第94話 094 銃撃戦
その日の夜には、骸骨達はプレーシャに潜入に成功した。
と、言っても、人に化けて普通に町に入っただけだなのだが。
ロンバルディア兵が偵察しているだろうからと、用意していた言い訳も必要がなかった。
もしかして全滅しているのかと心配になる程に、静かに呆気なく町に入れた骸骨達。
夜の町を歩いて進む。
骸骨はそのままルイ王になり。
サルギン達は少年の姿で着いて行く。
その後ろは、体格の良いデブが一名、のそのそと……ロリスだ。
町は静かだった。
夜だからだけでは無い、エルフに囲まれて閉じ込められた状態が続いたのだ。
町の皆も疲弊しているのだろう。
出会う人も、スレ違う者も居ない。
そんな中を、広場を目指して進む。
そして、いざその広場。
無数のテントが建ち並んでいた。
ロンバルディア兵だ。
そのテントの中にはしっかりと生きた人の気配も有る。
ウムと、頷いたルイ王。
その中の一番奥のテントを目指した。
夜のベルガモ防衛戦線。
塹壕の縁にもたれて、外を覗く男。
酷く冷える夜だった。
初夏も近い筈なのに、雪もちらつく。
今晩の監視兵の当番に立候補したのだが、少しばかり後悔していた。
寒過ぎる。
だが、初日の夜にいきなりの夜間監視任務……兵の集まりが悪すぎて言い出した男は仕方無いと諦めるしかない。
実際、数名しか居ないのだ。
男の見える範囲も全く居ない。
そして、敵の姿も全くに見えない。
分厚い雲のせいも有るのだが……月も隠れて真っ暗闇だ。
ここに戦線を引いてもすぐに敵も来ないだろうと、の思いも有り眠気に負けて欠伸まで出る。
そんな男に突然後ろから声が掛かる。
「サボってる?」
見れば、ジュリアとアルマだった。
「真面目に監視……やってるよ」
少し、間が空いたのは欠伸を誤魔化すために空気を顎で噛み砕いたのだ。
「こんなに寒いのに、寝たら死んじゃうよ」
と、ジュリアがコーヒーを渡してくれた。
ジュリアの入れたコーヒーは温かくて美味しい。
有り難うと、受け取る男。
「それ、アルマが入れたのよ」
と、ジュリアがアルマにニコリと微笑んだ。
「そうなの?」
と、すすり。
「うん、ジュリアの入れたコーヒーと同じくらいに美味しい」
「それは、私のコーヒーは美味しいってこと? 基準がわからない」
そう言いながら笑う。
「そう、美味しい」
両手で抱える様に持ち、暖を取る。
実際に美味しいのだ。
マリーがコーヒーを入れると、なんだか薬臭いし。
コツメのはやたらと甘い。
シグレのは、薄すぎてアメリカンを通り越して、他所の国迄行ってしまっている。
と、そこまで考えて、唸ってしまう。
あれ? 基準が悪すぎる?
相対的に美味しいだけ?
……。
これは、アインシュタインもビックリだ……の真実。
思わず笑って誤魔化した。
と、アルマが光だした。
おいおい、夜間監視中に、スキル蛍火は駄目だろうと、注意しようとしたらば。
そのアルマ、天を指差す。
いつの間にかに雪もやみ、綺麗な満月が出ていたのだ。
アルマの光はそれを反射してのモノだった。
その月明かりを利用して、敵陣を覗く。
やはり、何も無い、敵も居ない。
もう一度、ジュリア達に向き直り、コーヒーをすすった。
そして、タバコに火を付ける男。
そんな男の代わりにアルマが敵陣を覗いてくれる。
アルマも優しい。
コツメとマリーは今頃、大イビキだろうに。
と、塹壕の壁に張り付いていたアルマが滑り落ちる。
背が足りないからと、よじ登って居たようだ。
もう一度、よじ登る。
しかし、雪に濡れた土はやはりに滑りやすいのか、すぐに落ちていた。
二人して、そんなアルマを笑ってしまう。
むくれたアルマ、よじ登り切ってしまった。
塹壕の壁の上に立ち、敵陣の方を睨む。
月に光る鎧のアルマ、仁王立ちなので目立ちまくる。
思わず笑いながらに。
「敵が居たら撃たれるぞ」
その、言葉の瞬間。
カンと、アルマの頭が吹き飛んだ。
そして、すぐに火の玉が身体を飛ばす。
バラバラに為り、塹壕の中に散らばるアルマを見て、ジュリアが背中のライフルを構えた。
男は、バラけた鎧を寄せ集め組み立てる。
頭がない。
頭、頭と探すアルマ。
その頭、塹壕の外に弾き出されていた。
それを取りに行くには危ないが、と、躊躇しているとアルマが取りに、外に飛び出した。
カン!
