第4話 お役所にうっかり不法侵入してしまいました
|託宣管理集積堂(リンクス)
ディーゼ君に言われた場所に来てみて、私はびっくり。
「わぁー、本当に高いなぁ」
その建物は他の建物に比べてうんと大きくて、うんと立派だったの。
そういえば、町の中で入ろうと思ってもどうしても入れない建物があったのを思い出しちゃった。
これがその中の一つなんです。
そこは、この世界のお役所さんみたいな場所らしいの。
住民さんの事で色々なお仕事してる場所です。
未来の事を調べて、皆に配る予言の書を作ってるとこ。
そういうと、ちょっとディストピアっぽい世界を想像しちゃうけど、全然そんな事は無いの。
皆未来の事に心の折り合いをつけて、生きてる人がほとんどなんだよ。
それで、私達が立っているのは立派な正門の前。
ぴしっとした制服を着こんだ人が中に入っていくのが見えます。
「私達の世界で国会議事堂? とか、首相官邸? みたいなところかな」
だから、きっとこの世界のとても偉い人しか入れないんだろうな。
もっとよく見れないかな、と門の近くまで近づいていくと、
「わっ! あれ?」
ちょうどよく通りかかった人とぶつかって敷地の中に侵入してしまいます。
ぶつかった人は、私の事なんか存在しないみたいな様子で、そのまま建物の中へと歩いて行っちゃう。
「うーん、何か感じ悪いなぁ」
そんな事を考えてると、背後で音を立てて門が閉められていっちゃいます。
「わわっ、ちょっと待って!」
って私は言うんけど。門を閉める人、私の事なんて見えてないみたい。
そういえばこの間隠蔽率九十パーセントっていう、クエスト報酬のマントの装備をゲットして、身につけてたんだけど、それが原因かな。
ディール君が一緒にいる時、たまたま希少なモンスターさんに会って、ドロップ品っていう落とし物をゲットしちゃったんだよね。
外すの忘れちゃってた。
「ごめんなさい言えなかったなぁ」
門の人は奥の方へ引っ込んじゃう、見えない私の事は気にしてもらえなかったみたい。
外に出ようとしても駄目。
私の目の前で、ぴったり隙間なく締められちゃった門は、びくともしないの。
何だか、朝の通勤時間に駆け込み電車に失敗してしまったときみたい。
あれって落ち込むし、恥ずかしいよね。
「ふぁー……どうしよう」
しばらくその辺をウロウロしたりするけと、一分もそうすれば飽きちゃう。
「うん、こうなっちゃったのは仕方ないよね。中とか見てみようっと」
と、いうわけでこの際だから、しょうがないよね。同時に不法侵入もしちゃいます。
冒険みたいで楽しい。
けど、悪い事するのってちょっとドキドキしちゃうよね。
「……真面目な顔した人がたくさんいるなぁ」
建物の中を歩いていきます。
何ていうのかな……内部はやっぱりお役所みたいな雰囲気。
歩く人達からは、町の様子についてとか、どこで問題が起きたとか、そういう真面目な話が聞こえてきます。
見るからに大切なものです、っていう機械もたくさんあって、よく分からないんだけど凄い事してそうな雰囲気があります。
見学者用の案内ロボットとかもあって、ファンタジーっていう町の中より、景色はちょっとちょっとSFみたいなの。
ブログに書いたら皆、注目するかな。
あ、でも不法侵入は悪い事だから怒られちゃうかも。
「この人達がいるおかげで皆が生活できてるんだよね、お疲れ様です」
とりあえず、罪悪感を和らげる為に、普段中に入れない人達の為にお礼を言ってみたしました。
そんな調子で、ふらふら建物の中を冒険してみるんだけど、気になる場所があるの。
建物から離れた場所に大きなホールがポツン。
いったん外に出てみると、そのホールに向かって歩いて行く人たちの姿が見えたから、気になったんだ。
何やら仰々しい衣装を着ていて、皆が皆重苦しい雰囲気を纏ってます。
「何やるんだろう?」
とっても気になるので、私はその人達の後をついていっちゃいます。
そうしてホールの中に入ると、そこは色とりどりの装飾で飾られた豪華なお部屋でした。
「わあー、お金がかかってそうだなぁ」
とっても凄い眺め何だけど、何でかそんなに心は動かされないかな。
