第10話 「王子とカエルと乙女心」
色々と話の切り口を考えてみたものの、考えるそばから飛空の顔を思い出してはぽ~っとなって会話を組み
立てられないうちに母が帰宅してしまった。そして、先制攻撃を掛けられた形となってしまった。
「まだカエルさんの所に行っている?」
と、先に質問されてしどろもどろになってしまったのだ。
カエルの名前を知っているかカエルのことをどう思っているのか、どれくらい仲良くしてもらっているのかなどなど、矢継ぎ早に質問されて逃げるように自室へあがってきたところだった。
(なんなの? こっちが質問しようと思ってたのに・・・もう!)
気分転換をしようとスマホの画面を覗く。
(私、風早君から連絡無くてがっかりしてる・・・)
自分に呆れてベッドに顔を押しつけた。
(風早君と飛空さんとどっちが好きなの? 未玖!)
しばしベッドを叩きながら布団に叫んでみたが、当然の事ながらそれで心が定まることはなかった。
そんな未玖の心に先程の母の質問が浮かび上がる。面食らってまともに答えられず、もごもごして退散してしまったあの質問だ。
(カエルさんの名前・・・?
ふと名前に引っかかりを覚えた未玖だったが、あまり気にせずそれを流した。
(どれくらい仲がいいか? それは、お客さんと店員くらい? 占い師とお客さん? 店員よりは占い師の方がより親密な感じがするな。お客さんより上で友達未満とか・・・?)
喫茶店の2階で2人きりで話した事を思い出して、向かい合うカエルの姿が消え飛空の姿と入れ替わる。ただ想像しただけで未玖は少しドキドキしてしまった。
(いや~、それは思い込み過ぎだよね。多分、あちらはお客さんとしか思ってないよ、きっと)
自分で否定しておきながら少し気落ちした。
(どう思っているか・・・? どうって・・・)
カエルの姿が透けて飛空の顔がくっきり浮かんだところで、未玖は真っ赤になってジタバタした。
印象的な目が真っ直ぐこちらを見つめる。未玖の中で茶髪は金髪の輝きを放ち、琥珀色の瞳に吸い込まれそうになって知らぬ間に息が止まる。頭がくらくらとした瞬間、小気味よい音が響いて未玖の脳裏に風早が舞い降りた。急いでスマホを確認すると波瑠妃だった。
《おーい、未玖ぅ~! 返事無いけど生きてる?》
メガホンを持った女の子のスタンプが楽しそうに笑っているのを、未玖はジト目で見つめてため息をついた。
《生きてる・・・。でも、瀕死状態かも》
倒れ込んだウサギスタンプを貼る。
《どうした!》
即座に返答が返って来た。
《相談したいことあるかも・・・》
《店選び、そんなに難航してるの?!》
風早と副キャプテンを加えたスイーツ巡りの件は、未玖の頭の中から今の今まで抜け落ちていた。
未玖は「いや、そこじゃない」とリアルに口にして、どう返事をするか少し迷った。
《・・・気になる人が現れた》
《え~~~! 風早じゃなく?!》
《うん》
《誰? どこで会ったの? どんな人? 同じ学校? 別の? 年は?》
(私の周りにはせっかちな知りたがりが多いな・・・)
未玖は苦笑いしてどの質問から返せばいいかと書きあぐねた。
《風早は? もう眼中に無い?》
その質問に手が止まる。少しの間があって吹き出しが跳ねた。
《未玖? ごめん、怒った? 未玖がそんな直ぐに乗り換えちゃうわけないよね》
未玖からの返信のない行間に波瑠妃が心配をし始めた様だった。
《ごめん、怒ってないよ。自分でもよく分からない。風早君の事は気になってる》
手短にぶつ切りの文を乗せて吹き出しを送った。その直後に着信音が鳴って、未玖は危うくスマホを取り落としそうになった。
「本当に怒ってない?」
波瑠妃からだった。
「怒ってないよぉ」
「良かった~~」
耳の直ぐ近くで波瑠妃の安堵の溜め息が聞こえる。
「相談したいって・・・もしかして、その人からお付き合いを申し込まれた・・・とか?」
声がわくわくしている。
「違う違う! 私が勝手にドキドキしてるだけ」
「脈ありそう?」
「私にその手の察知能力あると思う?」
ちょっと自虐的な未玖の声音に電話の向こうで波瑠妃が笑う。
「思わない」
二人とも吹き出して会話が少しの間止まった。
「もしかして、一目惚れで声かけひとつも出来てないとか?」
「いや~・・・。会話はそれなりに、割と時間を頂いたというか・・・」
「凄いじゃん! 声かけられたなんて未玖にしては上出来だよ」
「声をかけたというか何というか・・・」
と未玖は曖昧に呟いた。
「話は結構したんだけど・・・、最初は顔がよく分からなくて気にせず話せた感じ」
「ん? どう言うこと?」
波瑠妃の「?」に「そうなるよねぇ」と未玖は心の中で笑った。
「ええっと、きぐるみ・・着てたの。チラシ配り! そう、チラシ配りしててね」
「きぐるみ?」
波瑠妃が笑う。
「とても感じの良い人なの。優しくて思いやりがあって、こちらのことを気にかけてくれてね」
飛空の事を話す自分にだめ出しの言葉が付いてくる。
未来を見る相手に真摯に向き合うのは当然。過去の経験から相手を傷つけないように言葉を選ぶのも当たり前の事だ。正しく伝えるためにこちらの反応を見て補足もするだろう。
