第14話 マキーナさん拾いました



 それから半日後。

 神聖国の周辺の管理の塔で調整を終えた私達はとうとうその国から出なくちゃいけない事になりました。


 居心地は良かったけど、管理者さんのお仕事をする為にはいつまでも同じとこには留まってられないのです。

 あと、追手さん達が思ったより強気の姿勢で追いかけて来てるみたいだから、今の神聖国に迷惑はかけられないみたい。


 夕暮れが近いけど、今の内に近くの村まで移動するんだって。

 運よく行けたら、その近くにある塔でメンテナンスも行う予定。


 一日に二回もやるなんて初めてだけど、それだけ切羽詰まってるって事だもんね。

 気合入れなくちゃ。


 そんなこんななので、私達はサクヤ様達に見送られて、ちょっと慣れつつあった景色にさよなら。

 さみしかったなぁ。


 国から出ちゃったあとは、私達は再び追手さんに気をつけなくちゃいけません。


 だけど。


「気をつけろって言ったそばから、何拾ってきてんだよ」

「ごめんなさいディール君」


 今私はディール君に怒られてます。

 ちょうど道の端に転がってたのが見えたから、マキナ・ボールのマキーナさんを拾ってきちゃったんだ。


 ポイ捨てはよくないと思うの。

 マキーナさんじゃなくても、まるまるっとした鉄の塊さんが落ちてるのは自然に良くないなって思って。 

 だけど、私がそんな事を言えば、ディール君はとっても不満そう。


「ごみじゃないだろ。あからさまにあやしいだろ、これ。拾ったとこに戻してこい。いや、それだと手間だ。ここで捨てる」

「駄目だよディール君。拾っちゃったのは確かに悪い事だったかもしれないけど、ちゃんと責任を持って面倒を見てあげなくちゃ」

「犬か猫じゃねぇんだぞ!」


 むむむ。

 ディール君はちょっと疑い深すぎると思います。


 マキーナさんは、私の腕から足元に落ちて、場を取り成す様に跳ねてくれます。


「ヤアヤア、お嬢さんは優しいなあ」


 悪い人には見えないんだけどなぁ。

 マキーナさんが私達に悪い事したわけじゃないし、もう少し優しくしてあげても良いと思ったの。


 だけど、私は後になってちょっと後悔しちゃうの。


 確かに無闇に人を違うのは良くない事かもしれないけど、そのせいで友達や他の人達を危ない目に遭わせちゃいけないと思うから。

 うーん、私ってすすんで何かを悪く考えるの苦手だからなぁ。


 後でそう言えば、ミツバさんが「そんなハルカさんの代わりに疑うのが私達の仕事ですからね」言ってくれたけど……。


 マキーナさんを眺めたミツバさんが、私達を取り成す様に話してくれます。


「まあ、とにかくディールは一旦矛を収めてください。関わってしまった以上は、仕方がありません。むしろ、こちらから情報を探るくらいの気でいれば良いのではないですか? 私達が国を出た事で、向こうの動向が掴みづらくなってますし」

