第3話 歌う鳥のお話



 空でピカピカ輝くソングバードの星。

 子供の頃に、近所のお兄さんがその星を指さして、あれは私の星だよって言ってくれた事があるの。

 風に瞬く星達は、すごく小っちゃくて消えそうで、とっても寂しそうに見えました。


 けどね。

 その時お兄さんが教えてくれたの。


 あそこにいる星達は、とってもたくさんの友達がいるから、全然寂しくないんだって。


 嫌な事や悲しい事があって、私が泣いてた時、お兄さんはいつも空の星を眺めに誘ってくれて、そんな事を言ってくれたの。


 こうやって星を見れば、あのソングバードの星達が、空から降りて来て私達の悲しみを吸い取ってくれるんだって。

 あ、でも。人間には見えないんだよ。

 すっごく小っちゃいから。

 私達が気が付かないうちにやってきて、隠れてこっそり吸い取ってくれるんだって。


 効果?

 効果は抜群なのです。


 私はとってもすっきり。嫌な事も悲しい事も、明日になればほとんど吹き飛んじゃうの。


 その時のお話は今でも忘れられないなぁ。


 私にとってお空の星は、いつまでもソングバードの星なの。

 知らない間にやってきて、悪い物を全部吸い取ってくれる魔法の星。 


 お兄さん、教えてくれてありがとう。






 12/20 セントラルシティ


 唐突ですが、言います。

 私は今とても機嫌が悪いです。


 私の家の近所にはすっごく意地悪なお兄さんがいます。


 昔から知り合いのよく喋るお兄さんです。

 頭が良くて、とっても物知りな人だけど、どうしてか最近は会うたびに私をイジメてくるの。


 小春はアホだなとか、小春はおバカさんだなとか。

 とにかく色々。

 頭をぐりぐりしたり、高い高いしたりしながらそんな事いって、子供扱いしてくるのです。


「むぅぅぅーっ!」


 そのお兄さんときたら私と会ったら朝は「おはよう」の代わりにデコピンで、夜は「こんばんは」の代わりに頭をこづいてきます。

 大変な乱暴者なのです。けったいな人なのです。


「ふぅぅぅーっ!」


 それを学校の友達に言ったら、皆口をそろえて「構ってほしいんだよ」って言うんだけど、全然納得できないのです。


「うぅぅぅーっ!」


 だけど、いっつも気を付けようとガードしてても、なぜか先手を取られてしまいます。

 お兄さんはとても俊敏な人なのです。カメさんみたいにノロマな私じゃ、見てから反応するのは無理。予測しないと防げないの。

 いつかこっちからやり返せるようになりたいなぁ。


 そんな風に現実世界の事をひきずってログインした私は、路地裏で一人むくれてました。

 すると、そこに通りかかった男の子が、私に一言。


「お姉ちゃん大丈夫?」


 はっ。

 いけないいけない。


 我を失うあまりに、通行人に心配をかけてしまうのは良くない事です。


 とりあえず、私は「アイス食べ過ぎで、お腹がいたくなっちゃったのっ!」なんて、そんなとっさの出まかせを言っちゃいました。


 もっと上手な言い訳思いつかなかったのかなぁ、と思うけどしょうがないのです。

 だってその子が美味しそうなスープをマグカップに入れてもってたから。


 温かい湯気にまじって良い匂いが漂ってきてます。

 とっても美味しそうなのが。


「そっか、それは大変だねお姉ちゃん、これ飲む?」


 私の言い訳を信じてしまったその子は、何と自分がもってるマグをずおずと差し出してきました。


「ふぇっ!」


 びっくりしちゃった。


 とっても良い子だなって思うと同時に、ちょっと申し訳なくなっちゃう。


 断ろうと思ったけど、間が悪い事にお腹がぐうっとなっちゃう。

 不思議な事なんだけど、この世界でもお腹の音が鳴るんだよね。


 ちょっと、恥ずかしいです。

 それは、風邪とか引いてる人が無茶しないように、現実の体の状況をこの世界にもふぃーどばっくさせてるからだって、例のお兄さんが教えてくれました。でも、未だに詳しい事はよく分からないけど。


