第95話 095 黒い商人


 骸骨は、ルイ王の姿でプレーシャの広場に張られたテントの中に居た。

 その中には、暗い顔の正規兵の士官が居る。

 ルイ王は自身をマルクス大臣のコマだと名乗り。

 パルチザンに為りきりここに来たと、告げる。

 任務は、孤立した正規兵の救出だと、そして大臣もこちらに向かって居ると。

 続け様に説明をしたのだが。


 だがそんな、胡散臭い話に両手を上げて喜んだ士官。

 完全に追い詰められて居たようだ。

 しかし、脱出するだけの体力も無いと言う。

 

 結局は大臣の補給待ちと為りそうだ。

 そして、その脱出にはプレーシャの市民達も一緒にと為った。

 この町にはもう既に食料も無いと言う。

 完全に兵糧攻めを食らっている様だ。

 と、言うよりも元からの食料は総てがヴェネトからの輸入だよりだったので、おのずとそうなってしまったのだ。


 食料の調達先として、町の外の獣か魔物は? と聞いたルイ王。

 はたと、困り果てる。

 そう言えば、ここまでの道中にどちらも遭遇していない。

 エルフ共が狩り尽くしたのだろう。

 国境を越えても動かなかった、その時間を利用してなのか。

 まあ森林監視官としての能力を使えばそれも容易い事なのだろうと思われる。

 タウリエルを基準にしなければだが。


 そんなわけで補給を待つしか無いようだと、骸骨は一人テントを出て、カラスに聞いた。

 

 その補給を運ぶ大臣達はやはり、まだトンネルにすら到達していない。

 それを、確認したルイ王は時間が勿体ないと首を振る。

 


 その頃、男達は塹壕の壁に張り付いたままに一時間程に為っていた。

 敵からの銃弾は、もう既に飛んでこない。


 ジュリアも完全に見失ったと、銃を下げて背中を土壁に預けるようにしてしゃがみ込んでいる。


 マリー達も、すぐに撃てる様にはしているのだが、その場に座り込み、待機中。

 時折、発光弾を打ち上げるのだが、敵は確認出来ない。


 逃げたのかもしれない。

 だが、その確証が持てないので、やはりここに居るしかない。

 長い夜に為りそうだ。

 ネズミを使えれば良いのだがとも、考えるのだが。

 いざ敵を発見した時にマリーの爆弾が使えなく為る、使えばネズミも巻き込む事に為ってしまうからだ。

 さてどうするか? と、男は悩んだ結果。

 ネズミ達には……敵が居た所からここの真ん中辺りで、横に拡がって貰う事にした。

 侵攻して来たら銃で返り討ちにしてやると、腹を括る。

 その事をマリーに話したらば、連射の効く銃剣付きの銃をゼクス達に取って来させて備え様との提案だ。

 もちろんそれに異存は無い。

 

 そして、男達は塹壕にもたれて、時を待つ。

 ネズミの防衛ラインを警報がわりにして。



 あれから何事も無くに翌朝を迎えた。

 日も登り始めた頃、男はカラスを飛ばして周囲を確認してみた。

 敵の姿は、何処にも見付ける事が出来なかった。

 既に逃げた後だったのだろう。


 ホッと溜め息を付き、男達の長い夜を終らせる事にした。


 正規兵と監視任務を交代して、とにかく眠りたい。

 全身、爪の先まで疲労していたのだ。

 重い足取りでフラフラに為りながらもトラックに乗り込み、そして倒れ込む。

 その隣にはジュリアも一緒に、仲良く気絶した。



 その日の昼過ぎ、目を覚ました男は、ノソノソとトラックを這い降りる、ジュリアを起こさない様に気を付けながら。

 

 外に出ればやたらに騒がしい。

 それを、何事かと覗けば。

 マリーが大量の魔法銃を、ピーちゃん幌車の床に描かれた転送魔方陣を使い運び出している。

 それはドワーフ村から送られてくる様だ。

 そして、それを送っているのがついこないだにコツメが里迄で送ったゾンビの錬金術師の女だった。


 設計図をドワーフに渡し、出来上がったモノをすぐに転送させているのだと言う。

 

 その設計図を作ったジュリアも流石だが、それをすぐに形にしてしまうドワーフ達も流石に凄い。

 それも短期間で大量に。

 

