第11話 お勉強と息抜きします
とりあえずお勉強する前に、復習しなくちゃ。
どうして管理者さんのお勉強をすると、神聖国の人達を助ける事に繋がるのか。
それを説明するには、「近所の21さん」の情報を詳しく見てみなくちゃ駄目だね。
それは「近所の21さん」が管理者さんとして、お仕事をした時の事なんだけど、ちょっとした事故で色んな人の見ている景色が分かっちゃうことがあったみたいなの。
その後の事で……。
私みたいに仕事が終わった後、歌を口ずんでいたその人は、星の海の中に何か黒い靄がところどころ漂っているのを見つけちゃったみたいなのです。
なんて言えば良いのかな。
そこで見た物は結構説明が難しいものみたい。
大地の記憶?
とにかく凄く大きくて、広い大地が時間をかけてゆっくり姿を変えていくのが断片的に脳裏に浮かんできたみたいの。
草が映えたり、地割れが起こったり、山が出来たり。
何千年、ひょっとしたら何億年もかけて世界に起きる変化を見たりしたんじゃないかなって言ってたんだけど、本当のところは分からないみたい。
でもそうだとしたら、最近の時代まで見た時に、おかしなものが見えたんだって。
地表の辺りを紫色の靄がいっぱい漂っていて、その中で生活していた色んな動物達が苦しんでて文明が一度滅んじゃうの。それで、次に見えた景色には綺麗さっぱり無くなっていたみたい。そこから文明はまた発達していって、生命もたくさん増えていったんだって。
それで、「近所の21さん」は神聖国のあったところが、ちょうど管理者さんのお仕事の時に見えた土地と同じ所だって言ってたから、それが神聖国で流行っている病魔に関係してるって言ってたの。
「近所の21さん」はその関連性に気づくのが遅れて、解決できなかったみたいだから、その代わりに私に何とかしてあげてって言ってたのです。
解決できなかった、なんて。
まだ皆頑張ってるから遅すぎるなんて事ないと思うんだけどなぁ。
それで、管理者さんの現況をして正しく世界の姿を書き換えれば、靄の発生も収まるんじゃないかって事。
もしそうだったら、頑張らなくっちゃ。
そういう事だから、私はさっそくミツバさんに色々教えてもらう事になったんだけど……。
「管理者の事は人伝てにしか聞いていないので、そういう能力まであったとは驚きですね。私としては初耳なので、何とも言えません。けれど、それが本当なら次のメンテナンスの機会に何か分かるかもしれませんね」
「この国にも、管理者さんの塔は存在するんですよね」
「はい、南の方にありますよ。前回と違って追手を警戒する必要がないので、いつでもできるのが楽ですね」
そっか、今回は人目を気にしなくていいんだね。
私は、頑張らなくちゃって意気込むんだけど、どうしてかディール君が凄く意地悪な顔をしてたの。
「その前に勉強だけどな。お前の頭で理解できんのか?」
うーん。頑張れるかなぁ。暗記とかは得意じゃないの。
「管理者としては最低限、制御盤文字の読み方くらい知っておかないと不便だろ? なんかあってミツバが指示出せなくなったら困るだろうしそこは必須。あと、音声入力の制御コードの発音なんかも覚えないとな」
うぅ、大丈夫かぁ。
ちょっと不安になってきちゃった。
それから神聖国の中でサクヤ様にお世話になりながら、私はミツバさんにみっちりお勉強を教えてもらうんだけど、ずっと机に向かってばかりしてるとさすがにちょっと退屈しちゃうの。
考えすぎて知恵熱みたいなの出ちゃいそう。
だからそういう時は、たまにミツバさんが内緒ですよっていって、外に一緒にお出かけさせてくれるんです。
ディール君は、ちょっと他の事で忙しくてセントラルシティで私達を助けてくれた友達さん(?)たちと連絡とったり再会したり、お話したりで大変みたい。
そういうわけで、お勉強に煮詰まった私はその日、町の中をちょこっとだけ歩く事になりました。
病気が流行ってる事もあって、人通りの多い所には行けないけど、それでも久しぶりの外出はとっても楽しいの。
外の空気を吸って風に吹かれるだけでも、新しい気分になれちゃう。