 恥ずかしさを誤魔化したくて仕方ないので、私は男の子から頂戴します。


「あ、ありがとう。いただきます。ごくごくごく……、美味しいっ。すっごく美味しいねっ!」

「わ、お姉さん飲むの早いね!」


 ごちそうさま。


 もらったスープを一滴の子さず飲み干したら、その美味しさに悔しさとか怒りとか、その他諸々のものは奥にひっこんじゃった。


「こう見えても、飲み物の早飲みには自信あるの!」

「わぁ、すごいや!」


 えへん。

 胸を張って自慢するの。

 友達に言っても呆れられるだけだけなんだけど、素直に受け取ってくれてすごく嬉しい。


「えっと、もらうばかりじゃなんだか申し訳ないから、お姉さんからも一曲プレゼントするねっ」

「お姉ちゃん歌得意なの?」

「うん、こう見えてもばっちり自信あるんだよ!」


 えっへん。

 胸を叩いて、自慢しちゃう。


「待っててね、何にしようかなー」


 持っているレパートリーの中を色々覗いて、一つをチョイス。


 目を閉じて集中集中。

 息を吸って吐いてリラックス。


 そして、心に浮かんだ音を言葉にするの。


「ら――――」


『 嬉しい気持ち 優しい気持ち 大切にしよう

  小さな想いの欠片あつめて行けば

  ほら いつの間にか幸せがいっぱい 』


 そんな気持ちをたくさん詰めて、お歌にしちゃいます。


「ふぅ」


 歌い終わって礼も忘れません。

 気が付いたら、肩に丸々したハミングバードが一羽乗っかってました。


 ふっくら蜜柑にみえる「まるまる」さんです。ずっとそうって呼び続けてるんだけど、どうなのかな。

 変じゃないかな。

 ディール君は「美味しそう」って言ってたけど。


「お歌どうかな、お礼になったかな?」


 まるまるを肩にのっけたまま、その子に尋ねれば、勢いよく首を振られちゃった。


 それで、興奮してるのかちょっと早口で感想を言ってくれる。


「すごいよ、お姉ちゃん。僕、びっくりしちゃった! すごく良い歌だったよ」

「えへへ、ありがとう。そう言ってくれると、とっても嬉しいよ!」

「心が温かくなるみたいだった。魔法みたいだね」

「うんっ、歌は魔法みたいだって思うよ。だって、凄い歌は人を楽しい気持ちにさせたり、感動させたりできるもん」


 少年と二人手をとりあって、ぴょんぴょん飛び跳ねます。


 不思議。

 さっきまでとっても怒ったり、悔しかったり、悲しかったのに、凄く嬉しいの。

 今日はなんだかとってもいい日だな、って思えてくる。


 やっぱり歌って魔法だよね?


 この世界の不思議な現象を起こす魔法とは違う、あったかい心の魔法。


「お姉ちゃん、ここじゃ見かけない人だよね。旅人さんなの?」

「うーん、どうなんだろう。たぶん、そんな感じなんじゃないかなぁ」


 NPCさんから見たプレイヤーさんの事は、色々他に言い方があると思うけど、ちっちゃな子供に言うにはちょっと難しいかも。

 だから私は曖昧に頷いておきました。


「だったら、町の中央にあるおっきな建物見にいった方が良いと思うよ」

「おっきな建物?」

「うん、すごくおっきくて、だから凄いんだ。ヨゲンのカンリをしてるんだって」


 じゃあ、見に行こうかな。


 でも、そんな建物あったかなあ。


 うーん。今までずっとこの町で色々してたけど、行ってない所ってあったかな。


「教えて教えて、どこにあるの?」

「えっとね……」


 路地を出て、さっそく私はその場所目指して歩き出そうとします。


 ……とととっ、危ない危ない。

 忘れるところだったなあ。


「ハルカ! 私の名前はハルカだよ。君の名前を教えて!」

「ディーゼ! ディーゼフだけど。ディーゼって皆は呼んでる!」

「ディーゼ君だねっ。また会おうね!」

「うん、ハルカお姉ちゃんも!」


 一番最後に自己紹介を終わらせて、私はディーゼ君の教えてくれた場所へと、足を向けていきます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る