第16話 捕まってしまいました



 神聖国


 国の各所からあふれ出す靄……瘴気への対策を行っていたサクヤは、このところ各地で起こっている異変に首を傾げていた。


 今までは神聖国の周辺だけに出ていた瘴気が他の地域でも、噴出する様になって、その数が日に日に多くなっていているのだ。


 その影響で、瘴気への対策を講じていた神聖国の知恵を借りようと思った各国からの、助力願いがひっきりなしに来るようになり、そちらの対応にも悩まされるようになってしまった。


 まるで何かとてつもなく良くない事がおこる、そんな先触れのようだと、サクヤは感じていた。


「一体何が原因だ」


 サクヤには、神聖国を統治する者の義務として、この地を収める義務があった。


 だから叶う事なら、これ以上被害がひろがる前に対策を打ち出したいと、そう思っていた。


 だが、どれだけサクヤが調査しても、異変の原因は分からずじまい。

 原因究明に関しては、打つ手なしと言った状況だった。

 

 今はどうにか対策をとれてはいる状況だが、このまま被害が増え始めたらいよいよ手に負えなくなってしまうだろう、という所まできている。


 そんな時、思わぬ知らせを受けた。


 数日前に、国の被害を減らす為の行為に協力してくれた少女ハルカが攫われたと、ミツバ達が寄越した使者チョコがやってきたのだ。





 ??? 牢屋

 どうやら私はマキーナさんに、騙されちゃったみたいです。

 それで、怖い人達に捕まってしまいました。

 とっても大変。すっごく大変。

 どうしようかなぁ。


 それでね、何と私はいま追手さん達にどこかへと連れていかれて、閉じ込められてしまっています。

 これってたぶん結構なピンチだと思うの。


 何とかしなくちゃって思うけど、でも私一人じゃどうにもないらないかも。

 偶然のチャンスがやってくるか、助けを待つしかない状態なのです。

 とってもとっても困ってます。


 大変でも大変そうに見えないってよく友達に言われるけど、本当に大変だって思ってるんだよ?


「でも、私を捕まえた人達は何が目的でこんな事をしてるんだろう」


 うーん。


ミツバさんが私に「選んだ管理者さんを傀儡にして、自分に都合のいい予言だけを皆に教えてるんだよ」って、勉強の合間にが教えてくれたけど……。


 それってつまりどういう事かな。


 予言って教えても教えなくても、言われた通りの事が起こるんだよね。


 だったら、教えても教えなくても同じなんじゃないかなぁって思うんだけど……。


 怨霊さん達がもしかして悪い人たちの為に予言の当たり外れを操作してるのかな。都合の良いようにやって、それで、恨みを晴らしてる?


 運命なんて操れるのかなって思うけど。

 運命が分かるんだったら、できるのかな。


 だったら、私も怨霊さん達みたいにやれば、この世界がリセットされないようにできる……?


