第3話
「マジっすか?」
「マジっす」
君は笑顔で即答した。
唯一の部員ということは、君が卒業したら、写真部は部員ゼロ。
なるほど。
「だから、こんな強引に入部させようとしてるんですね」
呆れた僕は、近くの椅子に腰を落とした。
「まぁ、それもゼロとは言わないけど…」
君はそう言うと、なぜか言葉を詰まらせた。
「けど?」
「ここで、初めて会った時に、容疑者は写真を撮る真似という口実で、私を盗撮したことを隠そうとした」
「だから、盗撮してません」
「しかも、容疑者は時間がないアピールをしたかったのか、スマホで時間を確認したでしょ?その時、スマホの壁紙が夜桜の写真だったことに、私は気付いたの」
時間がないアピールが作戦とバレていた恥ずかしさより、その一瞬で壁紙が夜桜だということに君が気付いたことに僕は驚いた。
「ネットで写真を検索すればいくらでも有名な写真家が撮影した写真とかは出てくる。その画像を容疑者がネットで見つけたにしろ、自分で撮ったにしろ、その写真を選ぶのは、多少、写真のセンスがあるのかな?って思ったの」
僕はスマホの壁紙を黙って見つめた。
地元で有名な川沿いの桜並木。
川に向かって伸びる桜の枝と川面に浮かぶ桜の花びら。
その風景を邪魔しないように、間接照明程に、桜がライトアップされている。
これは、自分で撮ったと正直に言うべきか。
それとも、ネットの画像だと嘘をつくべきなのか。
一瞬悩んだ。
ここは、嘘をついた方が楽だ。
しかし、次の瞬間、自分の口から出た言葉に自分自身が驚いた。
「これ、自分で撮りました」
やばい。
「それなら、センスあるよ。大野 健太君」
ほとんど名前で君から呼ばれた事のなかった僕は、名前で呼ばれたことに、ドキッとしてしまった。
恥ずかしい。
「たまたま、撮れた写真なんでセンスなんて自分にはありません」
「たまたまでも、少しはこの角度いいなぁとか思ってる撮ったでしょ?」
まぁ、確かにそうだ…。
だが、たまたまや奇跡ということが、この世にはある。
「カメラをいじったことは?」
「インスタントカメラならありますけど」
「一眼レフとかは、触れたこともない感じか…」
腕を組んで悩み始めた君は、数秒天井を仰いだ後、いつもの笑顔を見せた。
「まぁ、何とかなるって」
「ならないと思いますけど?」
「優しい先輩が、手取り足取り教えるから、心配しないで」
突然、椅子から立ち上がり、僕の両手を握りながら君はそう言った。
「もし、僕が入部しなかったら、この部活は廃部になるんですか?」
「ならないと思うよ。別に何も言われてないから」
君は僕の手を離し、そう言って席に戻る。
「なら、僕が入部する意味あります?」
「まぁ、正直何となく誘っているからね。あの一瞬でビビっと来たのは、確かだけどね」
君はふかふかの椅子でくるくる回りながら、髪をいじっていた。
「何となくなら、断ってもいいですよね?」
呆れた僕は、思い切って切り出した。
「まぁ、いいけど。その代わり、断る理由を教えて」
君はニコニコしながら足を組む。
君のスカートから覗く細く足に、思わず目がいってしまう。
「前も言いましたが、フットサル部が気になってるので、遠慮します」
「へぇ、フットサル部の見学に行ってもいないのに?」
なんでそれを知っているのか。
冷や汗が止まらない。
そして、返す言葉が浮かばない。
「新島 華をなめんなよ」
言葉とは反して笑顔の君。
天使の感情をよむのは難しすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます