第5話 隠しイベントが発生しました



 お役所の建物から出た後も、私はディール君とミツバさんって人と一緒にどこかへ逃走中です。


 そう、逃げています。


 二人の背後からは大勢の人が追いかけてきて、何と武器を持ってるの。

 それで弓矢とか、銃弾とか、何かよく分からない光線とかが飛んできて、生きた心地が全然しない。もう大変。


「ハルカ、支援だ歌え!」

「え? うん」


 吟遊詩人の能力で歌って、調律士のディール君のフルート演奏で、支援の魔法を発動。

 何を支援するかというと……。


「ディール様と、ミツバ様をお守りしろ!」

 

 途中から合流した、秘密の組織っぽい黒づくめの人達の戦闘です。

 私達を追いかけてくる人達とケンカして、守ってくれてるみたい。

 味方だと思っていいのかな。


 ミツバさんがその協力者さん達と連絡してたとか言ってたんだけど、よく分からなかったや。


 そんな風に小一時間くらい、町の中の細い道をぐるぐる行ったり来たりして、ようやく私はディール君の肩の上から解放されたの。


 守ってくれた人は、囮となって他の所に行っちゃってます。

 よく分からないけど、とんでもない事になっちゃったなぁ。


「ふぇぇ……」


 自分じゃ一切動いてないのに、ちょっと疲れちゃったよ。

 地面にへたり込んで、情けない声を挙げているとミツバさんが声をかけてくれました。


「大丈夫ですか。さて、落ち着いたところで貴方に聞きたい事があるのですが。まず貴方はどういった組織の方なのですか」

「組織?」

「神聖国の方の者ですか? それとも我々の方の……」


 そんなこと言われても、私は分かりません。

 組織なんていう凄いものには所属してないの。


「えっと私は、ディール君から聞いてると思うけど、ハルカといいます。職業はえーと吟遊詩人?」


 そう言えば、ディール君から「自分の事なのに、何で疑問形なんだよ」っていう突っ込み。


「えへへ、何となく」


 ミツバさんはけど、私の話に反応してくれなかったみたい。


「なるほど。つまり、旅の方というわけですか。どうやってあの場所へ入ったんですか? 他の者達はともかく、私やディールまであなたの侵入にまったく気づけなかった」


 その事はディール君が説明してくれました。

 えへへ、ごめんね。難しい話、頑張ればできると思うけど、私が言うと時間かかっちゃうと思うから。


 とりあえず、私からも聞かなくちゃ。


「あの、私からも一つ聞いていいですか」

「ええ、良いですよ」

「ミツバさんやディール君たちはプレイヤーさんなんですか?」


 どうして、二人ともこんなにも普通に私と話ができるのだろう。

 他の人はちょっと違うのです。

 よく同じ感じの事言ってるの。


 でも、


「プレイヤー。それは、職業か何かですか」

「えっと、ゲームを遊ぶ人?」

「はあ? なんでそんな事俺たちに聞くんだよ、あんな場所にそんな人間がいるわけないだろが」

「あー、あはは、そうだよね」


 二人はプレイヤーさんが何の事か分からなかったみたい。


 つまり、ディール君達は私と同じ存在じゃないって事なんだろうけど。

 どうだろう。

 それって、何かとてつもない事のような気がするんだけど。

 深く考えていい事かな?

 たぶん私の頭じゃ、考えたって結論なんて出ないだろうけど。


 ここで起きてる事は特別なイベントって事で良いのかな。

 隠しイベントみたいなのが発生しちゃったって事?


