第17話 期を待ったので脱走します



 そうしてお歌を歌いながら時間を過ごしていると、夜中になりました。

 うとうとしながら牢屋の中で寝落ち……ログアウトしそうになっていたら突然、爆発音みたいなのがして、びっくり。目が覚めちゃった。


 その後、すぐ外が慌ただしくなって、ガチャガチャ。


 男の見張りの人が近づいてきました。


 けど、扉のすぐ前までやって来たその人は、何と変装していたディール君だったの。


「おい、大丈夫か?」

「ディール君、無事だったんだね。良かったぁ、ミツバさんがいないけど大丈夫?」

「あいつは別の所にいるから平気だ。人の心配より自分の心配をしろよ。それより急ぐぞ」

「えっ?」


 ぼんやりしていた私をディール君はよっこらせ。

 私は米俵みたいに、ひょいっと担ぎ上げられちゃったのです。

 私よく担がれるなぁ。


 ディール君は肩の上にいる私のお腹が痛くならないように位置を調整しながら、話しかけてきます。


「今の内に気を引き締めとけ、管理者不在の世界が大変な事になってるぞ」


 そのままディール君に運ばれていっちゃう私なんだけど、外は言った通りに大変な事になっていました。


 靄がすごくたくさん。

 視界が悪くて、遠くは見渡せなくなっちゃってる。

 バグが起きたんだ。もしかしてこのままだとリセットされちゃうかも。


「そういえば、ディール君、今何日だっけ」

「12月31日、ついでに夜中。確か年代わりの日が明日だな」


 年代わりの日は、私達の世界の言葉でお正月っていうもの。

 大変。今日何とかしないと、この世界がリセットされちゃう。


 このままだと今まで頑張ってきた事がなくなっちゃうよ。

 せっかく観光名所を作ったり、隠しイベントを発見したりして、たくさんの人が来てくれるようになったのに。


 それにディール君達との思い出を、忘れたくない。


 そんな事を考えながらディール君に運ばれていると、近くの窓から外の様子が見れちゃう。


 夜だけど、どこもかしこもたくさんの人たちが騒いでいて、靄が出ていて大変なの。


 どうしよう。

 ディール君の言う通り、もう大変な事になっちゃってる。


 そっか、私が管理者さんだから、他の人はメンテナンスができないんだ。

 私は力とか強くないから、「メンテナンスして」って言われて脅されたりしたら、ちゃんとするのに何でか皆頼んでこなかったなぁ。


 何か他に大変な事でもあったのかも。


 そう言うと、ディール君が「予言についての噂が流れて、暴動が起きた」って返してくれます。

 それじゃあ、きっととっても大変だったんだろうな。


 ディール君は窓の外をちらっと見て呟きます。


「まるで、この世の終わりの景色だな。飛ぶぞ。しっかり捕まってろ」

「えっ? うん。わわっ!」


 ディール君は窓を破って、そこからジャンプ。

 下にあるテラスとか、木とかに飛び移って移動していくの。


 あ、あの木、ちょうどいいかも。


 私は思いついたままに「緑の森」を歌います。

 木さんは元気ににょきにょき。

 足場になる為に、ちょっとだけ大きくなってくれました。


「すげぇな。そんな事できるのかよ。初耳」


 えへへ、驚かせちゃった。


 コツとかあって、アレンジしてメンテナンス用の言葉をたくさん入れると思った通りに動かしやすいんだ。


 その後も、追手さん達が追いかけてこようとするけど、ディール君は器用にその人達の間を縫うようにして、木の枝の上とかを走っちゃう。

 私は今の所は、振り落とされないように頑張ってしがみつくしかないのです。


 でも、それでも追手さん達の数が多かったせいで、途中で追いつかれちゃいそうになるんだけど。


「ディール様、管理者様! ここは我らにお任せを!」


 やって来た兵士さんみたいな人達に助けられちゃったのです。

 どこかで見たような恰好の人だなぁ。


 あ、思い出した。


 神聖国でサクヤ様の周りにいた兵士さん達だ。


 サクヤ様が靄を何とかする為に活動してた時に、近くにいた人たちなのです。


