第6章 元王女様は破壊王?



 四対一。

 数の上では有利なはずなのに、まったく優勢に思えないのは、相手が規格外すぎるからだろう。


 重ね重ね思う事だが本当に話が違う。

 ひょっとして私達が見つけた遺跡って、普通の遺跡じゃなくて特異遺跡のものだったのかもしれない……。





 総勢四人がかりでガーディアンの相手。


 けれど、その相手の強さはとても学生向けに用意されたものとは思えないほどのものだった。


「話がちがーう! えぇー、何これ! すっごくやばいよ、まずいよ。ニオ達真っ赤な肉塊になっちゃうよ!」

「ニオちゃんまだそれだけ元気なのな。俺はちょっとくたびれてきたよ。安心しなって、それだけ叫べればまだ真っ赤な肉塊になるのは先だと思うぜ」


 とにかく手ごたえがないので、こちらの攻撃が通っている様に見えないのが精神的に辛かった。


 今はまだ良くとも、何か有用な手を考えなければその内本格的にこちらが追い詰められてしまう。


 そんな中で、何か思いついたらしいツェルトが気だるそうな声を上げる。


「はぁ、仕方ないよな。制御できないからあんまりこれ使いたくないんだけど」

「何か考えがあるの」

「まあ、一応?」


 何で疑問形?


「でも、これ失敗すると敵が一人増えるって言うか。危険度が跳ね上がるからお勧めできないんだよなぁ」

「ええと、つまり?」


 いまいちよく分からなかったので再度尋ねたのだが……。


「駄目だったら俺、敵」


 という事らしかった。


 詳しく聞きたい事はあるのだが、状況を詳細を語って細部を煮詰めているだけの時間はなさそうだっだ。


「何かあっても必ず何とかするから。だからツェルト、お願い出来る?」

「ステラに頼まれたら仕方ないよな。よっし、分かった。ステラそっから降りといて」

「ええ」


 ツェルトは決意したような表情を見せて、後方へと下がって一瞬だけ目を閉じる。

 そして、彼の周囲に何かしらのエネルギーのようなものが渦巻き始めていくのが見えた。


 紫の光が、周囲を淡く優しく照らし出した。

 この世界には魔法が存在するのだが、その使い手はごくわずか。

 ツェルトが魔法を使えるのはありえないことではなかったが、普通の魔法とは少し様子が違う。


 この世界にある一般的な魔法は、ああして準備に時間はかからないし、集中する必要もないのだから。


 一体何を始めるつもりなのだろう。


 気になるが、とりあえず私は言われた通りガーディアンの背中から飛びおりた。


 無防備になっているツェルトを守る様に、彼の周りにはニオとライドが立っている。

 なら私はガーディアンを引き付ける役目に徹するべきだろう。


「こっちよ。私が相手になるわ」


 わざと声を張りあげて注目させる。


 向かってくるその敵を、私は回避するだけだ。

 攻撃を通すのではなく、時間を稼ぐ事だけに集中すればそれなりに渡り合える敵だった。


 やがてツェルトが目を開いた。

 策の準備とやらが終わったらしい。


 これで、何とかなるだろうか。

 そう私がこれからの事に思いをはせた瞬間だった。


 ツェルトが動いたのは。


「あ……」


 今までの動きとは比較にならない。

 目にも止まらなぬ動きでガーディアンに向かっていき、剣技を連発している。

 だが、周囲にはまるで気を配っていないようで、その様はまるで狂戦士と言ったようだった。


「ツェルト、もしかして」

「あー、あれ完璧に理性とんでるわな」


 思った可能性を口にしようとすればライドに先を越される。


「アイツのあれは鬼族の血を引いている影響って、わけなんだけどね。迂闊に使うとああやって制御が効かなくなる。子供の頃はそれで痛い目みたらしいから、簡単な事じゃないんだわ」