波瑠妃に話ながら返ってくる自分の心の声に未玖は少しずつ落ちていった。
「そうか、良い人そうだね」
声が少し小さくなってトーンが落ちてきた未玖に、波瑠妃も少し声を落として優しくそう言った。
「私・・・。1人で舞い上がってる、馬鹿みたい」
悲しそうな未玖の声を聞いて、波瑠妃がわざと明るい声で話す。
「感じが良くて優しくて思いやりがあったら誰でもキュンってなるもんだよ。 それに加えて、顔がタイプだったんでしょ?」
「・・・うん」
波瑠妃が「当たりー!」と言って笑った。
「顔がタイプなら恋に落ちるの当たり前だよ。ーーーで、顔を見ずに話してたときはどう思ってたの?》
波瑠妃に聞かれて思い返す。
「話しやすかった・・・」
「うん、それから?」
「声、優しそうで真面目な感じで、話してて自然な感じがした。テンポとか空気感って言うか・・・」
「声、重要だよね」
「そうなの?」
「ふふふ、雑誌の受け売り。でも、何か分かるよね。声が馴染むって言うか、安心できる声だと幸せな気持ちになるっていうのかな」
「あっ、うんうん! それ、安心できる声」
「ずっと聞いていたい声!」
「そう!」
くすくすと2人で笑った。耳元から聞こえる波瑠妃の明るい声に未玖は安心した。
「風早より一緒に居たい感じ?」
その質問に少し自分の内側を見つめる未玖。
「一緒にとか、まだそこまで考えたこと無い・・な。 ーーー風早君は・・・ドキドキして楽しい感じで、飛空さんはドキドキするけど色々話してみたい感じかな」
「へ~・・・、ショウさんって言うんだ」
「あ、お店の人との会話で聞いたの」
「ショウさんはバイトしてるの?」
「ん~、バイトじゃなくて・・・パ、パティシエ?」
例の都市伝説のカエルで未来を見てる・・・とは言えないので、
「社会人?! 年上なの? ケーキ屋さんで会ったの?」
「喫茶店・・・」
「パティシエのいる喫茶店? スイーツのお店だけじゃなくて喫茶店も視野に入れてお店選びしてたの?」
未玖は苦笑いした。
「そう言うわけでもないんだけど、たまたま入っただけで・・・」
「あぁ・・・。もしかして、カエル絡みの案件ですか?」
波瑠妃の声が低くなった。探偵波瑠妃のお出ましだ。変に隠し立てせず話せる部分だけはさっさと吐いてしまおうと未玖は思った。
「そうです。ーーーでも! それはハズレで、お店の雰囲気が良くて何度か行ってて」
「で、奥からたまたま出てきたショウさんを見かけて恋に落ちた?」
「ははは・・・、まぁ、そんな感じ」
「何回くらい会ったの? どんな話したの?」
未玖は困った笑顔で固まったまま黙っていた。
「未玖さ~ん。個人情報保護法適用ですか? 黙秘?」
「黙秘いたします」
「じゃ、相談の途中ですがこれで・・・」
「ああ~~! 波瑠妃、待ってよぉ。でも、これは・・・これだけは勘弁して」
しばしの間。
「まぁ、大事にしたい2人の時間ってのもあるからねぇ~。 ーーー黙秘許可します」
そう言って笑った。
「ごめん・・・ありがとう」
「うん、とりあえず今日はこれくらいにしとく。じゃぁね」
軽く挨拶を交わして終了した。
階下から夕食の支度が済んだと母の声が聞こえて未玖が下りようとしたとき、またスマホが鳴った。波瑠妃だった。
未玖の「もしもし」の「も」も待ちきれずに波瑠妃が堰を切るように話し出した。
「良いこと考えついちゃった! そのショウさんのいる喫茶店にしようよ、スイーツパーティー」
「ス、スイーツパーティー・・・?」
「予約とかとれる? 私も直接ショウさん見てみたいし、仕掛ける訳じゃないけど・・・風早もライバルの気配とかしたらリアクション変わってきたりしないかな?」
「それは・・・どうだろう?」
「変な画策したりしないって誓います。未玖だけじゃ分からない所をフォローするために材料が必要なの。同時に2人を観察できたら一石二鳥でしょ? ねっ!」
「本当に? 画策無し?」
「無し。 ーーーケーキ美味しいんでしょ? 愛しの君の甘~いケーキ」
「はい、美味しいです!」
未玖は少し切れ気味で答え、波瑠妃は楽しそうに笑った。
「じゃ、お願いしますね幹事さん」
「はいはい、聞くだけ聞いてみます。駄目かもだけど!」
「きっと大丈夫よ。 ーーーあっ、パティシエが格好良すぎて繁盛してるの?」
「ーーー予約取れないくらいじゃないとは思うけど・・・。客寄せパンダにはなってるみたい」
「ぷっ! 客寄せパンダ? ライバル多数有りって感じね。じゃあ、さっさと行動しなくちゃ。また明日!」
顔が見えなくても分かる波瑠妃のわくわくとした姿に、嬉しくもあり恥ずかしくもあり困った気持ちも混ざって、未玖はベッドへダイブした。
「未玖ちゃん! お父さんも帰ってきたわよ、早く下りてきて」
「あっ、は~い!」
波瑠妃に追い立てられ、母親に追い立てられて、未玖の歯車は大きな音を立てて回り始めていた。
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