宝石とか装飾とかたくさんだけど、逆にたくさんすぎって思っちゃうくらい。
これならさっき外から大きくて凄い建物を見た時の方が、まだ感動するかも。
そんな事を言っていると、私が追いかけて来た集団の人達が部屋の隅へ動いてきます。
私もこっそりそれに追随。
右隣を見ると、何だか、おっかなそうな男の人が立っている。あ、ディール君だ。やっぱりお役人さんだったんだ。
左隣を見ると、何だか優しそうな男の人が立っています。うーん、知らない人だなぁ。でも、ディール君とは中良さそう。お喋りしてる。
遊びに来たよって言ったら、怒られちゃうよね。
あ、足元にネズミさん。マーブル模様でとってもカラフル。
他の人は私に気が付いてないけど、ネズミさんは私に気が付いてるみたい。
「?」って、首をかしげてる。
子供とか、動物とかには私の着ている物の効果が出にくいみたい。
あ、ディール君の左隣にいる人がネズミさんを呼んでる。
ペットの子か何かなのかな。
それで、ホールの真ん中に視線を移すと、そこには女の人が一人で立ってます。
それで、少しした後。
偉そうな人が一人で、色々難しそうな事を言い始めて、それを聞いた女の人が、じゅもんみたいな事を話し始めるの。
「スティ・アプティブ。レィネィネィア、フレンクティエティ、エテルマイネイ……」
ええと、何て言ってるんだろう。
英語……とも言えないような、不思議な言葉を女の人は話してます。
そんな事を、女の人が一分くらい喋った後、ホールの地面が光り始めました。
魔法陣がぴかぴかって輝いて、神秘的な感じ。
「わわっ!」
こんなのがあったんだ。
部屋の内装に気を取られて気づかなかったみたい。
だけど、私がびっくりして驚いちゃってた間に、状況が変わってたみたい。
ディール君がはっとした様子で、こっちに来て……「侵入者だ」って、えっ?
マントを盗られて、腕を掴まれちゃったの。
「いたたっ!」
凄く強い力だったから、思わず悲鳴を上げちゃった。
デイール君はそれでびっくりしちゃって「ハルカか?」って。
バレちゃったみたい。
ごめんね。ディール君。不法侵入しちゃった。
「おいおい……っ。ミツバ、計画変更だ」
それから、ミツバって人がこっちに来るんだけど、その間に
さっき不思議な事を言っていた女の人が体を震わせて、倒れちゃった。
糸が切れたみたいな感じだったから、凄く心配になっちゃう。
「あっ、大変!」
そんな事を言えば、ディール君に「まずお前が大変だろ」って言われちゃったけど。そんな事ないよ、怪我人さんの方が優先だよ。
「あれ?」
だけど、ディール君に何か言おうとした瞬間、何かが体の中に流れ込んでくるのが分かったのです。
熱い。
とてつもなく大きなエネルギーが、自分の中に宿っていく感覚がしたの。
「ふぇ?」
そう思ったとたん、魔法陣の光が消えて今まで静かだったホールにどよめきのようなものが、満ちていることに気づいた。
周囲から集まる、視線、視線、視線。
「えぇぇ……?」
何だか私、とっても見られてるみたい。
はっきりと、この部屋にいる皆は私の事を見ています。
不法侵入の悪者を見る目とはちょっと違う感じ。
憤ってるとかそういうのじゃなくて、まるでありえない事が起きてるのを見ちゃった様な。
「どういう事だ、管理者権限が継承されなかった」「我々が選んだ人間ではない人間に、なぜ……」「そもそも奴は誰だ、一体どこから……」
そして、次に戸惑うような雰囲気が満ちていって、最初に動揺する中で動いたのはディール君達。
「ディール! 作戦変更です!」
「マジかよ!」
「ふぇっ!」
そして、「よっこらせ」と私はディール君に担がれちゃいます。
私、そんなに重くないよ!
同時に、ミツバさんって人が何か丸いのを投げて、ホールの中が煙でいっぱいになっちゃいます。
「口ふさいどけ、あと鼻もな」
それじゃ、息ができなくなっちゃうよ。
そうして私はそのまま、ディール君にどこかへと運ばれていっちゃいます。
これ、特別なイベントとかなのかなぁ。
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