第99話 099 進撃と反撃


 マリーの待つトラックの前に設置された迫撃砲の所へ滑り込んだ男。

 そこは、丘の斜面で陰に為っている場所なので比較的にだが安全では有る。

 それでも男達の頭上を幾つもの火の珠が飛び行く。

 それを目で追いながら、空の状態も目視で確認。

 その空は分厚い雲で覆われていた。

 兵士達の気持ちも重いが、空も重い感じだ。

 降らなければ良いのだが。


 「反撃が始まったのね」

 マリーが頭を低くして呟いた。


 丘の高さを考えると、頭を下げる必要も無いのだが。

 その気持ちはわかる、男もやはり下げたく為る。


 「まだ、魔法だけの様だが……」


 「そのうちに、銃の弾ね」


 「マリー達の造った魔法銃、ライフルの様なモノは奴らは持っていない様だ」


 「あなたが教えたライフリングが無いから真っ直ぐ飛ばないし、そもそもが無理よ」

 

 「ジャイロ効果もわかっていない様だしな」


 「この世界の科学も文化も転生者の知識による処も大きいから」


 「成る程、外からの知識に頼っている限りでは、発想のブレークスルーも起きにくい……か」


 「そう言えば、言葉も日本語だしな」


 「最初の転生者が教えたんでしょうね」


 「それ以前は、原始の世界か?」

 男は笑ってしまう。


 「かもね……」


 単純にエルフが支配していたのかも知れない、エルフにとっては言葉も然程必要の無いものだろうし。


 『迫撃砲の射程に入りました』

 ジュリアからだ。


 カラスを使い、映像で確認して、照準を合わせるマリー。


 「準備はいい?」

 マリーが爆弾を片手に、声を掛けた。


 それに、皆が頷いた。

 

 マリーが筒に爆弾を転がす。

 スポンと、軽い音と共に爆弾が打ち上げられた。


 男を含めた他の者もそれに続く。


 狙いは、敵の最前線。

 後方はカラス達が爆撃を続けている。


 まだ、補給部隊は発見できて居ない、見付け次第にそちらを標的に変えろとは指示してある。

 上手く隠れている様だ。

 もしかして、上空から見ている事に気付いているのかも知れない。


 男は、テンポ良く爆弾を筒に入れていく。


 カラスの念話の映像で見る限り、敵の進路を上手く潰している様にも見える。

 それでも、数が多いので派手な爆発の割には進軍は止まらない様だ。

 爆弾自体の威力が低いのかも知れない、手榴弾に毛が生えた位なのか?


 それはマリーもわかっているのだろう、火薬と魔法の分量が……等と呟きながらに考えている様だ。

 今更だとは思うのだが、爆弾錬金術師と言われただけあって拘りが有るのだろう。

 もちろん、爆弾の投下は忘れずに。


 スポン。

 スポン。

 スポンと、小気味良く音を響かせ飛んでいく爆弾。


 そこに、今度は突撃ライフルの連射音が乗っかり出した。

 敵が射程に入ったのだろう。

 

 「マリー、照準を手前にずらしてくれ」


 「わかった」

 そう返事を返して、男の迫撃砲とマリーのを移動させる。


 ん? 何処へと見ていると、ゴーレム達の間に置いていく。


 「三人で五つを使って」

 マリーはそう告げて、順番に調整を始めた。


 「俺は?」


 「私達は、塹壕に行きましょう」


 男は頷いて。

 「わかった、先に行っている」

 グレネードを握り直して走り出した。


 その塹壕はもう普通に近付ける状態では無かった。

 敵の弾が至る所で跳ねている。


 裏の溝に為った所からジュリアの所に回り込む男とマリー。


 「どうだ?」

 声を張り上げないと届きそうに無い程の爆音。


 「勢いは止まらないです」

 ジュリアはライフルのボルトアクションをしながらに返事を返す。


 男もソーッと覗こうと塹壕から頭を出そうとした、その時。

 下に引き摺り戻された。

 見ればマリーだった。


 「忘れ物よ」

 と、ミスリル銀製のヘルメットを男の頭に被せてくる。


 自身もそれを被っていたのだが。

 サイズが合わないのか常に斜めにズレていた。


 見ればジュリアも被っている。

 回りの皆もだ。


 そこに、カエル達もやって来た。

 ジュリアの横で銃剣付きの古いタイプを撃っている。もちろんヘルメットは被っているのだが……乗っかている?

 カエルの頭って何処までだ?


