第96話 096 逃げてくる味方

 

 男はホテホテと、塹壕とは反対側に歩いていく。

 面倒臭いので、司令部のテントは遠巻きにして。


 そして、簡易的に作られた射撃練習場の様なところに出た。

 と言っても、横にロープを張られただけの草原なのだが。


 そこには、ジュリアが一人で居た。

 ライフルを撃っている。

 その銃、良く見ればスコープが付いている。

 

 立ち膝で、草の高さに銃口を合わせて、スコープを覗き、そして引き金を引いた。

 銃声を響かせたその後、すぐにスコープをいじって調整を始める。


 「スコープ……造ったんだ」

 思わず呟く。

 「レンズはどうしたんだろう?」

 この世界にもガラスが在るのは知っていた。

 だが、レンズを造るとなると正確に削る必要が有る筈、歪みが出れば何も映らないだろうに。


 「レンズは使っていないわよ」

 後ろからマリーの声。

 その手には、幾つもスコープを持っていた。

 試作品か?


 そのまま、ジュリアの所に行き。

 「これも試して見て」

 と、それを渡す。


 頷いたジュリア、スコープを付け替えて、撃つ。


 「レンズ無しでどうやって?」

 男も側に寄り聞いてみた。


 「魔法よ……遠目ってスキルが有るでしょ、それを魔法で再現して筒の中に仕込んだのよ」

 マリーが答える。


 「倍率の調整が難しいです」

 ジュリアがそれを外してマリーに渡す。


 「倍率か……」

 唸るマリー。


 「その魔法を2つにして、その間を伸び縮みさせれば?」

 単純にレンズ2つの望遠鏡をそのまま、レンズを魔法に変えただけ……そんな男の提案にマリーがポンと、手を叩く。


 「成る程、遠目を遠目で覗くのね」


 「伸び縮みだけなら、目を切らずに撃てるかも」

 ジュリアも頷いていた。


 「作ってくるわ」

 マリーはトラックの方に走っていった。

 

 それを目で見送り。

 ジュリアに向き直る。


 「弾は真っ直ぐに飛んでいるのか?」


 「少し、曲がったりするときが有るかな」

 ジュリアが狙いながら。


 「じゃあ、弾を回転させて見ればどうだ? ライフリングって言う方法なのだけど、銃口の中に渦巻き状の溝を彫るんだ、それで弾が横回転して曲がらなく為る筈だ」


 大きく何度も頷いて。

 「やってみる」

 と、ジュリアも走っていった。


 入れ違いにカエル達がやって来る。

 銃剣付きの銃を手に持ち射撃訓練を始めた。

 こぎみ良くパン! パン!と音をさせて、頷いて居る。


 そんな二人に声を掛けた。

 「新型の突撃ライフルを貰えば良いのに」


 『あれは、確かに軽いし撃ちやすいんですが……軽い分、暴れて狙いにくく為るのでさ』


 「そうなのか?」

 でも、この間は狙うな! って言ってなかったか?


 『大勢で撃つ分には問題ないのですがね……あっしらだけとなるとある程度は狙わないと、魔物相手だと、特に』


 成る程、戦争の為と、冒険の為は違うのね。

 「ふーん、そんなもんか」

 と、男は返事をしておいた。

 

 そして、今度はコツメとゴーレム達が来た、アルマも一緒だ。

 それぞれに、コツメとゼクスは短銃。

 シルバとアルマは新型の突撃ライフルを持っている。

 

 「その新型、今一らしいぞ」

 今聞いた話をする男。

 それに頷くムラクモ。


 「そうなんですか?」

 と、新旧を交互に撃ってみるシルバ。


 数発撃って、頭を掻くシルバ、そこに毛は生えていないが。

 

 「成る程……交換してもらおうかな」

 と、アルマを見てトラックの方に行く。

 その後をアルマも着いていった。


 「これは関係無いよね」

 適当に短銃を撃つコツメ。


 「ですね」

 盾を構えながら撃つゼクス。

 「片手で撃てるのはこれだけですもんね」


 「いっその事、アルマもこれにすればいいのにね」


 「アルマなら、両手に持って二丁拳銃が出来るかもね」

 と、前にマリーに垂れた講釈を思い出した男は笑いながら。

 敵の中に飛び込むアルマなら、それも有りなんじゃ無いだろうか、撃たれてもいいわけだし。


 「やてみます」


 後ろにアルマが居た。

 えらく早いなと、見ると銃は新型のままだ。


 「交換は?」


 「どうしようか迷って居たのです」

 と、途中で引き返してきたのだそうだ。


 「短銃を貸して貰えませんか?」

 コツメとゼクスに頼んで。

 そして、両手で構えて撃ってみる。


 フルプレートアーマーが二丁拳銃、左右で連続して撃っていた。


 「狙えませんね」

 撃ちながら。


 「それは気にしなくてもいいと思うよ、どうせ近付けば良いのだし」


 「成る程……確かに」

 アルマは頷いて。

 「これにします」

 と、銃を二人に返して、トラックに走っていった。


 皆、それぞれに自分に合う武器を探して居るようだ。

 

