第13話 このゲームリセットされちゃうみたいです


 

 それから。

 靄の事をミツバさんに伝えて、サクヤ様に伝えてもらって確認してもらったら、数日が経過しました。


 クリスマスはやっぱりすぎちゃって、私の目標は達成失敗。

 悲しかったけど、次の楽しみが増えたって事にして、今は管理者さんのお勉強に力を入れてます。


 あ、そういえば靄の事を教えた後サクヤ様には、「どうもありがとう」ってお礼を言われちゃった。


 それであの靄の吹きだしていた場所は、囲ったりして皆の住んでる場所に流れていかないようにどうにか対処してるみたい。

 今は原因を根源的にどうにかできないか研究してるみたいなんだ。

 当たらく病気になる人もけっこう減ったんだって。


 私もあれから歌で何かできないかなって思うんだけど、管理者の仕事は短期間にやると負担が大きいらしくて、塔にはまだ行けていないの。


 できるのは、せめて病気で病院にいる人達に「元気だしてね」ってお歌を歌って聞かせてあげる事くらいかな。

 空気感染するものではないみたいだから、病室に行っても大丈夫なのです。

 それが救いだったかも。


 そんな風にして、またミツバさんにお勉強を教えてもらいながら過ごしていると、気になるあの人と再会がしました。


 それは私が気分転換をする為に、神聖国の中をお散歩していた時の事です。


 小さくてかわいい犬さんが気になって、一緒についてきてくれたディール君とはぐれちゃった時の事。獣人の人と一緒にお散歩してて、飼い主さんも犬さんもとってもよく似てたからつい気になっちゃった。


 それでディール君を探して歩いてたんだけど、通りを歩く人にちょこっとぶつかりかけちゃった。


「わわっ!」


 こういう時、大変だよね。


 不注意で相手を怪我させちゃったらすっごく悲しいもの。


「ご、ごめんなさい」

「こっちこそごめん」


 幸いにもその人は、地面に転んだりすることなく立ってます。

 良かった。


 私はその人に頭を下げます。


「あの、大丈夫ですか?」


 とりあえずぶつかった人にそう声をかけると、その人は安心させるようににっこり笑ってほほ笑んでくれます。


「ええ。そっちはどこか怪我した?」

「私は大丈夫。こう見えても結構丈夫なのが取り柄なのです」

「そう。まあゲームだし当然か」

「ふぇ?」


 いつも運動やってる人にはかなわないけれど、私だってそれなりに体力はあるもの。

 だから、ちょっとやそっとの衝撃で怪我をしたりはしないのです。

 

 って思ってたんだけど、遅れて気がついたの。

 今ゲームって言ったよね。

 じゃあプレイヤーさんかな。


 そう思ってると、向こうの人が頭を下げてきました。


 あれ? よく見たら、メールで送られてきたチョコってプレイヤーさんの姿とそっくり。


 小麦色の肌に、チョコレート色の髪をした大人なお姉さん。


「あ、ブログで情報を教えてくれた……えっとチョコさん?」

「ええ、おせっかいかと思ったけど、世話を焼きに来たわ。面倒な前置きは苦手だからさくっと話すけど、この世界の歴史は知ってる?」

「えっと、うーん」


 分かりません。

 正直に話すと、チョコさんは一息ついて教えてくれるって。


「説明するわ」


 ごめんなさい、不勉強で。

 チョコさんが言うには、この世界にはこういう歴史があるみたい。


 この世界は、一度文明が滅んでるんだって。

 それで、次の時代……つまりディール君達が生きている時代ができたんだけど、前の時代の人の怨霊みたいなのが残っていて、その人達の念が予言の力となってるの。それで、文明が繁栄してみんなが幸せにならないように予言で仕組んでいるみたい。


 それだけじゃなくて、その人達は負の念を強めていって、世界を滅ぼそうとしてるみたいなの。

 それがサクヤさんが困ってる靄の原因みたい。


 あとは、お金とか出世とかが好きそうな人の意識をちょっとずつ刺激していって、予言を守らせる世の中にしたり、都合の良い世の中にしたり、その為の制度を作らせたりとかもしてるんだって。


