第10話 神聖国の王女様はもふもふ耳です



 あの後私は、管理者さんとしてのお仕事を終えた後に、一旦ログアウトしました。

 ゲームの中で疲れるというのも変だけど、その時は本当に疲れちゃってたの。


 自分の部屋でバタンってベッドに倒れ込んで少し眠った後は、お風呂に入ったりご飯を食べたり、慌てて宿題をやったり。


 こんなに疲れるなら、テストも近いし、しばらくはゲームを止めた方が良いかなって思ったんだけど、やっぱりすごく気になるのです。だから、結局次の日もゲームをやっちゃったの。






 12/22 神聖国

 それでクライム=ノルドを出た私地が次に向かうのは、神聖国ってところ。

 お尋ね者になっちゃった私達を保護してくれる国だって、ミツバさんが言ってました。


 自然が豊かで、観光名所とかもたくさんあるみたい。


 たくさんの木が生えてる林道とか、綺麗な花が咲いてるお花畑とか、大きな大きな滝の近くを通ったりしながら、私達は数日かけて目的地に到着。


 でね、神聖国に入ってからすぐのとこ。

 噴水の近くには大勢の人が集まっていたんだ。


 皆とても楽しそうで、賑やか。

 何か楽しい事でもあるのかなって、その時私は思っちゃったのです。


 でも、ちょっと違ったみたい。

 集まった人の中心を見てみると、女の人がいるみたい。


 頭には耳と、お尻には尻尾。

 話をするたびにそれがぴこぴこ。


 とってもふさふさで柔らかそう。

 思わず触りたくなっちゃう。


「亜人の獣人族ですね。この神聖国には霊人族もいるんですがそちらもいらっしゃるようですね」


 あの女の人は亜人族って言うみたい。

 亜人……は何となくわかるけど、霊人族って何だろう。


 首をかしげてたらディール君が教えてくれました。


「そんな事も知らないのか。物質的な肉体を持たない人間の事だ。何かの拍子で、肉体を失くしたりしたか、元から内に秘める生命力が多すぎて肉体を持てなかった奴だな。後天的に霊人族になった奴と違って、そういう奴は魔力が高いらしい」


 へぇぇ、そうなんだ。

 うーんと、えっと、とにかく触れない人たちの事なんだよね。


 あ、あそこにいる体が透けてる人とかそうなのかな。他にも耳がとがってる人とか、トカゲみたいな人とかもいる。


「まあ、霊人族はそういう特殊な見た目のせいで、たまに怨霊だなどと言って差別する地域もあるのですが、この国は良い環境らしいですね……? 私達の住んでいた所は人族が多くで多少住みづらいでしょうが、ここではそんな事はないかと……、ハルカさん?」


 ミツバさんの説明も聞きたかったけど、もう限界なのです。


 ふわふわしている耳が触りたくなって、私は人垣の方に近づいていっちゃう。

 近くによると、集まった人で良く見えなかった女の人の姿が良く見えてきます。


 切れ長の目や、はきはきした口調で喋るその人は、ちょっと厳しい感じの雰囲気の人だけど、とっても良い人そう。


 だって、集まった人の言葉をどれも蔑ろにせずに皆ちゃんと聞いてあげてるもの。


 こんなに人に囲まれてるなんて、有名な人なのかな。

 

 何て、考えてたらその女の人と視線があっっちゃった。


「ん? 見ない顔だな」


 訝しげな視線むけられちゃった。

 ぱっちり視線が合っちゃうんだけど、私の視線はすぐにその頭に生えてる耳に一直線なの。


「あ、あの……」

「何だ、何かあるなら遠慮なく言うといい。何か困っている事があるなら微力ながらも力を尽くさせて貰おう」


 じゃあ、遠慮なく言っちゃって良いかな。

 大丈夫ちょぴっとだけだもん。

 ちょびっとだけ触れたら、私はそれで我慢できる気がするのです。


「その頭の耳、触らせてもらってもいいですか?」

「……は?」


 あれ?

 何でか皆が一斉に口を開けて固まっちゃった。





 それから一時間後。


 私達は神聖国の中央に立つ大きな建物、白亜の宮殿の内部にやってきていました。

 とっても豪華で、とっても広々とした部屋の中。ふかふかのソファーに座って話すのは、私達とあの女の人サクヤ様です。


 そのサクヤ様が、私を見ながら思い出し笑い。

 かっこいい見た目の人で、凛とした空気を纏ってる人なんだけど、笑うとちょっと可愛いのです。


「しかし、あの時は驚いたな」


 あの時の事を思い出した私は一回やったけど、もう一度サクヤ様にごめんなさいします。


 それを見たディール君もごめんなさい。

 二人そろって頭を下げちゃいます。


「あの時はすみません、サクヤ・イシュラーン王女。こいつ悪気はないけど、頭の中身が馬鹿なもんで」

 

