第11話

いつもように教室に入って自分の席に座る。


君から預かった爆弾を抱えて。


このカメラを持っている限り、いつ君が教室に「大野 健太君いる?」と押しかけて来てもおかしくない。


下駄箱に返したくても、入れるスペースはないし、個人のロッカーも教室内にある。


爆弾は常に僕の近くに置くしかなかった。


さらに僕は、教室の後ろの黒板に書かれた文字に肩を落とす。


6時限 全校集会。体育館にて生徒会決議。


全校集会ということは、もちろん君も参加する。

全校集会で集会が始まる前の喧騒の中で話しかけられたらたまったものではない。


しかも、生徒会決議というのは、委員会の予算やら生徒会の役員の信任決議など、学校の一生徒としては、どうでもいい決議しかしないイメージだ。

拍手で賛成か反対を決める決議方法は、本当に生徒の意思を反映できているのか、いつも不思議に思う。


「おはよう健太」

そんなことを思っていると、何も知らない響は、いつもの笑顔で挨拶して来た。

「おはよう。今日、短縮授業だっけ?」

なにかとイベントがある日は、授業時間が五分短縮される短縮授業というものが存在する。

「そうだった気がするよ」

部活に入っていない生徒からすれば、帰宅時間が早くなる天国のような日だが、部活加入組にすれば、部活の時間がいつもより少し長くなる日でもある。

「しかも、今日、日本史のミニテストだぜ」

響がため息をつきながら椅子に座った。

日本史や世界史といった暗記科目が得意な僕にとって日本史は、点稼ぎ教科だ。

響は、英語や国語が得意な一方、数学や日本史を苦手とする。


大野と松田を足して二で割ったら丁度いい。


よく先生からそう言われる。


「ちょっといいか?」

地理担当の教師である飯島がプロジェクター手に騒がしい教室に入って来た。

「一時限の英語だけど、畠山先生が急用で来れないから、自習な。プロジェクターとスクリーン置いておくから、好きな映画でも見てろ」

そう言ってカゴに入れられたDVDを置いた飯島。


クラスのボルテージは急上昇。


英語が得意な高校生は少ないと思う。

つまり、英語が自習になり悲しむ者も少ない。


「どうする?最近、話題のララライフかグローバルショウマン、君と心臓、密着警察ドキュメントのどれがいい?」

飯島が笑顔でラインナップ紹介するが、癖が強すぎる。


さっきのボルテージが嘘かのようにみんな黙り込む。


クラスメイトは、飯島の提案に一喜一憂しているが、爆弾を抱えている僕は常に落胆。


警察ドキュメントでも何でもいい。

とにかく、カメラという名の爆弾をどこかにやりたい。


「ホームルーム始めるぞ」

いつものように担任の篠崎が教室に入って来た。

「すみません。篠崎先生。一時限の指示してました」

「どうぞどうぞ。みんな、連絡事項なしだから、今日も1日元気よくな!」

そう言って篠崎は、教室を出て行った。


結局、篠崎は顧問のくせに、何も言ってこない。

君に頼まれてテストに入部届をくっ付けたぐらいで、関わってこようともしない。

放任主義なのか、それとも篠崎だけは、入部拒否届を受理してくれたのだろうか。


何を上映するのか決まったのは、少し時間が経ってから。


結局、プロジェクターが映し出したのは、飯島の提案が通った形だった。


女子は、興味がないのか小声で話し、男子も一部を除いて、全くスクリーンを見ていない。

あまり、人気がないようだ。


パトカーが違反車両を追い、切符を作成する。

逆ギレしたり、見逃してくれと言い出す者。


盗撮犯確保の特集では、一瞬変な汗をかいてしまったが、それ以外は、ぼーっとスクリーンを眺めて時間が経つのを待った。


酔って人を殴るもの、泥酔してパトカーに乗せられるもの。


この世には、くだらない大人が多すぎる。

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