第78話 078 マリーとルームメイト


 マリーは、ベンチに座りながら楽しそうに話をしている、ジェニファーとエマにツカツカと近寄って。

 単刀直入に尋ねた。


 「学校の出口って……何処?」


 目の前に突然に現れた仁王立ちのマリーに驚いた二人。

 素直にアッチと、指を差す。

 

 その方向、壁の反対側だった。


 頷いたマリー。

 有り難うとお辞儀をして、歩き出す。

 スカートの裾を掴むヤツはやっていない、あれはやれる勇気がない。

 柄じゃ無さすぎる。


 そんなマリーに後ろからジェニファーが声を掛けた。

 「でも、学校からは出れないわよ」


 マリーは振り返り、そして……キッと、睨んで。

 「なんでよ」


 「だって、エルフ達が見張って居るもの……門も鍵が掛けられてて閉まっているし」

 

 そりゃそうよね……当然と、エマも頷いている。


 ソレをあっさりと受け入れている二人、諦め顔も少し覗けた。


 「それでいいの? 二人は、ここを出たく無いの?」


 「私達は、ここの生徒だから……正直言えば、戦争前とあんまり変わって無いかな? 外出は出来なく為ったけど、学校の外も……パッとしない村だし。まあ、一部の子達は、男子に会えなくて寂しそうだけど……」

 と、ジェニファーとエマが顔を見合わせて。

 「私達は、彼氏も居ないし……出てもねぇ」


 「彼氏? あれ? そう言えば男子学生が居ない……」

 教室にも居なかった。


 「そりゃ……女子校だもの」

 エマが。


 「なんでよ、プレーシャに居た子達は男子も居たじゃない」


 「誘拐事件の時のかしら……」

 ジェニファーは少し首を傾げて。

 「確かに魔法学校としては男子も居るわよ……でも、男子と女子は別々の場所、村を挟んで東西に建つ学校にそれぞれ別れているのよ」

 

 「魔法学校の女子校と男子校と、2つで1つの学校なの」

 エマが補足した。

 「年に何回か有る行事の時は一緒になるけど……それ以外は別々よ」


 「プレーシャに居た子達は、6年生と7年生ね」

 ジェニファーは首を振りつつ。

 「折角の研修旅行だったのに……可哀想よね」


 「7年生?」

 首を捻るマリー。

 「何年生迄居るの?」


 「9年生迄で、その先は選択制の4年間よ……魔法学校院生」


 大学の様なモノなのね。

 「その先は?」


 「後は、研究生か先生ね」


 「その間は……ずっと女子だけ……」

 うわあ、と顔をしかめたマリー。


 「院生に進めば、男子も一緒よ。村の北の外れに在る学校になるから」


 「それでも……後、9年は女子だけなのね」

 嫌よね……嫌だわそれ、と首を振るマリー。


 「仕方無いわよ……そう言う学校なのだから」

 エマの顔は、別にそれでいいじゃないと見える。


 「卒業すれば家に帰れるわ」

 ジェニファー。


 「私は帰りたく無いけど……お父様はキライ」

 エマの顔が曇った。

 「偉そうだし……」


 「実際に偉いんだから仕方無いんじゃないの」

 ジェニファーがエマに笑った。


 「その話はしないで」

 キッと、ジェニファーを睨んだエマ。


 「あら、ごめんなさい」

 微笑むジェニファー。


 先に言い出したのエマの方じゃないの? とマリーは思った。

 多分、エマのお父さんは国の相当に偉い人なんでしょうね。

 学校でも、特別扱いされる程の。

 それが嫌だから、その話は無しなのね。

 だけど、ソレよりも……。

 「後……9年……」

 それを考えると気が遠くなる感じ。


 「ちがーう」

 しかしマリーはスグに気が付いた……一分程掛かったがスグだ。

 「私はここの生徒じゃ無い」

 そう叫んだ時に、鐘の音が響いた。


 「あら、夕食の時間ね」

 と、立ち上がるジェニファー。


 「マリーも行くわよ」

 と、マリーの腕を引き歩き出すエマ。

 

 この二人、骸骨と通じるモノが有る。

 人の話なんて聞いちゃ居ないし。

 強引だし。

 マイペースだし。

 そして、押しが強い。

 引きずられながらに、そう思うマリーであった。



 

 夕食は大食堂で、全学年が一緒に取った。

 ガヤガヤ騒々しいけども、流石にそれは仕方無いと感じる、その人数。

 全学年と先生達とで、一体何人居るのかしら。

 ソレを全部、座らせるこの建物も凄い。

 至る所に魔方陣が見える。

 屋根を支える為のモノ?

