第12章 エルルカの日常



 フィンセント騎士学校 教室


「やったー、ニオの勝っちー!」

「うお、ニオちゃん強いな。さすがいつも自分ペースで生きてるだけはあるわ」

「ニオってすごいわね」

「うーん、遊びとかになると結構やるんだよなニオって」


 放課後の時間、自習の合間の息抜きにいつものメンバーでカードゲームをしていたら、一番最初に勝利宣言をしたのはニオだった。


 うっかり白熱してしまって、勉強どころではなくなってしまっているが、ニオの勝ち方があまりにも鮮やかだったため、こういう時に制止する側であるはずの私ですら引き込まれてしまっていた。


「ニオって、ゲームが得意よね」


 ゲームと言うか楽しい事全般が得意というか、一年の時に湖で水遊びしていた時も思ったけれど、即興の遊びでもコツを掴むのが早くいようだ。いつも彼女の相手をする、他のクラスメイト達は苦戦していた。


「えっへん、すごいでしょー。子供の頃からだよ。遊ぶ相手はいなかったけどね!」

「ニオちゃんそれ、自慢じゃないって。意外とぼっちだったわけ?」

「ニオがぼっちとか信じられないよな。何かいるだけで、周りを巻き込んでくみたいなイメージなのに」


 ライドとツェルトに同意だ。

 私もそう思う。


「んー、まあ今よりはちょっと、泣き虫さんだったからね」


 彼女がどんな子供時代を過ごしたのか、詳しい事は分からないが、今の姿からは想像できない。


 でも、私とちょっとだけ境遇が似ているような気がしないでもない事に、親近感がわいた。


 子供の時は、他の子が遊ぶような事に興味持てなかったから……。


 唯一、アリアやカルネ、たまにレアノルド兄さまは私とでも遊んでくれたけど。


「あれ、何かステラが悲しそうな顔してる、どうしたんだ。頭なでる?」


 心配そうな顔をして、ツェルトがそんな事を言ってきてくれたけど、子供扱いされているように感じられるので、それはさすがに謹んで辞退させてもらった。


「皆、そろそろ勉強にもどりましょう。あんまり遊んでいると、この間みたいに先生に怒られちゃうわよ」

「はーい、宿題分からないところあるから後で教えてねステラちゃん」

「それだったら俺が教えるぜ、ニオちゃん」

「くっ、俺の右手がステラ成分を求めて勝手に動こうとしてる、宿題に集中できない、なでさせてくれ」


 中断していた勉強を再開しようと声をかけて、それぞれが今まで遊んでいた道具をしまうのだが、そこで教室に入って来る人がいた。


「……お前ら、遊んでたな」


 顔をしかめてそんな事を言ってくるのは先生だ。


 だが、文句を飲み込んだ代わりに先生は、エルルカの事について話してくれた。

 屋敷に置いておくよりは相談相手がたくさんいる所に連れて来た方が良いかもと思ったので、今は学校にいるのだった。


「ステラード、あいつなら女子寮使わせてもらえる事になったぞ。後で、伝えといてやれ」

「あ、ありがとうございます!」

「礼なら、寮にいる管理のばぁさんに言っとくんだな」


 用は済んだとばかりに引っ込んで行った先生の代わりに、勉強の用意を始めていたみんなが、口々にその件について話はじめた。


「大変だよねー。エルルカちゃん、家からえーいって追い出されちゃったって。びっくりだし、ひどい!」

「だわな。さすがに俺も引くわ。それなりの家のお嬢ちゃんって話らしいけど、良いのは家の名前だけってオチな」


 私もまったく同じ気持ちだ。

 家族を家から追い出すなんて、聞いた事が無い。

 ……。

 あれ? 私がそうだったわね。


 とにかく昨夜あの後、私はすぐにエルルカがどうして屋敷に来ることになったのかという理由を聞いた。


 なんでも彼女は、剣守の一族の証である大事な家紋の入った品を、家の中で不注意で壊してしまったとか。

 それは歴史的価値のある品で、二つとない貴重なものだったらしい。


 それで、それを知って激怒した家の人が、エルルカを追い出したという。


 エルルカは沈んだ顔で、その時の事を「仕方がない」と言った。

 その時の悲しそうな顔が忘れられない。


 大雑把な事情を説明してあったニオとライドは私の目の前で怒っている。


 けれど、ツェルトは意外と冷静だった。いつもは感情の起伏が激しかったりおかしいのに。


「エルルカって人はその家が好きだったのかな」


 私が視線を向けると、ツェルトは小声で「ちょっと違和感があるかな」と話してくれる。


「家にいたいって思ってたら、すぐにステラの家にこないと思うんだ。祭りが終わって時間が経ってたって言っても、数時間ぐらいだろ? 普通は何とかして、許してもらおうって頑張ると思う。でも、そうじゃなかった」

「つまり、エルルカは家にいたくなかったんじゃないかって事?」


 ツェルトの言葉をまとめた私が、自分なりの答えを口に出すとツェルトは「そうかも」と返答。


「俺は養子だから、家に愛着があるっていうよりは、俺を選んでくれた家族に愛着がある方だし。そういう考えがあるから、そう感じてるのかもしれないけど」


 どちらにせよ、放ってはおけないだろう。


 昨日一晩泊めてそれなりに話しはしたけど、エルルカに元気がなかったのは見間違えようがなかった。

 なんとかしてあげる事ができればいいのだが……。






 そんな話をしてエルルカの将来を案じていると、何か伝え忘れていた事でもあったのか、先生が教室に戻って来た。


 がらっと扉を開ける。


「あ、お前ら準備しとけよ、次の休みになったら、特異遺跡で進級試験受けさすからな」


 で、扉をびしゃり。


 ちょっと先生。

 深刻な話をしている所で、ついでのようにそんな別の大事な事を言わないでください。



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