 サクヤ様は何とこの神聖国の王女さまだったらしいの。

 そうとも知らずに、私とんでもない事言っちゃったな。


 でも、良かった。

 サクヤ様は本当に何とも思ってなかったみたい。


「いや、いい。あの時は、少しあっけにとられていただけだ」


 耳も後で触らせてくれたし、今は楽しそうに笑ってくれてるもの。


 ディール君の後は、ミツバさんが私達の行動をフォローする様に話してくれます。


「まさかサクヤ様とあろうお方が、噴水で民達と話をされているとは。ハルカさんもきっと予想できなかったのでしょう。どうか寛大な処置を」

「気にしてない事に、処分を加えるほど我は非常ではない。この話題は蒸し返さなくても良い」

「ありがとうございます。それで今後の事なのですが。しばらくこの国にかくまってもらうという話はどうでしょうか。国の南風にある機械のメンテナンスもちゃんとこなさせてもらいますので」


 それならさっそくとばかりに、次の話題へと話を変えるミツバさん。

 切り替えが早いみたい。


 サクヤ様もそれにならって、ミツバさんの話について考える様にちょっと黙り込みます。 


「……そなたらの事情は協力者の報告から分かっている。儀式の場に紛れ込んだ民間人なのだ。仕方あるまい。頼みを聞こう。追手の方はしばらくは気にせずとも良いだろう。すぐにこちらに来る事はなさそうだ。例の災害のせいで、そちらに手を取られてしまっているようだしな」


 つまりサクヤ様は、私達を助けてくれる人みたい。

 この間通って来た国のことを話題に出しながらも、サクヤ様の方で頑張って調べた追手さん達の情報を、色々と伝えてくれます。


 それからミツバさん達と難しい話を始めるのだけど、まとまるのにそんなに時間はかからなかったみたい。


 何でもサクヤさんの方に、早急に済ませなければいけない事があったんだって。そのせいみたいなの。


 しなくちゃいけない話が終わった後、ミツバさんは心配そうな表情になります。


「しかし、神聖国も大変そうですね。表向きには平和そのものに見えますが」

「ああ、そうだな。病院はどこも手いっぱいだ。例の病魔が流行り出したおかげで、病人は増える一方……。対策を打とうにも原因が分からずに、困り果てている」


 疫病対策で大分大変な思いをしてるみたい。

 それで、今日は広場に直にでて、皆を励ましていたんだって。

 亜人の人は普通の人より耐性があるから病気には罹らないって話だけど、他の人は何日も外出もできなくて困ってるみたい。


 サクヤ様は悲しそうな顔で、膝の上に組んでいた手に力を込めてます。その手は白くなっていて、力になれない事がすごく悔しいんだろうなって事が分かっちゃう。


 何だか、見てる私の方まで悲しくなっちゃいそう。


 それから、ニ、三言挨拶をして私達を滞在させてくれる部屋について教えてくれた後、案内をつけて部屋から出ていっちゃう。


 私達の方は、その案内の人に連れて部屋まで行くんだけど……。


 ミツバさんの部屋に集まって、今後の事を話しあう事になりました


 私は私にできる事がしたいなぁ。

 たとえこの世界がデーターの世界でも、誰かが悲しむのはやっぱり嫌だもの。


 私はこのあいだブログにアップした後に来た、閲覧者さんの情報を頭に浮かべながらある提案をします。


「あのね、ミツバさん、ディール君! 私、ここの人達の為に何かしたいの!」

「何だ、急に」


 ちょっと声が大きすぎたかな。

 ディール君が驚いちゃった。


 私は一回深呼吸して、落ち着いてからその話をします。


「えっとね、ひょっとしたら私なら、管理者さんのお仕事で病気が流行ってる原因が分かるかもしれないの」

「それは本当ですか」

「どういう事だよ」


 閲覧者「近所の21さん」って人が教えてくれた情報なんだけど、管理者さんのお勉強を頑張れば、この世界で死ぬはずだった運命の人を助けられるかもしれないって。

 その人は以前にソングバード・オンラインをやって、私が起こしたみたいな隠しイベントを発生させたことがあるから、ちょこっとだけ詳しい事を知ってるみたいなんだ。


 そんな事をなるべくふんわり説明して二人に教えてあげたら、ミツバさんにオッケーしてもらえちゃった。


「そんな情報があったんですね。眉唾ものですが、この国には恩がありますしね。一応頑張ってみましょうか。これから、ずっと私達が外から指示を出し続けていくのも大変でしょうし」

「うん、頑張るね!」

「俺としてはその情報源の持ち主の事が気になるけどな」


 う、そうだよね。

 だけどごめんね、ディール君。

 現実の人の事は、うまく説明できないの。


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