 ジュリアの使う魔方陣にも似ている様に思う。

 ソレ以外にも良くわからない魔方陣。


 ビックリしたのがテーブルに描かれた魔方陣。

 座ってから、暫く経って時間がきたと思ったら目の前に突然に食事が転送されてきた。

 転送の魔方陣なんて、大昔に時と空間の勇者が使って居たのを見たきりだったのに、ソレの簡易版の魔方陣がここに在るなんて、実はこの学校……凄い所?


 「ねえ……この転送って、人も出来るの?」

 思わず横に座るエマの服の裾を引いて、聞いてしまったマリー。

 

 「出来るわけ無いじゃない」

 エマが笑って。

 「モノが精々よ、重さにも距離にも制約があるし」


 そりゃそうか、出来るならとっくに皆が逃げ出して居るわよね。

 でも、これはなかなかに便利そう。

 メモしとかなきゃと、自身の持つスキル錬金術師の創作レシピ集に書き込んだ。

 錬金術師が使えるかどうかは、やってみないとわからないけど、でも良いヒントには成るかも知れない。

 後で試してみよう。


 あ! 百合子なら確実に使えるか。

 あの娘は時と空間の勇者のスモールコピーみたいなスキル持ちだし。

 ちゃんと錬金術の勉強もしているかしら。

 今度、会った時に教えてあげよう。

 

 そして、目の前の食事は豪華では無いけれども、とても美味しかった。

 ジュリアの作る食事も美味しいけれど、少し癖が有るのよね、田舎臭いと言うかなんかね。

 ここのは、ちょっとした高級レストランで出される普通の食事って感じだ。

 学生達には、勿体無い気もする。

 いや、目の前のジェニファーと横のエマを見ると普通に食べ慣れている様子。

 ここの生徒達って、みんな良いトコの子?

 

 1人がっついてしまった私って……浮いてる?

 マリーは口許の食べかすはそのままで反省。

 

 

 食事を終えて部屋に帰った私達。

 

 「お風呂は、部屋に有るシャワーか地下に在る大浴場だけど」

 と、部屋の隅の扉を指差すジェニファー。

 「マリーはどうする?」


 マリーが二人の顔を見渡した。


 「私達は何時もシャワーで済ましているわ」

 エマが頷く。

 「大浴場は……色々と面倒臭いし」


 じゃ、と頷くマリー。


 着替えはベッド脇に掛けられていた。

 何時も着ていた……あまり綺麗じゃ無いヤツと、二人の着替えた普段着と見比べしまった。

 仕方無いと、諦めて着替えようとした時。


 「私のお古だけど、これあげるわ」

 と、ジェニファーが服をくれた。

 マリーのガッカリ顔が気に為ったのかも知れない。


 貰ったそれは、ピンクのワンピースでヒラヒラ付き。

 

 「ジェニファーは少女趣味だから」

 と、笑ったエマ。

 そのエマは、白と黒のシックな感じのワンピース。

 でも、襟と袖には白いレースのヒラヒラと、背中には白いレースの大きなリボン……マリーにはこれも十分に少女趣味に見えると思ったのだが……それは言ってはいけない事なのは、ちゃんとわかっている。

 笑って、頷いて返した。



 その日の夜。

 ソッとベッドから抜け出したマリー。

 寝間着を着替える。

 この寝間着って、誰のかしらねと、ふと思うのだが……そんな事はどうでも良いと服を取る。

 迷ったのだけど、ジェニファーのくれたピンクのヤツにした。

 その上に、何時もの白衣を被る。


 そして、ソッと部屋を出た。

 その時に、背後からジェニファーの声が掛けられた

 「明日も早いから……程々にね」

 

 大丈夫よ! 明日は学校の外よと頷いて返す。


 暗い廊下を足音に気を付けながら進む。

 みんなが寝静まった建物を抜けて、出口を目指す。

 

 直ぐに校門が見えてきた。

 昼間に教えて貰った方向にちゃんと在る。

 

 辺りを伺い、恐る恐る近付いて……門に手を掛けた。

 やはり鍵が掛けられている。

 鉄の鎖の頑丈なヤツ。

 しかも、御丁寧に魔方陣まで描いてある。

 これは、壊せそうも無い。

  

 鍵は諦めて、門をよじ登ろうと足を掛けた。

 その時、背後から襟首を捕まれ宙吊りにされたマリー。

 ソッと振り返ると、エルフの兵士だった。

 

 ニヘラと、笑うマリー。


 もちろん兵士は、それに笑って返す事もない。


 そのまま、校長室に連行された。

 本日、2度目の校長室。


  

 おっかない校長先生にこっぴどく叱られたのは仕方無い事か。

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