第5章 予想外の試験官
最奥の間
とりあえずは、緊張感を持ったかいがあったのか、大したトラブルもなく遺跡の奥へと辿り着いた。
あれから小一時間程かけて到達したそこは、広々とした空間だ。
長い年月を感じさせるように所々が風化していて、どこからか入り込んだ種子から緑が芽吹いていたり、吹き込んだ風に運ばれた砂や埃が積もっている。
「やった、これで進級試験クリアだね!」
遺跡の一番奥へたどり着いたと一目みるや、ニオが大はしゃぎする。
順調に来れた事もあって、班員達の気が抜けかけるのだが、私はそれに待ったをかけた。
「気を付けて、こんなに簡単に行くはずがないわ。まだ何かあるのかも……」
「えー、ステラちゃんも一緒に喜ぼうよ」
「駄目よ、トラブルは油断した時に起こるんだから」
「もう、ステラちゃんに剣を教えた人だれ!? こんなに可愛いのに、すっかり歴戦の猛者みたいに用心深くなっちゃって。もうっ! もうっ!」
何に対しての怒りツボを付いてしまったのか分からないが、ニオはステラの横でぷりぷりと怒り始めている。
私、変なのだろうか。
当たり前の事を考えてるだけだと思ってたのだが。
こちらが気にしているとライドが擁護の言葉をかけてくれるのだが……、
「いやいやニオちゃんはちょっとアレなだけっていうか、頭の中が素敵なわけ。それは、気にしない方がいい」
「そういうもの?」
彼の言葉も具体的な物で無かったため、理解が及ばない。
そうして話していると、そこにツェルトが割り込んできた。
「おい、これ俺のステラ! 何親しげに分かり合ってるんだ。焼いちゃうぞ!」
「私はツェルトのじゃないんだけど……」
だが、それは助力の言葉でもなんでもなかったようだ。
かまってもらえなかったからといって、そうすねる事ないのに。
「いやいや、俺小さな子供じゃないよ!?」
と、思っていたら反論されてしまう。
どうやらツェルトにはお見通しだったらしい。
「よく分かったわね、私の考えてる事」
「そりゃ、まあ俺はずーっとステラの事見てるからな! 分かって当然だ!」
なるほど、それなら仕方が無いのかもしれない。
そこにライドとニオが顔を並べて、突っ込みをいれてくるが。
「何か良い話みたいに展開されてるけど、それ冷静に考えたら怖い話! 何納得してんの剣士ちゃん。ほら、ニオちゃんも何か言ってあげなって」
「ツェルト君ってあれだよね。ストーカーみたいだよね」
しみじみとそんな会話を展開していた。
確か、ストーカーというのは私がニオに教えた言葉だったはずだ。意味は、一人の女性にしつこくつきまとう男性の事を言い合わらすのだったか。
好奇心が強くて新しい物好きなニオは、私が知ってる変わった言葉を、使うのが楽しいようだ。それでなくとも発見する対象がないと自分で作り出してしまうからよっぽどだろう。
「お、俺がストーカー!? 嘘だろ。……で、ストーカーって何なんだ?」
「うん、ツェルト君のそういうノリの良い所は嫌いじゃないよ」
「俺は苦手だけどな、ニオの事は」
「そういうきっぱり言っちゃうところも面白いよね。玩具みたい」
「俺、人間じゃなくて玩具扱い!?」
もうこの二人放っておいていいだろうか。
「く、ツェルトのやつ俺と剣士ちゃんが仲良くなってるとこに嫉妬するんだったら、そっちも気を遣ってくれたっていいじゃないの。どさくさ紛れにニオちゃんと何してんの」
ライドも、よく分からないことを言ってるのでしばらく放置しておこう。
とりあえず早く結晶を見つけなくては。
部屋の中を調べていく。
広々とした最奥の部屋には、それらしいものは見当たらない。
だが、代わりに結晶が置かれているような場所には特に目立つ物があった。
しかしそれはちょっと目を疑う物なのだ。
「ええと?」
本気でええと、だ。
聞いてない。
話が違う。
おかしい、ああいう物は特異遺跡に存在するものではなかったのだろうか。
「……?」
間違った遺跡に来てしまった?
