第4話

いつもの時間に起きて、いつもの時間に家を出る。

そんな、いつも当たり前のようにしていたことが、こんなにもおっくうなのは、君のせいだ。


あの日、君が教室に来た。


次の日から、クラスの男子に「付き合っているのか?」など質問と噂をされ、それを否定すると余計に不審がられ、強く否定も出来ない。


最悪の悪循環に陥っていた。


日々、否定すること一週間。


その一週間、君に会ってはいない。

というより、二年生がいるところを避けて生活して来た。


何とか噂も忘れられつつあるが、君と校内でばったり会えば、クラスメイトは、思い出し噂は、再び瞬く間に広まるだろう。


「おはよう」

僕の親友である松田 響が、僕が席に座ると、いつものように声をかけて来た。


響だけは、あの日以降も僕にいつものように接してくれる。


「おはよう」

そんな響に、僕は笑顔で挨拶を返す。

「なぁ、今日の数学のテスト分からない事だらけ何だが…」

「だよなぁ。俺もよく分かってないからさぁ」

数学というより、小学校の算数で躓いている僕にとっては、数学など魔の教科にしか思えない。

テスト勉強や本を静かな教室でするのが好きで、朝は早めに登校している。

その早めに登校組のメンバーが、僕の友達に多い。

「なぁ、酒井。数学得意だろ。数学教えてくれよ」

そう言って響は、隣の席の酒井 隼也に声をかけた。

酒井は理数脳で、社会や国語が得意な僕や響に助けを求めてくることがある。

「この前のテストの恩もあるし、教えやるよ」

そう言って酒井が、数学の講義を開いてくれることになった。

場所は廊下を挟んだ向こうの休憩室。

この学校は、廊下を挟んで両サイドに教室がある。

グラウンド側に教室。廊下を挟んで反対に化学室や美術室などの特殊な教室がある作りで、狭い敷地に建てられた特殊な校舎だ。

いくつか、教室の合間に広いスペースがあり、自販機やテーブルと椅子が置かれ、勉強出来るようになっている。

三人が席に着くと、酒井の講義が始まる。

三平方の定理やら、サイン、コサイン、タンジェントやら、魔法界の呪文にしか聞こえない僕の頭は混乱する。


「私も教えてもらっていいかな?」


男子だけの講義に、突然聞こえて来た女性の声に驚き、僕は顔を上げた。


クラスメイトの佐野 詩織。

クラスのマドンナの登場に、休憩室のテンションは上がる。

一瞬、君が来たかと思って驚いた僕が、バカバカしくなる。


「もちろんさ!」

酒井が笑顔で返すと佐野さんは、ちょこんと僕の隣に座った。


佐野さんの素敵な香りにうっとりしていると、響がニヤニヤしてこっちを見ていた。

その視線に、気付いた僕は、慌てて勉強モードに切り替える。


それから、ホームルームが始まる直前まで、酒井の講義は続いた。

何とか赤点は取らない程度まで理解した三人は、酒井に頭を下げて教室に戻る。


「恋多き人間だな」

響がニヤニヤしながら言う。

「そんなんじゃないって」

笑顔で否定する僕を、なぜか微笑みながら見つめた響は、自分の席に戻って行った。


朝の教室のざわつきの中、僕は窓の外を眺めた。

国道を走るパトカーに、一筋の飛行機雲。

高台にあるこの学校は、市内を一望できる。

ここからの夜景は綺麗そうだ。

「はいはい。静かに」

そう言って教室に入って来た篠崎は、大量の紙と教科書を持っていた。

「突然ですが、ホームルームの時間を使って、化学のミニテストを行います」


「はぁ?」

「えー」

教室にそんな声が響く中、笑顔でテストを配る篠崎。


せっかく酒井の講義で頭に入れた数学の知識が、このテストのせいで頭から抜けてしまいそうで不安だ。


一人一人手渡して答案用紙を配る篠崎は、とても笑顔だ。


抜き打ちテスト。


やっと自分のところに問題と答案用紙を配りに来た篠崎が、僕の机の上に問題と答案用紙置く。

抜き打ちテストの割に、問題用紙が二枚あり、左上でホチキスで留められている。


「それでは始め」


そう言って腕時計をいじる篠崎は、なぜかこちらを見つめている。


そんな事は気にしないと自分に言い聞かせ、問題を解いていくと、クラスメイトと自分の問題用紙の違いに気が付いた。


クラスメイトの問題用紙は一枚だけ。


恐る恐る一枚目をめくる僕は、背中に変な汗をかいた。


二枚目の紙に書かれた言葉に目を疑う。




こんなやり方ありかよ。

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