第9話 町を救った天使様になってしまいました
クライム=ノルド 六角通り
六つの方向から合流する橋がある階にマキナ・ボールの俺はいた。
度重なる地揺れで木造建築の多い国の中では、多くの建物が倒壊している。
「こりゃあ、大変な数の死者が出るだろうなぁ」
がれきの隙間をころころ転がりながら、押しつぶされた人間を探し回っていたマキナ・ボールのマキーナこと俺はため息をつきそうになって慌てて抑えた。
「管理者のお嬢ちゃんは大丈夫かねぇ。まあ優秀な護衛が二人もいるんだし、用事終えたらとっとと出ていくだろうさ」
遠隔勤務地の本部から任務の通達をされて半日。
対象人物とばったり出会った時は驚いたが、良い機会だと思った。
そのまま尾行を続けて、居場所を報告しようと思った暁だったのに、ここに来ての天災だ。
その国は俺にとって親しみのある国で、知り合いも少なくない。
自分と対象が接触した事はおそらくあの護衛二人しか知らない。なので、勤務地の上司に黙っていた所で、罰を受ける事はないだろう。
だから任務を一時的に放棄して、俺は救助活動に専念していたところだった。
小さいボディを生かして、どこの隙間に要救助者がいるのか調べていく。
本体からは小さなアームが出るが、強度は知れているのでがれきなどの大きなものをどかす事は出来ない。
標準装備としてレーザー銃は装備しているが、役に立たないだろう。
「おっと、また揺れか。んん、今度は大きいな。おほん、埃が落ちて来て埃っぽいしで踏んだり蹴ったりだね。いや、鼻はないけど」
冗談を言いながらこれまでの揺れの数を数える。
余震は何度も襲ってきた。
その度に救助の手が止まるので、うっとおしく思っていたのだが。
今度のそれは今までとは比較的にならないくらいの規模だった。
「うわっ、あぶな、ちょ、おじさん転がっちゃうからっ」
揺れる地面に翻弄されて転がされる俺は、その異変に気が付く。
国そのものといってもいい、円形の巨大木造建築が嫌な音を立てて、ボロボロと剥がれ落ちてきているのだ。
クライム=ノルドを構成する巨大なバームクーヘンのような建築物が、上からこちらを押しつぶす様に落下してくる。
「あ、これやば……」
声は最後まで発せられる事が無かった。
「おじさん達まさに今、その真下にいるんだけど」
巨大な残骸が降って来るのを見て、並の人間よりは頑丈であるマキナ・ボールでもさすがに死を覚悟した。
その時……。
唐突に歌声が響いた。
「んん?」
そして不思議な事に、迫っていたがれきが、地面から生えてきた何かにがっしりと受け止められて停止していたのだった。
「おやおやおやぁ?」
そして、それは他の建物も支える様に枝葉を伸ばし、軋み続ける建築物を支えていく。
唐突に生えて来た謎の巨大植物は、建物を支えるだけのそれだけの行動に留まらない。
崩れたがれきの隙間へと枝葉を伸ばして、重なっていたがれきたちを丁寧に持ち上げ始めたのだ。
「わーお」
先程から単調な事しか言ってないが、言える事がそれしかなかった。
それはまさに、崩落する国を救った奇跡。
この世ならざる現象だった。
「ひょっとして管理者のあのお嬢ちゃんが助けてくれたのかねぇ、最低限の世界調整だけこなしててくださいねぇ、そういう事はしちゃ駄目よ……ってルールで決められてんだけど。あのお嬢ちゃんだったらやりそ」
周囲では、何が起こたのか分からず呆然としていた者達が、揺れが収まると同時に我に返って慌てて動き出す。
助けた者、助け出されたもの。
数分前には、悲嘆や絶望しかなかったその国には、決してすべての者がとは言えないが生き延びていて、多くの喜びと希望が溢れていた。
今回の大災害、犠牲者は思ったよりも少なくなりそうだった。
「あー、仕方ないねぇ。おじさんも甘い事。今日は怪しい人間には出会いませんでした。報告はこれでいいか」
私が管理者さんのお仕事を終えて数分。
「わわっ、人がたくさん」
ミツバさん達と部屋の外に出ると大騒ぎになってて、びっくり。
