第5話

入部届。


そう書かれた見出しの横に、「三十」と書かれている。


嫌な予感がした僕は、苦手な算数を駆使してテストの配点を計算する。

各問題の末尾に点数が書かれており、それを見れば配点が分かる。


何度も苦手な算数を駆使し計算するが、やはり予想通り。


一枚目の問題では、合計七十点しか取れない。

つまり、入部届を書かなければ満点は、とれない。


とりあえず一枚目を回答しようと決め、七十点分の問題を解き終わると、入部届に目を通す。



滝ヶ丘高等学校 校長殿


私は、部活道の目的に添った正しい活動を行い、部活動に励み、校則及び部活道の規則を守ります。

また、写真部に入部することを強く希望することから、入部を許可願います。



そう書かれた文面に、既に写真部の文字と日付は記入されており、あとは本人署名欄だけを埋めれば、完成するところまで作られていた。


何が写真部に入部することを強く希望しますだ。


こんなもの無視だ。

呆れた僕は問題用紙を勢いよく裏返す。


篠崎に視線を向けると、篠崎は「マケドニア王国の秘密」という世界史に出てくる国名の本を熟読している。



何なんだこの学校は…。



溜息をつき、再び答案用紙に視線を戻す。


白紙のはずの問題用紙の裏面に、丸みを帯びた綺麗な字で何か書かれていた。


大野 健太君へ


私が教室に行ったあの日から一週間、君が何も言って来ないので、先生に頼んでこのような手段を選びました。

入部する、しないに関係なく、君が意思表示をすれば、三十点貰えるように頼んであります。

白紙なら、三十点失うのに加え、また、私が説得に行きます。


よろしくね。


追伸

また、彼女?って噂されたいなら白紙にした方がいいと思うよ。


あの時のクラスメイトの声は、君にも聞こえていたようだ。

まぁ、「入部する、しないに関係なく」ということは、断ってもいいということだと理解し、僕はシャーペンを握った。


「はい。終了。シャーペン置いて」

意思表示をしたと同時に、篠崎がテスト終了を告げた。

問題用紙を再び裏返し表面に戻す。


テストは配る時と同様、再び一人一人篠崎が回って回収し始めた。

これも、入部届の存在を他の生徒に知られないための工夫だろう。


僕は、わざと窓の外を眺め、篠崎に表情を見られないようにし、篠崎が回収するのを待つ。


犬を散歩する老人に渋滞。

窓の外にはいつも通りの日々が流れていた。

たが、このガラス一枚で、面倒な事になっている人間がいる。


この差って何なんだ。


しばらく待つと、何もなかったかの様に、問題用紙と答案用紙を篠崎が回収して行った。


「はい。じゃあ、一時限目の数学の用意して待機な」

そう言って教室を出て行った篠崎は、鼻歌を響かせていた。


「なぁ、せっかく酒井に教わったこと、さっきのテストのせいで忘れたんだけど」

僕も響と同じ状況に陥っている。

ただし、テストだけが原因ではないけど。

「だな」

「また教えてくれよ酒井」

「全然いいぞ」

酒井の笑顔に安心しながら、最悪の事態を想定する。


また君が教室に押しかけ噂される。

しかも、今度は怒っているかもしれない。

一週間何もしなかったのは、二回目だ。


まぁ、とりあえず今は、数学のテスト対策に集中しよう。


「私も教えて」

そう言って佐野さんが加わって来た。

また同じメンバーで、同じところを教わる羽目になるとは…。


呆れた僕は、溜息をついて数学のノートを机の上で開いた。





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