 なら、もしかしてサクヤ様が協力してくれてるのかな。


「さすがにお前でも分かるか。そうだ神聖国の連中だ。無理を言って協力を取り付けた。これが終わったら、あっちの復興に手を貸すって条件でだけどな」

「私知ってるよ、そういうのえっと……持ちつ持たれつだね。でも、条件がなくてもサクヤ様は私の友達だから、復興のお手伝いくらいはします」

「一国の姫さんを友達扱いできるのは、ハルカぐらいのもんだな」


 そんな事を言いながらも、私達は追手さん達から逃げ続けました。

 そして向かったのは、当然メンテナンスの為の塔です。


 建物の外に出ると、「カリン」っていう柑橘系の果物が特産の町が広がってるんだけど、夜だし靄が出てるからよく見えないの。


 町の人達はお尋ね者で追いかけられてる私達に気が付くんだけど、自分達の事で手一杯って感じで、見向きもしない感じ。


 今は世界中がこんな大変な感じなんだって。


 ここまで来るのに、説明してもらった事だけど。管理者権限を継承した私がお仕事をしなかったせいで、世界の歪みがたまっちゃったらしいの。


 でも不思議なんです、私を牢屋で大人しくしてたら、世界が大変な事になっちゃうのに、本当に誰も私にお願いしなかったのかな。お願いが嫌なら「やりなさい」って命令とかでもした方が良いと思うのに。


 そう考えればディール君が、説明してくれます。


「自分達の権威を高める為だろ。管理者が変わった事は世間には公表されていないんだ。表向きには、ちゃんと管理者権限は然るべき人間に継承されて、仕事をしているって事になってる」


 ふむふむ。

 つまり、「私達はとんでもない事になってないですよ、大丈夫ですよ」って見栄を張ってたって事なんだよね。


「で、こうやって世界で異変が起きてるのは、予言を蔑ろにする人間のせいだって事にしてる。ギリギリまで、人の不安をあおりたいらしい。予言を蔑ろにするのは、神の異に逆らうに等しいって感じでな。でも暴動でその目論見が暴かれて、お前に頼む時間とか暇がなくなったって事」


 油断が招いたピンチってことかな。

 でもそれって、自分達の為に悪戯に皆を不安がらせてるって事だよね。

 とてもひどいなって思うのです。


「連中はそうやって定期的に危機を演出して、人々の予言への依存を高めている。もう予言なんかにすがるのは止めにするべきだ」

「だから、ディール君達はその人達に逆らって予言をなくそうとしてるの?」

「そういう事だ」


 ディール君の気持ち、ちょっとしか分かってあげられないけど、でもきっと辛いんだろうな。


 自然災害って、起きたらどうしようもないって思えるけど、先の事が分からないからこそ、その気持ちを飲み込める事ってあるのと思うのです。

 対策したり頑張ったりして、その時を一生懸命生き延びようって思って、それで初めて皆無事だったり無事じゃなかったりするの。


 でもそうやって積み重ねで決められる結果が、初めから全部決まってたなんて嫌だよね。


 もしかしてそうやってディール君みたいな人達が努力してきたらか、管理者さん用の言葉は、現実世界に生きる私も理解できる言葉になってたのかも。


 この世界の人たちが何とか運命を変えようって、えーっと、神様みたいなプログラムを変えようとしてたんだ。

 ……っていうのは考え過ぎかな。


 そういえば、マキーナさんの事言わなくちゃ。


「あのね、ディール君。マキーナさんの事だけど」

「あぁ、あの野郎。よくも騙してくれやがったな。言葉巧みに、追手をけしかけらえて腹が立ったぜ」


 やっぱり、マキーナさんがディール君達を遠くにやっちゃったんだ。

 もしかしてそうかもって、思ってたけど、やっぱり悲しいのです。


 でも、気持ちが沈んじゃうのは後。今は言わなくちゃいけない事があるの。


「実はね、ディール君。そのマキーナさん、私達が予言を守ろうとしてる人だって勘違いしてるみたいなの」


 とりあえず、事情を説明しなくちゃだよね。


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