第15話 マキーナさんの過去を傾聴です
そういうわけなので、今回は完全に私一人で塔の中の作業を行う事になりました。
皆で中に入っちゃったら、追手さん達に妨害されちゃうから。
二度目の時は確認のために、ミツバさん達は同じ建物の中にいてくれたけど、今回はそれすらもない状態。
しょうがないよね。
ミツバさん達は囮として、塔の周囲で張り込んでる人達を引きつけなくちゃいけないの。
でも、私もきちんと勉強して成長しました。ポッドに入って、宇宙みたいな所に行って、お仕事お仕事。
前の時よりも全然迷わなかったのです。
あれからずっとミツバさんにお勉強を教えてもらったから、手順は完璧に覚えちゃった。
だから、私は数分もかからずに管理者さんの作業を終えたの。
だけど、塔の外に出ると人の影が全然なくて、ちょっと困っちゃう。
「ミツバさーん、デイールくーん!」
呼んでみたけど返事が来ないの。
もしかしてどこかで怪我をして動けなくなっちゃったのかな。
それはとても大変なのです。
少しだけ、胸の中がもやもや。
二人の無事な姿が見つからない事には、晴れてくれそうにないかも。
「探しに行かなくちゃ」
けれど、周囲を歩き周っても二人の姿は見つからないまま。
こういう時、会いたい人の姿が中々見えないととっても心配になっちゃう。
どこに行っちゃったんだろう。
「お嬢さん、お嬢さん」
けれどね、マキーナさんだけは比較的すぐに見つける事が出来たの。
まるまるさんのボディがころころやってきて、私に話しかけてくれます。
「マキーナさん。良かった。怪我とかしてないですか?」
「まあね。お嬢さんが頑張ってるんだから、負けてられんと思っちゃっておじさん張りきっちゃった。ところで、向こうの方で怪我をしたお二方が呼んでるんだが。ちょっと付いてきちゃくれないかねぇ」
「大変、早く行かなくちゃ。マキーナさん、教えてくれてありがとう」
わざわざ私を呼ぶって事は、ひょっとして、動けないって事なのかな。手当てが必要だったら。どうしよう。
自慢じゃないけど、消毒液をかけて包帯をまくくらいしかできないから、大変な怪我だったら、ちゃんとしたお医者さんを探さなくちゃいけないのです。
私に二人を運べる力があったら良かったんだけど……。
「でも、そうと見せかけてお嬢さんを危ないところにつれて言っちゃうかもしれないよ、おじさん。それでもお嬢さんはついてくるかい?」
「うーん。よく分からないけど、何かあってもきっと何とかなる気がするの。だから大丈夫だと思うのです」
「お嬢さんって……、まあ、いいや。付いてきな」
マキーナさんは何かを言いかけるけど、途中で止めちゃった。
丸い体を動かして、私を先導する様に前を進んでいくの。
さっきは、何て言おうとしたんだろう。
ちょっと気になっちゃうなぁ。
それからたぶん小一時間くらい歩いたと思います。
先を歩くマキーナさんの先導に従って、とことこ。
けれど、歩いても歩いてもミツバさんもディール君の姿も見当たらなくて、ちょっと困っちゃう。
二人共、どこまで行っちゃったんだろう。
そんな風に思っていれば、私が退屈していると思ったのかマキーナさんは色々なお話をしてくれるようになったの。
クライム=ノルドの復興の話や、地震が起きる前の事。
セントラルシティの事や神聖国の事なんかも。
後は……。
「おじさんには昔、女の子の子供がいたんだよねー」
マキーナさん自身の昔話とか。
「マキーナさんって、お父さんだったんですね」
「ああ、良い父親じゃあなかったけどね」
そうは言うけど、マキーナさんの話してくれる内容はとても素敵なものでした。
奥さんと二人で生まれて来た赤ちゃんの面倒を見て、どんな名前にしようかとか考えたり、どんな人に育つのかなって想像したり。
毎日お仕事を早く終わらせて帰って、たまにはお給料でプレゼントを買ったり。
きらきらで、あったかくて、ふわふわで。
それはそれは、とっても素敵な思い出の話だったの。
「いいなぁ。私その子に会ってみたいな。きっととっても素敵な子だと思うな」
「ははは、きっと気が合ってただろうね。おじさん贔屓の目で見ても、良い子に育ったはずなんだよ。けど……」
マキーナさんの声が少し沈んで、進む速度が遅くなっちゃう。
どうしてかな。そんなはずはないのに、マキーナさんの体がさっきより小っちゃくなっちゃった様に見えるのです。
「あの子は予言通りに死んでしまったんだ。決められた運命どおりに。こんなのってないだろ?」
「マキーナさん……」
「何で運命なんて決まってるんだろうね。悲劇は避けられないんだ。死ねと言われたらどうして必ずどうして死ななくちゃいけない」
マキーナさんは凄く辛そうな声。
私はそれに何かを言ってあげたいけど、言えないのです。
それはバグだから、って言うのはきっと違うよね。
この世界の住人ではない私には、予言の事で起きた事についてはあんまり実感できないの。
そんな私に、ここで生きてる人の人生を良く知らずに何かを言う資格はないと思うから。
「だから、俺は予言を無くそうと思ったんだ。もう二度と、俺みたいな思いをする奴がいなくなるように」
「マキーナさんは、自分みたいな思いを他の人に味わってほしくなくて頑張ってるんですね。それってとてもすごい事だと思うのです。簡単には出来ない事だなって」
絶望して、俯いて、膝を抱えちゃっても良い話なのに。
マキーナさんはそうしなかった。
それってきっと、とても凄く立派な事だと思います。
私は足元にいるマキーナさんを持ちあげて、抱きしめて、ぎゅうっとしちゃいます。
「私もマキーナさんの事、すごく応援しちゃいます。何かあったら力を貸しちゃいますから」
「そうかい? いやぁ、年頃の女の子に抱擁されちゃうなんておじさん照れちゃうねぇ」
だけど、とマキーナさんは続ける。
「お嬢さん達は予言を守ろうとしてるんだろう。だったら……」
そう言ってマキーナさんは私の腕の中から飛び降りて、まるまるのボディーからアームを出しました。
そして筒みたいなのを出して花火を打ち出します。
今はお昼だから夜みたいにはいかないけど、とっても綺麗。
現実でお昼の花火なんて見てないから、、こんなに綺麗に見えるのか分からないけど、とてもキラキラしてるの。
お祭りの時にたくさん上がるのも良いけど、一つだけっていうのも良いと思うのです。
「おじさん達はそれを邪魔しなくちゃいけないんだよねぇ。だから、悪く思わないでね」
そうマキーナさんが言い終えると、どこからともなくたくさんの人たちが表れちゃう。
その人達は、今まで私達を追いかけていた人達にとってもよく似ていて……。
あんまり察しが良くないほうだと言われてる私でも、この状況はちょっと分かっちゃうのです。
「あ、私騙されちゃったかも」
どうやら私はマキーナさんに嵌められちゃったみたいなのです。
とってもとっても、すっごく大変。
私はディール君達みたいに戦う力もないし、素早く逃げる足もないので捕まっちゃうしかないのでした。
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