「だけどなぁ」


 二人で何やら難しい事を話し始めちゃった。


 私じゃあのお話にはまざれそうにないの。

 ちょっと手持ちぶさただから、抱えなおしたマキーナさんに質問。


「ねぇ、マキーナさんは悪い人なのかな」


 そしたら、ちょっとだけ呆れたような言葉が返ってきました。


「おやおや、お嬢さんは、本当に人を疑わない純粋な子だね」

「そうかなぁ」

「じゃあ、お嬢さん。おじさんが悪い人だって言ったらどうするつもりだい?」

「マキーナさんっておじさんだったんだ」

「あ、そこまず驚くのね」


 だってマキーナさんって真ん丸でピカピカしてて無機物だから、見た目じゃ年齢が分からないもの。

 そういえば、前にクライム=ノルドにいた時そんな事言ってたっけかなぁ。


「子供のマキーナさんだったら、もっと小っちゃかったのかなぁ」

「もしもし、お嬢ちゃん。ひょっとしてこの体がおじさんの本体だって勘違いしてなぁい?」


 あれ、違うのかな。


 小っちゃいまるさんが大きくなってマキーナさんになったんじゃないみたいです。


「変なお嬢ちゃんだな……。まあ、いいや。それでさっきの質問だけど、おじさんが悪い人だったら、どうするつもりなんだい」

「めって言います」

「目?」

「駄目って事の省略なのです」

「いや、めって……。子供じゃあるまいし」

「悪い事を叱るのに、大人も子供もないと思うのです。ちゃんと駄目だよって叱って、正しいと思う事を教えてあげなくちゃ」

「なる程、確かにそうだね。本当に、お嬢ちゃんって変わってるねぇ」






 とりあえず、マキーナさん拾いの話し合いはミツバさんの勝ちって事になったみたい。

 ディール君は不満そうだたけど、マキーナさんと一緒に旅が出来るようになったのはちょっと楽しいの。


「ほれ、お嬢ちゃん。お近づきのしるしにどうぞ」

「わぁ、美味しそう。ありがとうございます」


 マキーナさんはまるまるボディの中から、美味しそうなキャンディをだして私に差し出してくれます。

 この前のとは違ってブドウの形をした、黒ブトー飴です。

 ソラ林檎より、ちょっと高いの。


 けど黒ブトー飴を受け取ったら、ディール君に叱られちゃった。


「こら、変な奴からもらった変なもんを食べようとすんじゃねぇ」

「変な物じゃないよ、飴さんだよ。ディール君」

「それは知ってるって。いや、見た目は飴かもしれないけど、中に毒でも入ってたらどうすんだよ」

「んー。何となく大丈夫だと思うよ」


 あ、飴さんがくっついてる棒の模様、綺麗で可愛いな、舐めたらとっておこうかな。


「何となくって」


 私が飴さんをなめると、ディール君は呆れた顔になっちゃった。

 肩をがっくりとさせて深々とため息ついてます。

 どうしちゃったんだろう。


 ディール君が元気がないのに、私一人で美味しい物を食べちゃうわけにもいかないよね。

 私はマキーナさんからもらった飴を紙で包んで、ポケットの中へとそっとしまっておきます。


 そんな事をしてるとミツバさんが、私の頭をなでながらディール君に話しかけました。


「そこがハルカさんの良い所じゃないですか、ディール。無闇に人を疑う人と一緒にいるよりは、ハルカさんといた方が楽しいでしょう?」

「それは一理あるけどな」


 えへへ、ミツバさん優しい。


 楽しいって言われるのは、ちょっと嬉しいのです。


 とりあえずやる事がなくなっちゃったので、メンテナンスをする場所にある塔までの事を尋ねようと思います。


「ミツバさん。目的地まであとどれくらいですか」

「そうですね。もう少しだと思いますよ。ほら見えてきました」

「わ、本当だ。今までのと違ってすごく立派なんですね」


 これまでに二か所の所と違って、近くに人の住む建物がないから、管理する為の施設は大きな塔の中にあるの。

 それがとっても大きくて立派な塔の中にあるから、私は見上げて見なくちゃいけないのです。


「ええ、それはそうですね。予言を司る施設は民たちの精神的な支えですから。見た目を立派にしないと、安心感より不安感を覚えてしまうでしょう?」


 確かにそうかも。

 地震とか災害で倒れちゃわないかなって、いつも思っちゃうような建物じゃ、何だか全然凄くなさそうだもの。

 それに見てる時に心配になっちゃう。


 そんな風に話していると、私の腕に抱えられてるマキーナさんが声を上げてミツバさんにお話です。


「楽しそうにお喋りしてる所、申し訳ないけどな。それよりいいのかお役人さん。招かれざるお客さんがやってきたようだぜ」


 いつもと同じ声音だったんだけど、私と話してる時とはちょっぴり違う感じ。

 でも、こっちの方がマキーナさんらしいって思うのです。


 私には「お嬢さん」って壁を作ってる感じ。

 丁寧接してくれるのは嬉しいけど、ちょっと悲しいのです。


 ディール君が、歩いてきた道を振り返ってミツバさんにたずねます。


「お客って……、追手か?」

「その様ですね。けれど、追いついてきたのではなく、塔で張り込んでいるようです。けれど行かざるを得ないのが辛い所です。協力感謝します。鋼鉄の戦士さん」

「よせよ。可愛いお嬢さんに言われるならともかく、野郎に持ちあげられると背中がムズムズするぜ」


 私はまんまるボディを見つめて、探すけど……。

 マキーナさんの背中ってどこだろう。 

 ちょっと気になっちゃうのでした。


「ハルカさん、今回は作戦上一人にしてしまいますが、安心してください。貴方は私達がちゃんと守りますから」

「うん、安心してます!」


 ミツバさん達は心配そうだけど、私は大丈夫。

 だって、ディール君達の事信じてるから。


 だから大丈夫だよって、力一杯に断言すんだけどミツバさんに苦笑されちゃう。何かおかしい事言ったかなぁ。


「あなたが管理者で良かったとつくづく思いますよ。この身に変えても守りたくなる」


 あ、でも。信頼はしてるけど、犠牲になるのは駄目だと思います。

 ミツバさんは私の手をとって、自分の両手で包みます。


「貴方に女神の加護を……。これから何かをする時に、必ずそれは成功するというおまじないです」

「本当ですか。ありがとうございます! 私、とってもとっても気合を入れて、お仕事を頑張りますね」


 おまじないは気休めだって言う人もいるけど、私は結構を信じちゃうんだよね。

 頑張れって言ってくれてるその人の為に、私も頑張ろうって思えてきちゃうから。


 よーし、ミツバさん達の為にも管理者さんの仕事しっかりこなさなくちゃ!


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