第8話 初めての管理者さんの仕事



 ポッドに入ってすぐに、気持ちがほわんほわんとしてきて眠くなっちゃった。

私はこれじゃいけないって思って、はっとしようとするんだけど。睡魔の方が強かったみたい。あっという間に夢の国に連れていかれちゃった。


 それでね。

 何と気が付いたら私、宇宙みたいな所でふわふわ浮いていたのです。思わず「ふわぁー」って言って、すっごくすっごくびっくりしちゃった。


 無数の星がぴかぴか瞬いていてとっても綺麗な景色なんだけど、暗い所に一人でいるのはちょっと寂しい所かな。


 でも、しばらくしたら。またびっくり。


 どこからともなく声が聞こえてきたからなのです。


『ハルカさん、私の声が聞こえますか?』


 キョロキョロ周囲を見回すんだけど、人影はないの。

 けれど、宇宙に響いたのはまぎれもなく私の知ってる人の声……ミツバさんの声。

 どうなってるんだろう。


 そう思ってたら、ミツバさんが説明してくれました。


『今、私は外部から機械を操作して声を届けています。貴方は初めての作業でしょうし、説明も聞かずに管理するなんて無理でしょう?』


 あ、確かにそうだよね。

 何をすればいいのか、具体的な事は何も聞いていなかった気がする。


 失敗、失敗。

 でも、大丈夫。失敗は次に生かせれば大変な失敗じゃないってお母さんが言ってたもの。

 お母さんはよく失敗しちゃうけど、同じ失敗は中々しないの。とっても優秀。三回目くらいでようやく成功する私よりも、二回目で必ず成功するから優等生なのです。


 全然関係ないけど、ご近所さんの前で失敗しちゃった時は、よく小春ちゃんはお母さんの血を強くひいちゃったみたいねぇって言われるの。

 どういう事だろう。

 お母さんに似てるのは、私は良い事だと思うんだけどなぁ。


 そんな風に考え事してたら、ミツバさんの思案げな声が聞こえてきます。


『こちらの声は届けられても、そちらからは声が届かないのが難点ですね。何です? ディール。はぁ、外がうるさいと……。まあ仕方ないでしょう。救出に尽力したいのはやまやまですが、追われている我々が手を貸すわけにもいきませんし』


 そうだった。この町では大きな地震がさっきあったばっかりだったのを思い出しちゃった。

 皆、大丈夫かな。

 かなり揺れちゃったし、今もまだ何かが崩れたり倒れたりして大変な目に合ってる人たちがいるかもしれない。

 私達に出来る事って本当に無いのかな……。


 胸の中にあるもやもやを抱えてうーんって考え込んでると、ディール君に話しかけていたらしいミツバさんがこっちに戻ってきました。


『失礼。……ハルカさん。ではこれから指示を出しますので、その通り動いてください。まず周囲に手のひらサイズの四角い箱があると思うのでそれを探してください』


 色々そうやって詳しく教えてくれるみたい。

 こっちの事が分からないのに、見えてるみたいにミツバさんが話しかけて説明してくれます。

 ぼーっとしてたら聞き逃しちゃうかもしれないから、集中しなくちゃ。


 視線をめぐらせて、ミツバさんが言っていた箱を発見。


「これかなぁ」


 とっても近くにあったけど、透明だったからいままで気が付かなかったみたい。


 手に触れてみると氷みたいに冷たいの。

 驚いて触ってすぐに手を引っ込めちゃった。

 そしたら、その瞬間箱がぱかって勢いよく開いて、中からキーボードが飛び出してきました。


「わぁ」


 そこには音楽を引くキーボードじゃなくって、パソコンとかでよく文字を打つキーボードが並んでいるの。

 だけど知らない文字ばかりで、たくさんのキーがあるみたい。


『触れてみれば、制御盤が出るはずです。出ましたか? ではそこにあるキーを指示するので、ハルカさんはそれを叩いてくださいね……。いきますよ』


 上から三列目、横から二番目、丸いの。

 上から二番目、横から五番目、点々の。


 制御盤のキーボードに書かれてる文字が読めないから、つい四角いのとか、三角のとか二番目のとかっていう説明になっちゃう。

 そういう風に教えてもらってると、小さな子供になっちゃったみたいに思えてきます。

 うーん、丁寧に教えてくれるミツバさんは怒ってる風じゃないけど、手間はやっぱりかかってるよね。

 あとでありがとうございましたって、言っておかなくちゃ。


 私はそれからもミツバさんの声を聞いていくつかのキーを叩いていきます。

 そうすれば、作業はあっという間に終わり。


『ご苦労様です。後は遠くに見える……ひときわ強く輝く星の元まで辿り着けばすべて終わりですよ。この世界の出口です』


 はーい。

 言われた通りの星を探せば、すぐに見つかりました。


 そういえば、地面がないのにどうやって移動すればいいんだろう。

 そう思ってると。

 何と、あっちって心の中で思った方向に体が動き出したの。

 私自身は何も、動いてないのに。

 不思議だなぁ。


 私はふわふわ浮かびながら、出口の光に向って行きます。

 周囲には無数の光達。


 まるで星の海を泳いでるみたい。とっても素敵な光景なの。


 どこかに出かけた時、よく高い所に上って夜景なんかを見ると、宝石箱みたいだなって思うけど、まさに私はんなの宝石箱の中にいるみたい。


 それで私は、あっちって思いながら、そのまま宝石箱みたいな空間を移動していくんだけど。

 たまたま通り過ぎる時に近くにあった光が、ピカピカして綺麗だったから思わず触っちゃったの。


 そうしたらどうなったと思う?

 とんでもない事になっちゃったの。

 わわ、どうしよう。大変だよ。


「えーん、えーん。痛いよぅ」「お母さんどこ……」「誰か助けてくれ頼む」


 何と私の頭の中には、たくさんの悲鳴がこだまして傷だらけの人達の映像が浮かんできたの。


 その映像を見ている、誰かはどこかの建物に挟まれているらしくて、がれきの隙間からその光景を見ているみたい。


 折り重なっている廃材の隙間から、必死に外に手を伸ばそうとしている様子が見えるもの。


 見覚えのある景色、たぶんクライム=ノルドのどこかみたい。


 これって、私……私じゃない誰かの映像を見てるって事なのかな。

 ぱっと、手を離したらその映像は消えちゃう。

 気になって他の光に手を伸ばしてみると、また別の映像が頭の中に浮かんできたの。


 さっきと同じように、怪我人ばかりの光景だったけれど違うのは、その光景を見えいる人が無事で、他の人を助けようと走り回っている最中だって事。


 周囲の景色は、やっぱり見た事ある物ばかり。


 どうしよう。こんなに大変になってるなんて思わなかったよ。


 皆とても辛そうで、痛そうで。

 何とかできればいいのに。


 でも、やっちゃ駄目なんだよね。

 私達は追われてる人で、逃げなくちゃいけない立場の人。

 私だけならともかく、我が儘を言ったらミツバさんやディール君をたくさん困らせちゃう。

 我慢するしかないんだ。


 だったらせめて、


「♪~」


 思いを乗せて歌を歌うよ。


 星の海の中で、導くソングバードをイメージしながら。

 皆の頭上に輝く星々が、どうか悲しみや痛みを少しでも吸い取ってくれますように。


 でもやぱっぱり、私のこの歌が力になれば一番良いのにな。


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