第2話


私の妻が死んだ。

私が口にした全ての文句を受け止めて、怒鳴り散らしても「ごめんなさい」と

彼女自身が謝り、反論すらしない妻であった。

周りからは、良くできた奥さんだと羨ましく思われているが、私には、詰まらない妻であった。

だからと言って、別れると言うわけではない。

家事全般をしてくれる素晴らしい妻ではある。

ただ堅物過ぎて、息苦しくなってしまうときがあるのだ。

昔は私が料理を作ってバランスがとれていたか。

本業が中華料理屋の店員で料理は上手く作れた。

しかし、足を切断するほどの車の事故を起し、今では家からも出なくなっていた。

その後は、看病と共に全てのことをしてくれている。

妻に料理を教えて作らせ、私を満足させてくれていた。

しかし、食べているうちに少しずつだが、味に変化が訪れてきた。

味が薄く、美味しいと思えなくなりだした。

それからだった。苛立ちを妻にぶつけるようになったのは、「もっと、濃い料理を作れ」と妻の顔に箸を投げつけたこともあった 。

ある日、知り合いの男がぼた餅を持ってきてくれて食べた。



味はしなかった


私の体が、病に侵されていたのだ、 味覚障害になっていた。

多分あの事故の後遺症であろう。

それを知らず、死ぬまでメイドのような生活をさせてしまっていた妻に申し訳なく思うのだ。

妻の棺を覗き謝り、通夜も終わり親戚と共にご飯をいただいた。

その時、妻の姉が私の所に来て、ある壺を渡してきた。

通夜の日に、家族みんなで食べてほしいと妻からの遺言であった。

中には、梅干しが浸けられていた。

ただ、遺言では私が先に梅干しを食べ、その後、一緒に持ってきた封筒を読んだ後に、他の人もいただいてほしいとのことであった。

この梅干しは、一年前に妻と一緒に浸けた思い出であった。

私は、一口で梅干しを放り込んだ。

少しの塩辛い、これほどシンプルに思えるものはなかった。

それから、私は自分宛に書かれた妻の文字を読んだ。


あなたが、この手紙を読んでいるときは、あの梅干しを食べたあとだと思います。

私は、これまであなたの暴言に何度となく耐えてきました。それは、家庭を大切にしたかったからです。

あれだけ耐えてきた私なのに、病気で早死に何て嫌だ。

それで、私は決意しました。あなたを殺すことを・・・

この梅干しの中には、浸けたときに毒草を一緒に入れました。

即効性ではないので、ジワジワと毒が体内を回ってきます。


あなたは私の旦那であり、いつまでも私の物、だから死ぬ前に、あなたをあの世に引きずり込むのよ


この文を読み終わり、私は口の中に入れた毒物を吐き出していた。


だが、一時間しても毒物が体内を回ることはなかった。一年の間で毒物が中和されたのかもしれない。


私は一日病室で、ずっと天井を観ていた時に、妻の顔が浮かんできた。

あの手紙を書いているときの彼女は、いったいどんな顔を見せていたのだろうか、


文字を一文字書くたびに、彼女の(微笑み)を想い浮かべると恐怖してしまう。

これが、単なるドッキリであってほしいと・・・


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妻の微笑み 西田 正歩 @hotarunohaka

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