いや、そんな事は無い。
なんども地図を確認したのだから。
だとしたら、間違いなのは課題挑戦リストに載っていた遺跡の方……?
「ねぇ、みんな」
私は背後でなおも何事かを言い合っている様子の班員達に話しかける。
「見てもらいたい物があるんだけど」
指で指し示すのは、圧倒的な存在感を放つそれ。
大きな石像が一体。台座の上に待機している光景。
「……あれどう思う」
石造の向きはこちらを向いている。
それで、ちょうど通路から出て来た自分達と目が合うような親切設計だった。
ニオ、ツェルト、ライドは言い合いを止めて、それをまじまじと見つめた後、それぞれ感想を述べあった。
「遺跡の番人じゃないかなー」
「門番って感じだな」
「試験官ってやつな」
ニオ達が三人そろって同じような事を、違う言葉で発言。
するとそんな瞬間を見計らっていたかのように、奥にあるその石造が動き出す。
コウモリの様な見た目の石造、おそらくこの遺跡のガーディアンは自らの背についている翼をバサリと、はためかせた。
質量を考えると明らかに飛べそうにない見た目なのに、それでも飛ぶのがガーディアン。
彼等番人は、生物の決まりを無視したような存在なのだ。
乙女ゲームの中のイベントでも時々出てきた。
ホラーっぽい見た目で、ちょっと怖かったのを覚えてる。
こうして見たところ、見た目はまるで変わってないから、ゲームで戦った時の情報は信用できそうだ。
「と、呆けてる場合じゃないわ。皆、気を付けて! 来るわよ!」
翼の生えた巨大な石像、ガーゴイルは石でできているというのに現実の物理法則を無視して、飛翔しながらこちらに襲いかかってきていた。
動きが素早いのは分かっていたので驚きは少ない。
当然向って来たならじっとしてられない、試験クリアの為にも私達は戦って撃破しなければならない。
あまりにも急な事態だが、仕方がない腹をくくって、気合を入れる。
こういう時の為に装備していた剣を鞘から抜いて、構えた。
「はぁっ!」
そして、向って来た相手へすれ違いざまに試しの一撃を入れる。手ごたえが固い。
「わぁお、慌てず騒がずむしろ戦闘体勢に入っちゃうステラちゃん、恰好良い!」
ニオが歓声を上げているが、まず手伝ってほしい。
石像に剣なんかで通用するのかと言いたいが、人間が作った物なのだからやりようはありはずだ。弱点らしきものがないかと探していく。
ゲームの中では別の場所での戦いで水が弱点だったが、ここまで歩いてきた限りこの遺跡内にそんなものはない。
「きゃー、ステラちゃーん。すってきー、かっこいー。熊殺しー」
最後のは関係ないわよね?
「もう、ニオ。気が散るからちょっと静かにしてて」
「あ、ごめんね。つい。ステラちゃんがあまりに凄すぎて」
別にそんなに歓声を上げるほど、できた剣の腕ではないと思うのだが。
私の剣の腕なんか、先生やクラスの教師に比べればまだまだなのだし。
同じように剣を持って、離れた所で敵に相対しているツェルト達を見る。
私も皆も大体私と同じ感じだと思う。
考えながらもちょうどいい位置に石像がやってきたので、機会を見計らって飛び乗ってみる。振り落とされないように、気を付けなければ。
飛翔する生物だったら、上は死角になっていて弱い様に思えるけれどさて、どうなのか……。
切りつけてみる。
「……駄目ね」
固かった。
「俺のステラが普通じゃない件について。普通の人間は飛んでいる石像に飛び乗って、何度も剣を振るったりはできないぜ? まあ、そこも良いとこなんだけど」
「剣士ちゃんって超人なの?」
眼下にいるツェルト達が何か言っている。心外だ。
いや、羽ばたきの音でよく聞こえなかったが、何となく良い事を言われている様には見えなかったのだ。
「まあ色々ステラちゃんの強さについては言いたい事があるけど、一人だけに任せるわけにもいかないよね。よーし、ニオ頑張るぞー!」
ようやくその気になって重い腰を上げたらしいニオが、自分の武器である剣を手にする。
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