 友人という事もあって、ライドは前もってそのことを聞かされていたのだろう。

 凄い可能性を秘めた力だとは思うが、自分の意思通りに行かないのだったらもろ刃の剣になりかねない。


 そのあたりの事情や、ツェルトの過去についてはまたおいおい機会があったら聞く事にしよう。


「援護した方が良いかしら」


 巻き込まれる心配があるのが少し困るが、けれどかといって一人で戦わせるわけにもいかない。


 ツェルトは本当にどうやっているのか、ガーゴイルを順調に傷だらけにしていってる。


「剣で石を傷つける……? 実はすごく力持ちとか?」

「いやぁ、さすがにニオもそれはないと思うな」

「右に同じ」


 ステラの推測は仲間達の受けが良くなかったらしい。

 と、そんな事を言い合っている間にツェルトの体勢が崩れた。


「あっ」


 頭痛を堪える様に手で額を抑えて、その場に動きを止めている彼を狙う敵の姿が目に入った。


 考えるよりも先に体が動く。


「こっちを見なさい!」


 声を張りあげて、近くにあった石を投げつける。

 相手は……、


 誘いに乗った。


「私の相手もしてくれないと拗ねるわよ」

「ステラちゃんだけに良いとこは見せられないね。ニオもがんばろーっと」

「ニオちゃんが頑張るんなら、俺が行かない理由はないわな」


 石像の視線がこちらを見つめていた。


 前に出た私達だが、一方でツェルトは背後で動きを止めたまま。


 まだ鬼の力というのは続いているのだろうか。

 ふとした瞬間に背中から剣を向けられて、容赦なく反撃してしまったらと思うと……。


「ツェルトがばっさりいっちゃったら、さすがに困るわ」

「どういう想像してんのか分かんないけど、あんなツェルトを切れるなんて考えてるとか、剣士ちゃん意外と逞しいのな」


 そんな事ない、全然普通だ。


 現役の騎士なんて、きっとこんなものではないだろうし、先生だったら敵が百人くらいいたところで簡単に切り伏せてしまえるだろう。


「そうだ、ちょっと思い付いた事があるんだけど……」


 なつかしい顔の事を思い出したせいか、状況を打破できそうな事を思い付いた。


「衝撃波っていうの一回飛ばしてみるから、合図したらみんな離れてて」


 そう言って、どうタイミングを計ろうかと考えてると、ニオとライドが声を合わせて言った。


「はー?」

「え、空耳?」

 

 驚かれてる?


「ステラちゃん、それは物語の中だけの話だよ。普通の人間にそんな事できたりしないから。もうっ、もうっ、そんな信じ込みやすい純粋なステラちゃんもニオは好きだけど」


 おかしい。

 私の知ってるお医者さんの先生は、よく剣からぶわっとしたのを出して、見せてくれたのに。


「一度もやった事ないけど、練習すれば私だって出来るわよ」

「またまたぁー」


 言葉を重ねてみるが、ニオは一向に信じてくれる様子が無い。


 すると私の様子から何かを感じ取たらしいライドが、恐る恐ると言った風に声をかけてくる。


「まさかマジ?」

「だからちゃんと頑張れば出来るって言ってるじゃない」

「うわぁー……」


 さすがにこちらの言葉が刺々しなる。

 その「うわぁー……」は、何に対しての「うわぁー……」なのかしらね。

 まったく失礼な。


 ステラはやればできるできるできる……。

 そんな風にすれば、出来ない事でも出来る様になるのだ。

 だってあの先生がそう言っていたし。


「いいわ、見せてあげるんだから。びっくりしても知らないんだから、ホントに頑張ればできるのよ」

 

 とにかく実物を見せればいいのだ。

 そうすればきっと誰も疑わない。

 一度もやった事は無いが、何回かやってみれば誰でもできる。


 というわけで。


「えいっ!」


 ドンガラガッシャン。ゴロゴロゴロ。グラグラ。ガシャーン。


 気合を込めて、剣を一振りしてみたらガーゴイルの片翼が取れて、落下。砕けてバラバラになって、他の床やら壁やらを盛大に傷つけた。


 今日は運がいい。

 一回で成功だった。


「「……」」

「どう、出来たでしょう?」 


 ニオとライドは戦闘中だと言うのに、動きを止めて無言になった。

 一瞬遅れて敵が飛翔し続けられずに落下。


 よく見ると、翼を切られて落下した影響か、体の各所にひびが入っていた。


「は」


 ニオが口を開く。


「は……?」

「破壊王だー!」


 失礼な。


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