 そして、シルバも来た。

 

 「あれ? 迫撃砲は?」


 「セオドアさんに変わって貰いました」

 

 「そう言えば居たな……最近拗ねて出てこないから忘れていた」


 「酷いですね」

 シルバはチロリと男を見て。

 「でも、わかります」

 そして、小さく頷いた。

 「そのセオドアさんも、どうせ俺なんて……そう呟きながらに撃ってましたし」

 そう言いながら笑っていた。

 

 そのシルバも古い方の銃を構えて壁にへばり付く。


 その横に、ゼクスとアルマも並んで居た。

 「ネズミ達とピーちゃんが変わってくれました」


 ピーちゃんはわかるが、ネズミ達はどうやって爆弾を筒に入れるんだ?

 でも、迫撃砲の爆発音は変わらずに響いている。

 詰まりは撃てているのだ。

 後で聞いてみよう。


 そして、最後にコツメも来た。

 火の魔法を壁に持たれながら撃っている。

 もう火炎の術とは言わなくても良いらしい。


 男も参加すべく、ソーッと覗いて見る。

 目の前に敵が走り込んで来ている。

 距離にして、埋めた地雷の倍程の所だ。

 ソコに、グレネードを撃ち込んで見た。


 狙った積もりは無かったのだが、見事に敵に命中させる事が出来た、これはスキル投擲が効いて居るのかも知れない……グレネードも投擲武器なのかと少し首を捻るが、スキルはそう判断したようだ。

 そして、その敵なのだがキチンと倒れてくれた……と、言うか爆散した。

 自分でやったのだが……少しグロい。

 罪悪感も残る。


 しかし、すぐ側で弾ける弾丸がその思いも弾け飛ばしてくれる。

 今は、撃たなければ殺されるのだ。

 それは、敵も同じ。

 躊躇をしている暇は無い。

 

 カーンと、男のヘルメットに弾が当たった。

 ビクッとさせて、すぐに塹壕の底に逃げる。


 その、塹壕の底には等間隔で腕の太さの倍位の穴が立てに掘られている。

 男が命じて掘らせたモノだ。

 深さは、長剣が埋もれるぐらい。

 皆にこれはトイレか? とか突っ込まれたのだが、違うのだ。

 水抜の穴でも無い。

 その内にわかるだろう、この立て穴の意味が身に染みて。


 そんな事よりもだ、と、男はグレネードを斜めにして撃ち始めた。

 少し手前で爆発音が響く。

 一瞬、打ち損じたか? と、見るも違う様だ。

 敵の投げた手榴弾の様だ。

 まだ、塹壕迄は届かない様だが、威圧感はしっかりと有る。

 それに、性能もマリーのよりも良さそうだ。

 破壊力は確実に上だし、それでいてサイズも小さい。

 マリーのはソフトボールサイズ、奴等のは野球ボールサイズ。

 負けているぞ爆弾錬金術師と、男はマリーを見ると。

 そのマリーもジタンダ踏んでいた、相当に悔しいらしい。

 それでも銃の性能は勝っているのだから良いじゃないかとも思うのだが……。

 やはりそれは別物の様だ。


 また、近くで爆発した。

 弾けた土がパラパラと降ってくる。


 「雨に為れば最悪だな」

 男は顔に被った土を払いながら。


 『もうすぐ、降り始めますよ』

 シグレの予報だ。


 「どのくらいの雨に為りそうだ?」

 顔をしかめながらに聞く男。


 『本降りに為りそうです』


 「爆弾は、濡れても大丈夫なのか?」

 マリーに聞いた。


 「多少は……大丈夫だけど、びしょ濡れは駄目よ」


 「不味いな」


 「銃は大丈夫です」

 ジュリアが答えた。

 「転送魔法で弾は直接に銃の中に入りますから、水中でない限りは問題は無いです」


 それはやはり優秀だ。

 弾切れの心配も無いのだから。

 奴等の銃はどうなんだろう。

 一応は参考にして造ってはいるが、そもそも魔法学校で見た銃が最新式では無いのは確かだろう事はわかる。

 あの時の銃なら、雨に弱い筈なのだが。

 その欠点も克服されている可能性は高いと思われるのだが、どうか?

 

 そんな事を考えていると、ポツポツと雨が降り始めた。

 雨粒が頬を撫でる。

 しかも、みぞれ混じりだ。

 緊張で気付かなかったが随分と冷え込んで来ている。


 「長引けば……キツいぞ」

 男は恨めし気に空を睨んだ。

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