「というか、何でお前……俺とこいつで態度が違うんだよ」

「え?」


 そう考えてればディール君がそんな事を聞いてきたの。


「こいつには丁寧に喋るのに、何で俺にはため口なんだ」

「何でだろう」


 私は首をひねって考えてみます。

 ミツバさんいは丁寧語。でもディールには普通の口調。

 その理由。

 でも、考えても分からない。


 そういう時はたぶん「何となく?」だ。

 人と付き合う時は、難しく考えちゃだめ、何となく感じたままが一番だってお母さんが言ってたから、そのせいかな。


 そしたらディール君が、


「だめだこいつ」


 あ、何か見切りつけられたような気がする。


 でも、私の口調に何か理由をつけるとしたら……。

 そういえば昔、近所のお兄さんと最初にあった時もそうだったかな? ミツバさんはお兄さんと似てて頭が良さそうだから、丁寧な喋り方になったのかも。


 そんな風に雑談と説明をしながら、とりあえず落ち着いたところを見つけて一旦休憩。

 他の事情についてはミツバさんが話してくれました。


 あの建物はリンクスと言って、お役所の機能を備えた場所でもあると同時に人々の予言を記した生命の書を作る場所なの。うん、知ってた通り。


 それで、離れた場所にあるホールでは、何年かに一度「生命の書を製造する機械」のメンテナンスをする人を選定するため、儀式をしているんだけど……。


 そこで働いていたミツバさん達は、その裏に悪事の気配を嗅ぎ取って、巫女の選定を妨害しようとしてたみたい。

 生命の書の内容に「偉い人には絶対服従!」みたいな事があるとかないとか……。


 それで、ミツバさん達は、私がこなかったらホールで暴れて本来の巫女様を略奪……じゃなかった誘拐しようとしてたみたいなんだけど、そこにうっかり部外者である私が現れたものだから計画を変更した、というわけみたい。


「右手の甲を見せてください」


 ミツバさんに言われて右手を差し出すと、壊れ物を扱うようなしぐさで手をとられてびっくり。

 そんなのされた事ないよ。ミツバさんって変わってるなぁ。


「ここに、星のしるしがあるでしょう。適性があったようですね。貴方はどうやら巫女に選ばれたみたいなので、攫うこと事にさせてもらいました」

「あ、そうなんだ」


 そっか、納得。

 つまり、私は「生命の書を製造する重要な機械」のメンテナンスをする巫女様に選ばれてしまったみたい。


 ……。


「ふぇええええっ!?」


 私、気づかない間にそんな重要な役目背負わされちゃってたの?


「こいついまいち反応遅いよな」

「きっとハルカさんは天然なんですよ」


 ど、どうしよう。




 

 そんな事があった数分後。

 現実に戻った私はベッドの上でむむむって唸っちゃいます。


 びっくりです。

 怒涛の驚きが連続です。


 それで私は、ほわーってなっちゃいました。


 頭の中でずっとさっきあった事を考えててどういう事だろうって。

 それで気がついたら一時間経っちゃってて、とってもびっくり。


 これじゃあ駄目だよね。


 さっそく、ソングバード・オンライン盛り上げ隊の一人として、今日あった事をホームページに載せて投稿。もちろん肝心な事はぼかして。


 観光名所計画がちょっとだけ反響あったから、今回も皆に注目されると良いなぁ。


 でも、さっきのイベントは閲覧者さん達からも聞いた事なかったから、やっぱり隠しイベントなのかな。


 ピロリン。

 あ、メールだ。

 着信は、意地悪なお兄さんから。


「昔やった楽しくないオンラインの事思い出したから、壁殴り代行バイトしてくる」って。ううん、つまりどういう事だろう。

 時々よく分からない事してるんだよね。


 お兄さん、もうすぐ通ってるパソコンの学校で試験があるのに、バイトしてていいのかな。


「こはるー、ごはんよー」


 携帯見て考え込んでたら、部屋の外からお母さんの声。


 ブログの作成に集中してたみたい。

 また知らない間に時間が経っちゃってた。


「はーい、今いくねー」


 私は返事をしながら、携帯を置いてパソコンの電源を切ります。


 私はもうすっかりこのソングバードの世界に夢中。


 だってすっごく毎日が楽しいもの。

 ゲームのソフトを買った時は予想できなかったのになぁ。


 でも、やっぱり私は不思議に思うのです。

 なんでみんな、このゲームをやらないんだろうなぁ。


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