「それがこのゲーム世界の設定。覚えておいて、ゲームのバグに合わせたように、そう作られた後付けのシナリオだけど」

「えっと?」


 ううん、難しくなってきちゃったな。

 つまり歴史だけど、本当の歴史じゃないって事かな。


「本当のところはこうよ」


 チョコさんはその先も説明してくれました。


 初期に作られたこのオンライン・ゲームは安売りされていた事情から分かる様にバグの宝庫だったみたい。


 私みたいにセントラルシティから移動せずに、一か所でクエストをこなしているだけなら支障はないみたいなんだけど、外に出て色んな所に長時間移動すると、アバターを動かせなくなっちゃったり、強制的にログアウトしちゃったりするんだって。


 そして、極めつけはゲーム内時間のリセット。


 細かいバグが連続して起こると、ゲームで積み重ねられた事がリセットされて、今までの事が無かった事になっちゃうんだって。


 チョコさんは、コンピュータ関連の学校にも通ってるらしくて、難しいコンピュータの言葉や言語についても教えてくれて、文字テキストみたいなのを見せて説明してくれました。


 だけど、私が分かったのは、そんな現象が起こるのが本当らしいって事くらい。

 そっちはよく分かりませんでした。ごめんなさい。


「……というわけなお。この世界はもうじき……正月にリセットされるわ。そのバグのつじつまを合わせる為に、怨霊たちがこの世界を壊す演出が起きる」

「そんな、何とかできないんですか。チョコさん」


 チョコさんの辛そうな顔を見て、私は気づいちゃいます。

 チョコさんも、この世界で多くの時間を過ごしてたんだって。


「悪いけど、それは無理よ。このゲームに長い事いない方がいいわ、過ごす時間が増えるほど、辛くなるもの」


 でも、どうしよう、ミツバさんやディール君の記憶が消えちゃうなんて、そんなの嫌だよ。





 今日は12月28日。

 一月になるまでもうあと数日しかない。

 たった数日しか、私の知ってるディール君達といられないなんで、嫌だな。


 私はいつものようにミツバさんのお勉強をした後に、建物の中をお散歩。のんびり歩いているとディール君に逢いました。

 昼間にはぐれちゃったから、ちょっと気まずいかも。

 でも、そんな気まずさも感じられなくなっちゃうのが寂しくて、私はついうるっとしちゃうのです。


「ディール君……」

「何だよ、どうした。元気出せよ。いつものお前なら、もっと明るいだろ」

「うん、ごめんね」

「謝るなって、調子狂うだろ。こういう時はお前なら、ありがとうって言うはずだろ」

「あ、そうだったね」


 ディール君は私の頭を撫でてくれる。

 優しいな。

 ふだんはちょっと意地悪だけど、私はディール君が本当は優しいって知ってます。

 その優しさでクエストを何度も助けてもらったから。


 けど、その思い出もなくなっちゃうのかな。


「あのね、ディール君、記憶が消えちゃったら悲しいかなぁ」

「まあ、そりゃな」

「ディール君は、皆と過ごした記憶失くしたくないよね」

「そうだけど、何か悩み事でもあるのか?」

「ちょっとね。あのね……」


 うまくできたかどうか分からないけど、私はところどころぼかしながら事情を説明していきます。


「つまりお前の読んだ本の物語がそういう世界で、主人公がそんな辛い状況になってるってわけか」

「どうすれば良いかなぁ」

「そんなの決まってるだろ」

「ふぇ?」

 

 私はディール君の言葉にあっけにとられちゃう。

 ずっとどうしようって思ってたのに、ディール君はすぐに答えが見つかったみたい。


「辛い事から逃げれるのに、そうしないのは何とかしたいからだろ」

「えっと、でも、その方歩が分からないから困ってるんだよ」

「何とかできる方法とかは俺にも分かんねーよ、頭良くないし。でも、後悔しない方法なら知ってる。逃げない事だ」

「逃げない事」


 私の胸の中で、もやもやしていたのがすっと晴れていっちゃう。


 そっか、そうだよね。

 嫌なら、頑張るしかないんだ。

 悲しんでるより、精一杯努力しなくちゃ。

 そうしなきゃ、きっともっと後悔しちゃう。


「ありがとうディール君」

「お、いつものお前だな。ミツバが部屋でサクヤ王女からもらってきた菓子持ってまってるぞ」

「わぁ、ほんとう? 楽しみ!」


 よーし、元気出てきちゃった。

 もうちょっと頑張ってみよう。


 そう思った瞬間、私はある事に気がついちゃったのです。


 あれ? ミツバさんが教えてくれた管理者の知識、チョコさんの教えてくれたコンピューターの言語と似てるかも。もしかして、何とかできるかもしれない。


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