第10話
最後の一枚は結局、流れ着いた場所で撮影したが、写真を撮ろうと思って被写体を探すのが、これ程大変だとは知らなかった。
「お兄ちゃん死んでるの?」
妹の紗季が部屋を覗いてそう言った。
今までに使ったことのない神経を知らぬうちに使って身体が疲れているのか、とても眠い。
ベッドに身体が接着剤で接着させられたかの様に、僕はベッドから起きられなかった。
「お母さん。お兄ちゃんが死んでる」
階段を下る足音が部屋まで聞こえる程、紗季は階段を勢い良く下っていく。
五枚きっちり撮影し終えた僕は、カメラを君の下駄箱に入れて帰ろうとした。
しかし、カメラを入れるスペースがなく、結局僕が家に持って帰る羽目になった。
荷物が一個増えたのは、まだ仕方ないと許せるが、高そうなカメラをぶつけたり落としたりしないように、注意しながら持ち帰るのは苦痛だった。
そして、今日は、やっとの思いで持ち帰ったそのカメラを学校まで運ばなくてはならない。
カメラの乱、登校の陣。
僕がそう勝手につけた名前が頭の中をこだまする。
「健太。死ぬならもっと親孝行してから死になさい」
一階から聞こえて来た母親の声。
まだまだ僕は死んだふりが下手なようだ。
ゆっくりと起き上がった僕は、壁にかかっている制服に着替え階段を下る。
「お母さん。お兄ちゃん生き返ったよ」
玄関でスカートの埃をはらっていた紗季が笑顔でリビングに向かって叫ぶ。
「死んでないわ」
「うわぁ、ゾンビが喋った」
中学二年のくせに考えや行動が幼稚な紗季は、僕と違って明るい性格で頭がいい。
社会で得するのは紗季のような人間だ。
父親から何度も言われたそのセリフが、何処からともなく聞こえて来た気がする。
「じゃあ、行ってきまぁす」
笑顔でスカートをひらつかせて出て行く紗季を見送ると、僕はリビングのいつもの席に黙って座る。
「遅刻するよ」
母親はそう言いながらテレビを見ている。
「まだ大丈夫」
いつものように朝食を済ませてから歯を磨き、テレビを少し見てから家を出た。
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