この町の人たちは私を見て、いろんな事を言いながら話しかけてきます。
でも悪口とかじゃないの、みんなとっても嬉しそうで話すのは感謝の言葉ばかり。
「やっぱり巫女様が助けて下さったんだ」
「世界の姿を書き換えて、我々をお救いしてくださったのだ」
「その声、さっきの歌と同じだ。間違いない」
皆私の事を天使様って言いながら、手を叩いたり歓声を送ってきてます。
さすがに私はちょっと恥ずかしくなっちゃう。
人垣の外に追っ手さんたちがいたから、すぐにその場からは離れる事になったんだけど、でも嫌な気はしなかったかな。
だって、皆とっても楽しそうで嬉しそうだったから。
良かったなって、そう思いました。
何が起こったのかよく分からないけど、町は揺れが無かったかのように元通り。
想像できないけど、誰かが何とかしてくれたみたい。
本当に良かった。
でも、後でそれは私がやったんだよってミツバさんに教えられる事になるのです。
そうしてクライム=ノルドの町から出た後私達は、地震に驚いて混乱しちゃったモンスターさん達と戦闘になっちゃって、どうにか撃退したあとは、しらばく移動。
辿り着いた川の近くで野宿する事になりました。
そんな中、私はいい機会なのでミツバさんに「ごめんなさい」と「ありがとう」をします。
クライム=ノルドの町を助けちゃった(らしい)私のせいで、追手さんに見つかっちゃったから「ごめんなさい」。
あと、管理者さんのお仕事手伝ってくれて、助かりましたの「ありがとう」。
そしたらミツバさんは、少しだけ驚きながら、言葉を返してくれます。
「前者はともかく、校舎は貴方が一般人ですから。当然ですよ」
「ミツバさん、怒ってますか?」
ミツバさんは穏やかな表情をしてるけど、内心どう思ってるかはちょっと分からないの。
だから、単刀直入に聞いちゃいます。
聞いたミツバさんは首を横に振りました。
「いいえ、どうしてそう思うんですか」
「言われた事以外の事やったったんです。やろうって思った事じゃないけど」
それを聞いたミツバさんは怒る事なく、優しくほほえんでくれます。
「確かにちょっと困りましたけど、厳しく言ったのは巻き込まれたハルカさんの身を案じての事でしたから。今日の事で分かりましたけど、ハルカさんはご自分が危険になると分かっていたとしても、おそらく同じ行動に出ていたでしょう」
うーん、それは確かにそうかもしれないなぁ。
追手さんに見つかっちゃうよって知ってても、助ける方法があるなら私は誰かを助けたいって思ってたはずだもの。
私自身が危ない目に遭うだけなら、きっとそうしてたはず。
「優しいハルカさんが管理者で良かった」
ミツバさんはそう言って「サービスですよ」って、話を続けます。
「私達は、ディールも、この世界から予言を無くすために動いてます。折り合いをつけている人も多いですけど、運命を知るのは苦痛だと言う人もいるのです。ディールも私も、死期が分かった大切な人をどうにかして助けたいと思って、助けられなかった事がありますから」
「そうだったんですか」
難しい話だけど、私があれこれ言えるはないじゃないかなぁ。
私は予言のない世界で生まれ育ったんだもの。
「だから、我が儘でも予言のない世界にしたい、最終的には組織の不正を糾弾し正した後、ハルカさんに予言を失くしてもらいたいんです。勝手な理由で幻滅しましたか?」
ミツバさんは悲しそうな顔で聞いてきます。
でも、私は首を振ってみせます。
「そんな事ないです。ミツバさん達がとっても真剣だって事が分かって、私は嬉しいです。今までは、言う事聞いててもいいのかなって思ってたけど、私はディール君もミツバさんも大好きだから、これからも協力したいって思いました」
「世界の為にではなく私達の為にですか、ハルカさんってそういう方なんですね」
そういう方ってのがどういう方なのか分からないけど、ミツバさんが笑ってくれたのが嬉しくてどうでもよくなっちゃたのです。
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