胴に当たる音。
そして、すぐ横からパン!
ジュリアが応戦していた。
何度か撃たれながらも頭を取り返したアルマ。
とても情けない声で。
『キズが着いた』
と、へこみながらに塹壕の底に座り込んでしまった。
「後で、直して上げる」
ジュリアがそう言いながらも、応戦を続ける。
ソコへ、マリー達が駆け付けてきた。
流石に音で、起きたようだ。
塹壕の横から走ってくる。
その先に、安全に入れる溝が掘ってあるのだ。
そして、ジュリアの弾筋を確認して、グレネードを斜めに構えて撃つマリー。
ポンと、音をさせて爆弾が弧を描き飛んで……爆発した。
「もう少し奥で右」
ジュリアの指示が飛ぶ。
もう一度、撃つマリー。
ドカンと、爆発音。
「発光弾は無いのか?」
男の声に。
頷きながらに撃つ。
今度は、少し上で爆発して光を放つ。
「見えた!」
と、同時に撃つジュリア。
それに反応した、爆弾を筒に押し込んでいたマリー。
「どこ?」
それに答える様に、後ろからコツメが火の玉を撃つ。
火炎の術……とは言わずに。
その火の玉、目に見える速度で進み爆発した。
「私も見えた!」マリーがグレネードを連射しだす。
連射? どうやって?
と、見ればその後ろで別のグレネードに手を突っ込んでいるシグレとムラクモがいた。
「どお? 信長戦法よ!」
ニヤリと笑いながら、打ち続ける。
ちょっと違う気がするが……。
確か、打ち手ごと交代するんじゃ無かったか?
そんな事はどうでも良いか。
男は、ジュリアの横に並び。
「予備のライフルは無いのか?」
その側に敵の弾が着弾した、跳ねた土が頬に当たる。
それに答えて。
「ライフルは駄目、構えながら弾を込めないと、敵を見失うから」
そう言いながら、素早くボルトアクションをして次弾を込めて撃つ。
幾つも、敵の弾が飛んでくる。
ジュリアのライフルの放つ発光に狙いを付けられているのか?
「スコープでも有れば完璧にスナイパーだな」
思わず、声が出た。
「スコープって……何?」
撃ちながらのジュリア。
「遠くを覗ける、照準の為の望遠鏡?」
望遠鏡って言葉が通じるのかはわからないが。
「良くわからないけど……造る!」
「望遠鏡は後で教えるわ」
マリーが撃ちながら。
そのマリーは、塹壕の底から撃っているので近くに着弾は無いようだ。
「しかし、銃の撃つ光は、夜は危険だな」
また、近くに着弾した。
「確かにそうね、でも……発光は魔法の光だから、消せないのよね」
マリーもそれに気付いて居たようだ。
「でも、お陰で敵も見える」
弾を込め、撃つジュリア。
ソコに士官達が頭を下げて現れた。
ジュリアの銃を見る。
そして、弾ける敵の弾の着弾に驚く。
「これは?」
大佐も目を剥いていた。
「魔法銃だ……外の国では、当たり前の武器だ」
大佐の近くに着弾する。
「頭を下げろ、当たれば死ぬぞ」
それを聞いて、全員が縮こまる。
マリーがグレネードを撃った。
弾ける爆弾を見て。
「それは?」
「爆弾を撃つ魔法銃よ」
と、ニヤリと笑うマリー。
「他にも、もう少し連射の効く中距離の魔法銃も有るわよ……買う?」
「売ってくれるのか?」
少将も震える声で答えた。
「数はどれくらいに……必要?」
撃ちながら。
「有るだけくれ!」
この実戦で、この武器の有効性が肌で感じられた様だ。
もちろん、敵の脅威も。
そして、撃たれたアルマのキズを見て、その威力も。
ミスリル銀の鎧にキズを付ける事の出来る武器だと理解した。
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