第7章 遺跡のお約束



 一時はどうなるかと思ったが、その後からは何とかなってよかった。

 だが、数分かけてガーディアンを撃破し、改めて最奥を調べるのだが、結晶が見つからない。


 やはりというか薄々気づいていた事だが、私達は間違った遺跡に来てしまったようだ。


 結局は収穫なし、肩を落として遺跡を後にするほかない。


「うーん、うーん、ステラが三人。どれが本物なんだ……」


 それで、鬼の力を使ったツェルトはというとあの後糸が切れたようにばったりと倒れてしまったので、今はライドに運搬されている状態だ。


 寝言を聞いたライドがうんざりしたような顔をしている。


「それどんな寝言なの? いい加減起きて欲しんだけど、おーいツェルトー」

「……全部ステラだな」

「開き直りやがった。てか、ホントに寝てる? 起きてないよな?」


 ステラも顔を覗き込んでみるが特におかしい所は見当たらない。

 本当に寝ているのだろう。


「夢の中で私が出てくるなんて、ツェルトって」


 思った事を呟けばニオが聞きつけて近寄って来る。


「なになに、ステラちゃん。意識しちゃった?」

「友達少なかったのかしら」

「あー……そっちの方行っちゃう? これは先が長くなりそうだね」


 そっちがどっちなのか分からないし、何の先が長いのだろう。


 それはともかく、そろそろ遺跡の出口に着くはずだ。

 ツェルトを起こした方がいいだろう。


 今でこそ軽口を叩いている状態だが、少し前はみんな言葉少なだった。


 課題挑戦の努力が水の泡となった事が相当応えたのだろう。 ここまでくる間は、本当に少し静かだったのだ。


 それが、出口が見えて閉鎖的な場所から解放される事になって、緩んできたのだと思う。


 行きの時は注意したが、ここでも同じ事を言う程私は冷血にはなれない。


「課題の事はまた頑張りましょう。まだ四月なんだし」

「そうだね、まだ一年始まったばっかりなんだし、機会はいくらでもあるはずだよね。よしっ、ウジウジしてるのおーわりっと」

「ま、俺等は熊殺しちゃんと同じ班になれたんだし、幸運な方でしょ」


 けれど、私は油断していた。


 最後まで気を抜いてはいけなかったのだ。


 実を言うと、昔から私はちょとした不幸体質でよく災難に巻き込まれるのだ。


 一日数件の難事がまとめてやってくるなんて事も珍しくない。


 別に四六時中緊張してろとまでは考えていないが、

 それでも、せめて遺跡を出る最後までは気を抜いてはいけなかったのだ。


「何かいるぅ!」


 それはどこから出現してきたのは、小さな石像達が集まって来ていつのまにか私達を取り囲んでいた。


「時間差で起動する罠かしら。この遺跡作った人ってかなり性格悪そう」


 遺跡の奥にある大事な物を取られないようにするのが番人ガーディアンならば、これらは取り返そうとする簒奪者の悪あがきと言ったところだろうか。(ちなみに番人や簒奪者の皆さんは、やられても不思議な力で一定時間後には復活している)


 ともあれ、嘆いてばかりはいられない。

 こちらは一人戦力が欠けているし、それを護衛するために一人割くとしたら、使い物になるのは実質二名だけ。


 厳しい条件だった。先手を打たれてはやっかいだ。


「ニオ、ツェルトをお願い」

「おっけー、りょーかい!」


 ライドと二人で群がって来る石像を蹴散らしにかかる。

 出口は近くだ。

 構うよりあしらって逃走する方が早い。


「光が見えたわ、もうすぐよ」

「でもそこで、通路がどんがらがっしゃーん! って事になったりするのがお決まりなんだよね!」


 希望を口にすればツェルトを背負って走るニオからそんな言葉。


 本当に起きそうな事を言うのはやめてほしい。

 しかし現実は非情だ。

 前方で盛大な物音発生。


「ニオちゃんって、実は預言者?」


 そして同時にライドが、そんな事を言う。

 心の中で彼女の言葉が現実となる事を否定していたと言うのに、目の前の光景は無情だった。


 入り口が、崩れて来た遺跡のがれきによって塞がれてしまったのだ。


 逃げ場を閉ざされた。


 ニオが悪びれもせずに分かりきった現状について一言。


「ひょっとして詰んじゃった?」


 詰んでない。


「いや、もうちょっとその前の段階じゃないの? まだ挽回の余地はあると思うね」


 ただしそれは……。


 後方から追いすがって来る敵達を全滅させられれば、の話だが。


 万事休すか。


 そう思いつつも、私は往生際悪く剣を握る手に力を込めた所で……。


 塞がれたばかりに入り口が外からの衝撃で吹っ飛んだ。


「な、なに……?」


 予想外過ぎる自体に戸惑いつつも、土煙の向こうにいるもの……男性の姿らしいその影を凝視する。


 もしや、何者かが塞がったがれきをどうにかして退けてくれたのだろうか。


 私のそんな疑問に答える様に、そこにいる人影が喋った。


「間違えて行った生徒ってお前のことかよ。何さっそく出会い頭に死にそうになってんだ」


 懐かしい声。

 懐かしい言葉遣い。


 それらは、数年前までは当たり前の様に聞いていたものだ。


「まさか、先生?」


 灰被りの色のぼさぼさの髪に、それなりに背があるのを台無しにしている、やる気のかんじられない猫背。

 けだるそうな声音と面倒そうな表情。

 どこからどうみても立派な人間には見えないその人を、見間違えるはずはなかった。


 私はその人影に向かって意識しないまま、言葉をかけていた。


「ほんもの……?」


 疑いを含む私の言葉に応じるように、先生がため息交じりに再会と祝福の言葉を返してきた。


「久しぶりだな、ステラード。祝いの言葉遅れちまったが、騎士学校入学おめでとう、な」


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