくと、不利な状況で叩くことばかりだったもの、これくら何ともないわ!」
アリアから逐一ターゲットされているので、形成の悪い状況で戦闘に入るのはむしろ日常茶飯事だ。
兄さまからの頼み事で野党やらなんやらを捕まえる時だって、罠に嵌められることもあったのだから、これくらいで戦いを投げてなどいられない。
そんな暇があったら、剣を取って振るに限る。
「負けてあげるもんですか、やぁぁぁぁ!」
渾身の力とスピードで、剣を振るい相手へ。
「斬撃を飛ばす」要領で、相手へ攻撃すれば少なからずのダメージだ。
「普通は斬撃は飛んじゃったりしないんだけどね。えいや!」
それと同じタイミングで、こちらを迎え撃とうとしたガーディアンの動きを妨害する用意、敵の足元に矢が射られる。
ニオだ。
先生暗殺未遂の件で、弓での攻撃もできると判明した彼女には、相手の行動妨害を担当してもらうことにしたのだ。
身軽なうえに洞察力に長けているニオは、安全な位置から援護をするのが上手い。
「俺も存在も忘れないでねっと」
ニオに続いて、ライドも行動に出た。
彼が投げたのは、円筒形の何か。
ガーディアンの足元に落ちたそれはもくもくとした煙を上げて、相手の視界を遮っていく。
「さて、どうなるかね。あれって石だし、生物じゃないんだろうし。だったら、どうやって相手を認識してるんだって話」
ライドの疑問に応える声(鳴き声?)はない。
しかし、答えはもうじき出るだろう。
彼の言う通り、私達は、相手がどうやってこちらを認識しているのかを確かめようとしている最中だった。
煙から出てきたガーディアンは、真正面から私を見ている。
煙の中からでもまるでこちらのいる位置が分かっていたかのようだった。
ならば。
「ツェルト!」
「了解!」
私は仲間の一人へと声をかける。
今まで姿を見せなかった彼が一体どこにいたのか、それは……。
打って響く様な声と共に、部屋の四隅にある階段、その先の上の階の通路を彼が駆け抜ける。
「おりゃっ!」
そして、ツェルトは上空から敵に切りかかった。
しかし、彼が落下する前に、相手は気がついたようだ。
察知方法は熱源だ。
相手は熱源を感知して、こちらを見つけている。
ちょっとだけ面白くなってきたと思ってしまうのは、どうなのだろう。
また、狂剣士などと言われてしまうだろうか。
だが、相手にとって不足はないとはごく自然に考えている。
だから敵に勝つ為に、ステラは非情になる事にした。
血も涙もない鬼とはまさにこの事だ。
鬼の力を使ってステラの代わりを引き受けているツェルトを気にしながら、ステラは袋に入れて運んできたそれらを取り出す。
それは、今までの自分だたら、まず間違いなく行わなかった一手。
必殺、かわいい小動物攻撃。
力が抜けそう。ギャクみたいな名前だ。
「ごめんなさい! 無事だったら、後で部屋の外まで戻してあげるから」
「きゅ?」
取り出したのは、ほとんど無害な事で有名な魔物。
人のくるぶし当たりにぶつかってきて体当たりするだけのかわいらしい攻撃しかできない魔物だ。
私は、数十匹のムーンラビットを解放して、彼等?の好物であるにんじん(みじんぎり)をばらまいた。
あの、狂暴なガーディアンに向かって。
つぶらな瞳をした、名前の由来となた背中に三日月模様をした兎たちが、一斉に愛くるしい動きをしながらガーディアンへと向かっていく。
「きゅきゅーう!」
兎たちはきゅっきゅきゅっきゅっと鳴きながら、ガーディアンに殺到していく。
かわいい。
ではなく。
石造は、それらに気が付いたのだろう。
ツェルトの相手をしていたのだが相手は、数が多い方へとターゲットを変えた。
「まさか、本当に通用するとは、剣士ちゃんらしくない発想だしどうよと思ったけどね」
「ねー、ギャグみたいな作戦だね」
私もそう思う。
でもゲームで、ほとんどの遺跡のガーディアンはそういう感じにやるとうろたえるって、言ってたから。
熱源感知とか、温度センサーとかの概念はこっちの世界ではないから。何か凄い事があっても、魔法の力で説明が片付いてしまう。
けど、ゲームでは最初にヒロインがこの一手に気が付いたのだ。
私はそれを利用させてもらっただけ。
こちらを殺そうとしているアリアに助言されているようで、微妙な心境になったが。(ちなみにゲーム内では他の遺跡で、そこに巣を作っていたネズミを使用)
ともかく、作戦は上手くいったようだ。
いったんは、ムーンラビットに向かって行こうとしたガーディアンだが、接近するなリ雲の子を散らす様に逃げ出した小動物の動向に混乱しているようだ。
人間と違って、近づくものを全て平等に排除しなければならないガーディアンだからこそだろう。
「その隙、つかせてもらうわ」
だから、私達はそれを精一杯利用するのだ。
「ツェルト、貴方に合わせるわ」
「よしきた!」
逃げ惑うムーンラビットたちを踏みさないように駆けながら、剣をかまえる。
近くにいたツェルトが、ガーディアンの背後から連撃を放っているのをみて、私は遠距離から斬撃を飛ばして注意をとりながら接近。
そうして、再び真正面に立った。
形成が不利だと判断したのか、ガーディアンは今までよりも激しく身動きする。
「ステラ、今だ!」
「――これで、とどめ!」
それらをよけながら全て回避した私は、ツェルトが作ってくれた隙を利用して、必殺の一撃を見舞った。
巨大な石像が倒れるのしっかりと見とどけて、起き上がってこないのを確認した後は、仲間達とハイタッチした。
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