そうしてたら、ミツバさんにこんな事言われちゃった。
「ハルカさんを見てると、細かい事とか普段よりあまり考えないで済むので、とても助かります」
それってうーん、誉められてるのかな。
よく分からないけど、悪い事じゃないなら良いかなぁ。
ミツバさんもちょっぴりいつもより楽しそうで、それを見た私も楽しくなっちゃうから。
けれど、ある家の前に立ち寄った時、少しだけ悲しくなっちゃうの。
その家で誰かがなくなっちゃったみたいでね、住民さんらしき人はすごく悲しそうな顔をしながら、尋ねて来た人と話をしてるみたい。
「まだ子供だったのにねぇ」
「でも仕方がないさ。あの子が死んでしまうのはあらかじめ決まっていた事なんだから」
「そうだけど……」
そうお喋りしながら訪れた人達は、玄関で出迎える人達にお悔やみの言葉を伝えて入っていって、家を出ていく人達の方は元気づける様に住人さんを励ましてから帰っていきます。
「元気をお出しよ、いつまでも悲しい顔をしていたら、あの子も浮かばれないよ」
「お別れがあるって分かってたから、旅立ちを精一杯見送ってやるために、いっぱい思い出を作ってきたんだろう」
この世界の人たちは、死を死そのものとして考えているんじゃなくて、次の世界に旅立つ為のお別れとして考えているみたい。
悲しんだりする事はあるんだけど、ちょっとだけ私達の世界にいる人たちより前向きな感じがするかなぁ。
運命が分かる世界だから、このソングバード・オンラインの世界に生きる人達はこうやって生と死に折り合いをつけていってるみたい。
なんて、難しい事ちょっと考えちゃったけど、いつまでも暗くなってるよりは明るく前を向いていた方が良いと思います。
だからきっと、何でも考え方次第って事だよね。
私達の常識からすれば、運命が決まってるなんて言われたら嫌だって思うのが普通なのかもしれないけど、この世界の人達にとっては違うみたい。
そう思ってたら、隣を歩いていたミツバさんは小声で呟きました。
「たくましいですね。私やディールの場合はもっとみっともなく狼狽えたり、わめき散らかしたりしてましたよ」
私はちょっと驚いちゃいました。
ミツバさんが、困ったり大声で叫んだり?
そんなの全然、想像つかないのです。
「この世界に予言が根付いて歴史が長いですから、そうやって大人の考え方ができる人はかなり多いのでしょう。けれど、私達はまだ子供ですからね」
「ミツバさんが子供なら、私は小娘になっちゃうと思います」
「小娘ですか……ハルカさんが言うと可愛らしいですね」
む、私はちょっと怒ったつもりだったんだけどなぁ。
ミツバさんは楽しそうに笑うながら、私の頭をなでなでします。
それは誉められてるみたいでちょっと嬉しいけど。
自分の事を悪くいうのは良くないと思うのです。
それが本当の事でも悪く言うよりは、頑張ろう、良くなろうって言った方がずっとすっきりするし素敵だと思うから。
「えっとね、ミツバさん。上手く言えないけど……たくさんの人が考えてるからって、その人の言ってる事が正しいとは限らないと思うのです」
実際私達の世界では、きっと予言はノーサンキューだって言う人が多いと思うのです。
だから、皆がこれが正しいよって言っても、実は違ってる……なんて事もあり得ない話じゃないと思うの。
「私達に、何が絶対に悪い事なのかとか何が絶対に良い事だとかなんて、決められないと思います。それが決められちゃったらきっと私達……人じゃなくって、神様になっちゃうと思うのです」
「なるほど、確かにその通りですね。ハルカさんは本当にかしこい子です。優秀な生徒を持てて私は嬉しいですよ」
「えへへ、ありがとうございます」
通り過ぎて行った家はもうずっと後ろの方だけど、でもきっと尋ねてくる人はまだまだたくさんだと思うのです。
私達が正しいって言っちゃうとあの人達の色々な思いとかが、正しくないって事になっちゃうから、そういうのはやっぱり二つに分けたりしたくないなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます