第37話 037 時と空間の勇者


 先頭に躍り出たアルマ。

 そして、魔物が剣で襲い掛かる。

 叩かれたアルマの音がトンネル内を響かせた。

 

 その脇をすり抜ける魔物をゼクスが盾で押し戻す。

 このスローロリス似の魔物、変なスキルは使ってこない。

 真っ向、剣で挑んでくる、もちろん数で押し切る積もりだろうから、次から次に出てくる。

 イヤ、石化と爆弾と多分ソレ以外の無効化がスキルなのか?


 『旦那! こいつらなんだか変ですぜ』

 ムラクモがアルマにたかっている一匹を刺した。

 『まるで、手応えが無い』

 その刺された魔物が、消える……シャボン玉風船を突いた様に弾けて掻き消えた。

 その場には何も残らない、硬い筈の剣ですらも残らない。


 男は、試しに一番近い所で弾けた魔物のその場所で召喚の魔法を使って見たが無反応。

 スキル召喚も駄目だった。

 「確かに変だ」

 実体はソコに有り、アルマに傷こそ付けられ無いがシッカリした攻撃は当てている。

 アレが男に当たれば大怪我だ。


 「コツメ! 火炎弾を……見えている敵に撃ってくれ」


 頷くコツメ。

 しかし、火炎弾はすり抜けた。


 「次は、氷手裏剣だ」


 刺さった。そして弾けた。


 「奴等、実体の無い攻撃は無効化してる」

 唸った男は、そして叫んだ。

 「炎も爆風も石化も硬さが無いモノは駄目だ」


 「つまりは、直接攻撃しか無いのだな」

 頭目が走り込み、両手の剣で薙ぎ払う。

 その二振りで3匹の魔物が弾けた。

 「幸い、敵はそんなに強くない……脅威は数だけだ」

 ソレを合図に、盗賊団が各々に気勢を上げて走り出す。


 ピーちゃんも普通のサイズで走り出した。

 その背中に槍を持ったジュリアを乗せて敵を踏み潰しながらにツツクいている。

 鳥目で良く見えていないピーちゃんにジュリアが指示を出し、その取りこぼしを突いている風だ。

 

 セオドアは地面を走っていた。

 この暗闇で無闇に飛ぶ事が出来ずに居るようだ。

 糸も時折は出すが、硬さが足りないのか少しの抵抗ですり抜ける。

 同じ理屈か? 蜂達の針飛ばしも駄目な様だ、直接針で攻撃している。


 しかし、数が多い、見える範囲でも犇めき合っている。


 『地上に大きい魔物が居る様だ』

 カラスが男の肩に止まり。

 『その背中の毛の中から、小型の魔物が続々と出てきているらしい』


 「ソイツがボスか?」

 産んでいるのか? 隠れて居たのか?

 首を雛った男。

 

 『多分そうだろう、送られてくる画像記憶で見ても、この魔物のサイズ違いでしかない』


 「ソイツを攻撃出来ないか?」


 『今、ネズミと連携してやってはいるが……決定打が無い状態だ』

 

 「俺達も、地上まで行かないと駄目か」

  コチラも決定打が無い。膠着状態だ。


 この先の何処かに駅が在ればそこから上に登れるのだろうが……イヤ、確実に地上へと通じる道が有る筈だ、コイツらがここに居るのだから。

 この線路の先に……。


 線路? 

 男は後ろを振り返る。

 列車が有る、鉄の塊の地下鉄の電車だ。


 走り寄り連結部分を確認した。

 どう繋がっているのか今一わからない。


 「ジュリア」

 男は叫んで呼びつけた。

 「ここの連結を外せないか?」


 ジュリアはピーちゃんと共に走り寄り。

 「出来ると思う」


 「よし、任せた」

 そう、言い残し男は電車の中へ。


 後端あるいは先頭か? の運転席を確認した男。

 単純に前進と後進とブレーキだ。

 いけるかも知れない。


 「外したよ」

 そこにジュリアの声、と、同時にガコンと振動が伝わる。


 そして男の適当な操作でライトが着いた。

 行けそうだ、試すようにユックリと前進。


 「皆、乗れ」

 窓から半身を出し叫び、徐々に電車のスピードを上げていった。


 駅はスグそこに有った。

 列車で魔物を撥ね飛ばしながらの少しの移動で、煌々とした明かりが見えて来た。

 そこへ滑り込ませて、すぐさまホームに飛び出した男達。


 ここは若干に魔物の密度が薄い。

 コイツらは明確な意思で男達の所へ集まっていたのだろう。

 ソコを越えたのだから、後は援軍? 補給? の魔物達だ。

 スグに後ろから来るだろうから、グズグズはしていられないが。


 「階段を一気に登れ」

 男の指示に頷く皆。


 「邪魔なモノは蹴散らせ!」

 頭目の指示に気勢を上げる皆。


 その二つの指示に対しての皆の反応に微妙に差が有るような気がする男だったが、今はそれを気にしている場合ではないと……男も走り出す。


 明かりが有るならとセオドアが糸で飛ぶ。

 ジュリアも再びピーちゃんだ。でももうピーちゃんも見えているのでは?