 「でも、ゼクスとかシルバの剣もカッコ良かったのに」

 男のそれは、独り言の積もり。


 「もちろん剣も装備しますよ」

 と、ゼクス。

 それにコツメも頷いた。


 が、良く良く考えればコツメに飛び道具は要らないだろう、魔法が有るのに。

 まあ、良いか……楽しそうだし。

 と、頷いた。

 自分だけ無いのも寂しいのだろう。


 と、ふと考え。

 「あれ? セオドアは?」

 セオドアだけ来ないな。


 「セオドアは駄目みたいよ」

 コツメが笑う。


 「体重が軽すぎて、撃てない様です」

 ゼクスが補足してくれた。


 成る程、そりゃそうか……ぬいぐるみだし。


 「拗ねてるから、トラックの中で踞ってたよ」

 コツメは大笑い。


 ありゃりゃ、俺の仲間だ。

 俺も隅に座って黄昏て来ようか。


 その日、一日はそんな感じで、敵襲も無くに過ぎていった。

 

 


 骸骨は国境近くの川で釣りをしていた。

 食料調達の為になのだが、一日まだ一匹も釣れていない。

 

 その背中で丸く成っているロリスは、幻影召喚で出した化身でエルフを大量に釣っていた。


 そして、その横にはサルギン達が火を起こし、自分達で捕まえた魚にかぶり付いている。

 サルギンは川に潜って手掴みだった。


 『魚はおるのにのう』

 そんなサルギンを見ながら。

 溜め息を一つの骸骨。





 頭目達は、やっとトンネルに入った。

 イライラは頂点だ。

 骸骨からの連絡は催促ばかり。

 

 何でこれを受けたのかと、フローラルの頭を叩く。


 「受けたのは兄貴なのに……」

 ハンドルを持つ手に力が入る。



 そして、次の日。

 トラックの中で寛いで居ると。


 ジュリアが男に銃を見せに来た。

 スコープも付いている。

 ライフリングも刻んだそうだ。

 自慢気に説明をしてくる。

 ウザイ、モードに入って居た。

 

 ハイハイと、半分聞いて……残り半分は右から左。


 と、その時。

 カラスから連絡が入った。

 

 何者かが、こちらに走ってきます。

 馬車と数名の馬に乗ったものです。

 

 「敵か?」

 と、男はトラックを飛び出した。


 『違う様です』

 

 「何か来るぞ!」

 そして、男は走りながら叫ぶ。

 

 男の後ろをジュリアも走っていた。


 『映像を送ります』


 え! あ、いや……そうか、土竜の時のやつか


 その送られて来たイメージは、見覚えの有る馬車が出来る限りのスピードで、草原の草を蹴散らし走ってくる。

 その脇にはその馬車を守る様にして、並走している騎兵隊が十数名。

 

 しかし、その最後尾が馬ごと揉んどり打って倒れた。

 カラスの映像だと、上空高度が高過ぎるのか鮮明さに欠けるのだが……。

 見える形は、攻撃された?

 馬が撃たれた様に見える。


 「味方の馬車がこちらに走ってくるぞ!」

 男はそう叫びながら、到達するで有ろう場所を指差し、土竜にイメージを送る。

 そこの塹壕の一部を埋め立てて通れる様にしてくれと、注釈付きで。


 すぐに飛んで来た土竜は作業を始める。


 その間に、男は兵士を集めて戦闘体制に入らせた。

 

 「馬車の後ろに敵が居るぞ! 何時でも撃てる様に構えておけ!」

 

 その言葉に、しっかりと反応して。

 塹壕の中に並んだ兵士達が、土壁にもたれて銃を構える。


 ほんの暫く、静寂が続き。

 男の遠目でもボヤけてだが、どうにか見えるぐらいに馬車が近付いて来た。


 その男に後ろからマリーが望遠鏡を男に渡してくる。

 

 「ジュリアのとほぼ一緒だけど、単体でも使えるでしょ」


 頷いて、それを片目で覗く。

 しっかりと見えた。

 馬車は、ルイ家ですれ違ったヤツだ、つまり大臣に化けた時に使っていたそれだ。

 その後方、騎兵隊は次々に倒れていく。

 やはり、何者かに撃たれている。


 そして、そのまた後方には銃を構えた騎兵が居た。

 乗って居るのはエルフだ。

 銃を構えていると言う事は、あれがフェイク・エルフなのだ。

 詰まりは敵だ。

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