 銃は、銃剣付きのライフルよりも少し短いタイプ、男達が持っているヤツ依りもスマートで軽く成っている様だ。

 改良もされているとは、恐れ入る。

 今のそれは完全な突撃ライフルに成っていた。


 それを、ゼクスとシルバが兵士達に配っている。


 銃を手に取った兵士達は、テントの裏の奥へと順に歩いていった。

 男も、その行列が気になり着いて行くと。

 何も無い草原にロープで腰の高さに線を引き、ムラクモとシグレが教官と成って撃ち方の訓練をしていた。

 その姿は、ダンディーな親父とセクシーなお姉さんに化けている。


 その背後で、少将と大佐が腕を組、見ている。

 その側に寄り、男も見学だ。


 「狙う必要はない!」

 ムラクモが、銃声に負けじと怒鳴り声を上げている。

 「目標の少し下に向けて引き金を引けばいい!」

 

 「狙う暇があったら撃つのよ!」

 シグレだ。


 「反動に気を付けろ! しっかりと押さえ無いと手が弾かれるぞ!」


 「感触で覚えるのよ」


 ムラクモとシグレの怒鳴り声が永遠と続く。


 それを見ている大佐は満足気な顔をしていた。


 少将は、少しもの足らない顔で呟いた。

 「昨日の少女の銃は無いのだろうか? 細長いヤツだったが……」


 「ライフルですか?」

 男は、それに答えて。


 「扱える者を選別中です」

 ムラクモが怒鳴って返してくる。

 少し離れて居たのに、この音の中で良く聞こえたな? と、感心していると。

 「ライフルは才能が必要です」

 と、続ける。


 「ライフルと、言うのか」

 少将は頷いた。

 選別中との言葉に、あれも手に入ると理解したのだろう、満足気に変わった。


 「あの、爆弾を撃つ銃は?」

 今度は大佐だ。


 「あれは、弓と軌道が似ているので、弓兵に持たせるべきです」

 やはり、ムラクモは耳が良い様だ。


 「では、あれも売ってくれるのだな」

 少将の機嫌がもう一段、上がった。


 「もちろんですよ」

 ソコにマリーもやって来た。

 「順番にお渡しします」

 ニコニコだ。


 相当に儲けたな?

 足取りが軽すぎる。


 「運用方法は彼に聞いて下さい」

 と、男を指すマリー。


 思わず自分で自分を指差し、俺?


 片手を振り、頷いて、そのままトラックの所に戻るマリー。


 そして、男の前に少将と大佐が立ち、宜しくと頭を下げた。

 ため息とともに、仕方無いと諦めて。

 「テントに行きましょう」

 と声を掛ける男。

 


 男は、紙とペンを持ち簡単な地図を書き、図形を書いて説明を始めた。

 それを、その日の夜まで続ける。

 

 そして、やっぱり疲労困憊でトラックに戻り、気絶する。

 

 

 翌朝、目覚めて外に出れば。

 塹壕にもたれる、銃を手にした兵が等間隔に並んで居た。

 三交代制にして、監視を続ける様だ。


 昨日、教えたそのままに見事に軍隊をしていた。


 後方からは時折銃声も聞こえる。

 射撃訓練でもしているのだろう。

 希に爆発音もする。

 

 敵に見付かるんじゃないか?

 と、一瞬構えたが……良く考えれば、もう既に見付かっている。

 戦闘までしているのだ、問題無いと言う事だろう。

 

 男は、その音の方へと行ってみる事にした。

 男も仲間達も、三交代のシフトからは外れている。

 先の戦闘からマリーの武器調達迄で、いつの間にかに戦闘アドバイザーの様な立場に変わっていたのだ。

 それもまた、面倒臭いとも思うのだが。

 特に、下級正規兵がスレ違う度に敬礼をしてくる。

 それを見た傭兵部隊の冒険者達は遠巻きに逃げる様に為ってしまった。

 これは、少将と大佐のせいでもあるのだが。

 この二人、何か有れば……無くてもだが、男の側に寄り敬礼とその後に話し掛けて来る。

 それを、処構わずにやられれば、それはそう為るだろう。

 やりにくいたらありゃしない。

 実に迷惑な話だ。

 

 なので、今は男に仕事は無い。

 ここまで来ても……やはり仕事が無いとは。

 項垂れて、歩いていく。

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