 うーん、考えても全然分からないや。

 こういう難しい事はミツバさんの役目だよね。


 今度機会があったら聞いてみよう。


 それか、今度のメンテナンスの時に調べてみよっと。


「ミツバさんも、ディール君も大丈夫かなぁ」


 追っ手さん達を引き付けるって言って分かれたきりだから心配なのです。


 そんな風にぼんやりと考え事をしていると、目の前にネズミさんがやってきました。


「あっ」


 この世界にいる動物の大抵は、現実にはない見た目をしてるの。

 だから、目の前にいるネズミさんも、ちょっとまだら模様でパンダっぽくて可愛いのです。


 そういえば、前にお役所さんで見たネズミさんも変わった模様してたなぁ。

 ネズミさんはこっちに気が付くと立ち止まって、牢屋の中に入って来ました。


「きゅきゅ!」


 そして私の方を見上げてひと鳴き。

 とっても可愛い声でした。


 でも、本物のネズミってこんな鳴き声だったかなぁ。

 まあ、どっちでもいいよね、今は。


 それにしてもこのネズミさん、どうして私の所にやって来たんだろう。

 お話したかったのかな。


「あれ?」


 よく見てみると、ネズミさんの体には、小さな紙切れが紐でくくられてるみたい。


「ひょっとしてお手紙を運んできてくれたの?」


 疑問に思って聞いてみれば、ネズミさんは再び「きゅきゅっ!」とひと鳴き。


 私は、そっとその紐を外して、くくられていた手紙を広げてみます。


 文字がちょっとだけ書いてあるみたい。

 あと、最後に三つ葉のクローバーのマーク。


「えーと……期を待て?」


 もうすぐチャンスがやってくるだろうから、その時まで待っててっていう意味だよね。


 もしかして、ミツバさん達からの手紙なのかなぁ。


 とりあえず、私宛の手紙を運んでくれたネズミさんにはお礼を言わなくちゃ。


「ネズミさん、お手紙ありがとうございました」


 お辞儀をすると、ネズミさんもぺこり。


 最後に私の読んだ手紙を口で加えて、そのままどこかへと言っちゃった。


 ちっちゃなまだら模様の背中を見送りながら、私は考えてみます。


 手紙の差出人さんが、ミツバさん達かどうかは分からなかったけれど、助けに来てくれる人がいるのなら、そう大変な状況でもないのかも。


 不安になっててもしょうがないよね。気楽にいようっと。





 それから少し経ちました。

 牢屋の中に閉じ込められてしまった私だけど、思ったより中の生活はそんなに不便ではないのです。


 お部屋の中はそんなに狭くなくて、歩き周れるくらいの広さはあるし、ご飯も三食ちゃんともらえてます。ベッドはちょっと固いけど、そんなに気にならないし、思った程じゃなかったかなあ。


 でも、何もする事がないのはつまらないから、たまに歌を歌うんだ。


 楽しいお歌とか、悲しいお歌とか、色んな歌をたくさん。


 だってあんまりにもやる事がないのです。

 だから、私の知ってる歌を全部歌っちゃった。


 他に歌っていないのは、この世界で覚えた歌くらいかなぁ。


 あのね、こっちの世界にも私達の世界と同じように童謡とか伝承歌とか、そんなのがたくさんあるんだ。


 七色に光る竜のお話とか、お花の精霊さんのお話とか、そんなのがたくさん。


 現実にはないだろうなってお歌がたくさんあって、私はちょっぴり楽しいのです。


 そんなわけだから、現実世界の歌のレパートリーが尽きた私は、この世界の歌を歌って時間を使う事にしたんだけど……。


「あれ?」


 歌を歌っている時に、ちょっとした異変が起きたの。


 牢屋の外、たぶん入って来た人の靴とかにくっついてきた土が、床の溝に溜まっていたんだと思うけど、なんとその土から植物が生えてたのです。


 にょろにょろ、にょきにょきって。


 びっくりしちゃった。


 だから、歌を歌うのを止めてじっと見つめてみるんだけど、その子は成長するのを止めちゃった。


「うーん」


 でも、私がもう一度歌を歌うとにょきにょき。


 そういえば、この間塔の中で歌を歌った時、この世界でおかしな事が起こったんだよね。


 うんやっぱり、私の歌には今のこの世界を変えちゃう力があるみたい。

 あの時はメンテナンスの最中だったけど、外でもできるのかなぁ。


 ミツバさんは、その仕組みについて前に詳しくく教えてくれて、私のイメージが塔への命令になって、現実を書き変えたって言ってたけど、難しかったから良く理解できていないのです。ごめんなさい。


 今私が歌ったのは、「緑の森」っていう歌で。「とっても綺麗な緑がたくさんある場所があるよ、行ってみよう」って歌なんだけど、それと関係があるのかなあ。


 でも良かった、ここから脱出する時にこの力が使えそうかも。


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