 

 とにかく走った。


 「しかし、相変わらず……凄いわね」

 走りながらのマリー。

 「貴方が居るだけで、建物の電気が着くなんて」

 上を見たり、横を見たりしながらだ。

 「電力の供給も切れている筈なのに」

 

 「ついでに言うと、ムラクモのトラックもシグレ達のバイクも燃料が減らない様だぞ」

 鎧だけのアルマが動くのと同じ理屈なのだろうと、男は勝手に想像した。


 「無茶苦茶ね」


 「今のこの光景の方が凄いと思うが?」

 マリーを見ながら男は。

 「死人が階段を掛け上がっている」


 

 1F改札を飛んで抜ける。 

 切符など無い。

 キセル……は、ムラクモが持っているが……カエルの運賃が有るなら誰か教えてくれ。


 そのまま駅前ロータリーに飛び出した。

 そのビルとビルに囲まれ少し開けたロータリーのど真ん中に、ボスで有ろうドデカイ、スローロリスが鬱陶しそうに手でカラスを払いながらもソコに座っていた。

 白黒映画のゴリラ宜しくだ。

 そのうちにカラスを捕まえ、ビルをよじ登るだろう。


 「アイツを先に……」

 言い掛けて、チラリと頭目を見る男。


 「ボスを仕留めろ」

 剣で魔物を指し。

 「雑魚は後回しだ」

 一斉に走り出す。


 先陣は槍を携えたムラクモだった。

 大ジャンプから舌で姿勢を正し、魔物の真上からの槍での急降下攻撃。

 

 それに続いてセオドアも糸で飛びながらの急降下攻撃、落下中に巨大化して威力を上げている。


 流石に効いたのか魔物が立ち上がり……その時に少しよろけた。

 その方向に居たコツメがビックリしたのか意味の無い火炎弾を放つ。


 イヤ! 意味は有った。

 火炎弾はすり抜け無い。


 「マリー、爆弾をくれ」


 と、男は受け取ったソレを魔物の顔に投げつけた。

 

 爆発と共に顔半分の毛が焼け焦げた。

 やはりだ。


 「ボスには魔法も爆弾も効くぞ」

 

 「じゃ、こっちの方が良いわね」

 と、今度は納豆爆弾を差し出すマリー。


 男はそれを受け取って投げ付けた。

 破裂した粘りけの有る糸が魔物を絡めとる。

 そして、明らかに動きが変わった。


 それを見たのかカラスがマリーに集まり、そいつらに納豆爆弾を掴ませ易い様にとマリーは地面に転がしていく。

 それをカラスが足で掴んで、上空から魔物に投下させる。

 次々と納豆爆撃だ。


 真っ白に成って絡まり蠢く魔物に、セオドアが回りを走りながらに糸で巻き取り始めた。


 程なくスローロリスのす巻き、納豆あえの出来上がり。


 後は、雑魚をと身構えたその時、ボスを残した全ての魔物が忽然と消えた。

 納豆の粘りと糸で鼻と口を塞がれて、その上毒まで回ったのか、ボスの命と同時にだった。

 

 「あの雑魚達、この子の幻影だったのね」

 マリーがボスをツツク。

 「ここには時と空間の勇者は居ないわね」

 そして男を見る。


 「そうなのか?」

 男もマリーを見た。


 「幻影を倒しても、魔力の回復は出来ないでしょ」

 マリーは肩を竦めて。

 「人も居ないし」

 そして、辺りを見渡し。

 「時間指定を間違えたのね」


 「無駄足に成ったか」


 「そうでも無いんじゃない」

 マリーは少し笑って。

 「アイツが転生させたダンジョンが幾つ有るのかは知らないけど、続けて転生なんてアイツに取って危険な事をやったのだから、魔力回復がしにくい事に成っている筈よ……先のダンジョン見たいに、魔物がほぼ全滅とかだと補給も儘ならない」

 男を見て。

 「ゾンビ達と魔物の取り合い何て……面倒臭いでしょう」

 カラスとネズミを見る。


 「暫くは大人しいのか……」


 「暫くはね」

 頷いたマリー。

 「でも、この国でダンジョンを創ったのは事実」

 少しだけ溜める様に間を開けて。

 「また来るわよ」


 「なぜ、そう言いきれる?」


 「ヤツも勇者なら、何処かの国で召喚された筈、なのにこの国での動きだ」

 頭目だった。

 「自国の指示でだろう。戦争の為の尖兵をやらされたか……自分から名乗りを上げたのか」


 「或いは」

 チラリと男を見て、マリーがその先を続ける。

 「自国に追放されたか……逃げ出したか……ね」

 フンと鼻息一つ入れて。

 「どちらにしても、ネクロマンサーを狙って来るわよ」


 「確かに、ヤツに取っては美味しいスキルかもしれん」

 頭目もそれには頷いた。

 「自分でダンジョンを造り、その中の魔物を使役する」


 「でも、多分知らないのね。ネクロマンサーが直接攻撃を出来ないって事を」

 両手を広げて首を左右に振ったマリー。

 「ソレって、アイツにとっても致命的な事なのにね」


 「ヤツには勝ち目が無いって事か」

 男は少し考えて……唸る。


 「私達が負けた時が、アイツの最後よ」

 マリーも肩を竦めて。


 「でも、俺をただ排除するだけなら……」


 そんな男の呟きに。

 頭目とマリーが同時に男を見た。

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