第27話 あ にゅー ほーぷ

『四神拳』


 それは四神のフレンズが編み出した強力な拳法。

 四神青龍拳、四神白虎拳、四神玄武拳、四神朱雀拳の四つに分けられる。


 四神青龍拳は劈掛掌ひかしょう

 四神白虎拳は八極拳。

 四神玄武拳は太極拳。

 四神朱雀拳は形意拳、とそれぞれ人間が編み出した拳法に近いものがある。


 中でも四神白虎拳の破壊力は段違いであり、真の意味で【无二打にのうちいらず】とされているらしい。

 昔ビャッコはホワイトタイガーのフレンズを一瞬で吹っ飛ばした経歴がある。

 その際に用いられたのが、この四神白虎拳というのだ。


 かなり加減はしたようだが、本気を出せばひとたまりもないのは明らかである。

 本人がかなり小柄であるというだけあって、射程は大分短いがその神速とも言える動きで完全にカバーできるので実質四神拳最強の威力を誇る。


 ――――今まさに、その拳がフレンズ達に振るわれていた。


「どんな攻撃も、どんな能力も………"一発"だ。一発ですべて事足りる」


 オウギワシ、セーブルアンテロープ、ビーストの猛攻をセル・ビャッコは拳や肘の一発で全て弾き返していく。

 距離を開けて攻撃しようにも一瞬で距離を詰められ、得意の拳法を叩きこまれるのだ。


 本物のビャッコの威力には劣るが、それでも忠実に再現された套路からなる一撃は絶大で、かかってくるフレンズ達をまるで紙吹雪を吹き飛ばすが如くである。


「くぁああああああああああッ!!!」


 サーベルタイガーの一閃。

 それを身を屈めてからの回し蹴りでいなす。


 掌底がサーベルタイガーの腹部をとらえ、上空高く吹っ飛ばした。


「サーベルタイガーさん!!」


「ハッハッハッハッハッ、セル・ビャッコ! 追い打ちだ!」


「くそ、させるか!!」


 セル・ビャッコが大統領の指示に従いサーベルタイガーを追う。

 その後をオウギワシが飛んだ。

 その瞬間を見計らって、キュウビキツネが大統領に攻撃を仕掛けた。

 セル・ビャッコが完全に離れている状態なら、大きな隙が生まれる。


「喰らいなさい!」


「うぉおおお!! ジャックナイフ!!」


 キュウビキツネの鬼火と、カモノハシのバックハンドストロークからなる強力なパワーショットを大統領に。

 しかし大統領はスネークアームを巧みに使い、攻撃は弾く。


「ふん、セル・ビャッコとワタシを分断させれば勝てるとでも? 甘い、甘すぎる。我が発明品を舐めないで欲しいな」


 スネークアームが不気味に揺れ動く。

 大統領は確実に進化している。

 キュウビキツネは自らの読みの甘さを悔いた。

 だが、ここでルーカスはある行動に出る。


「トリャー!!」


 愛すべきフレンズ達が傷付くのが我慢ならなかった。

 そこでルーカスはある作戦を思い付いたのだ。


「何をしている兄弟? オイオイ、スネークアームにしがみついてなにを……ぬ?」


 ルーカスが向かって右のアームにしがみつくと、リョコウバトやドールが左のアームに。

 キュウビキツネもその行動の意図を察したように右のアームを両腕で締める。


「ハハハ、ワタシのスネークアームと力比べかね?」


「ぐぬぬ……、負けないデース!」


「好き勝手にはさせませんわ!」


「えぇい小賢しい! 無駄なことを!」


 4人は奮闘するがスネークアームは彼女等を外側へ薙ぎ払うように吹っ飛ばしてしまう。

 スネークアームの膂力は完全にフレンズの持つ身体能力を上回っていた。


 だがルーカスはそれすら計算に入れていた。

 空中に放られる中、リョコウバト達はルーカスに視線を送る。


「そうだ。僕達がやったのはただの小賢しい抵抗だ。そしてお前は難なく薙ぎ払うだろう……―――――それが狙いなのさ!」


「なに!?」


「アムールトラ!!」


 ルーカスが叫んだ瞬間、ビーストが咆哮と共に大統領の方へ突っ込んできた。


 セル・ビャッコがサーベルタイガーに追い打ちをかけているため、地上で見上げていたのだが、不意にルーカスの大声が聞こえたため振り向くと、大統領がスネークアームを広げて無防備になっていた。


 そこからの行動は速く、ビーストは大統領にキバを向く。

 大統領はスネークアームで対抗しようと思ったが、あまりにも大きく振りかぶり過ぎたため間に合わなさそうだった。


「ぐ! やるな兄弟…もういい、戻れセル・ビャッコ!! ワタシを守るのだ!」


 大統領の言葉に反応し、一瞬の内に戻ってくるが、ビーストの攻撃が一歩早く、2人揃って吹っ飛ばされてしまう。


「ぐああああ!」


「■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 壁に激突した大統領に向かってまたしても攻撃を繰り出そうとするビースト。

 だがここで大統領は恐ろしい反撃に出る。


「セル・ビャッコ……"空気爆弾"だ!」


「なに!?」


 駆けるビーストのすぐ前方。

 セル・ビャッコの持つ風を操る力で球型の風が瞬時に生まれる。

 内部で起こる急激な圧縮から解き放たれると、ビックバンのような破裂を引き起こし、凄まじい爆風がビーストと周囲を襲った。


 至近距離にいたビーストの身体が宙を舞う。

 脱力したようにそのまま川の方へと落ちていった。


 周囲にまで影響を与えた爆風の為、ほとんどのフレンズがその場にうずくまっている。

 サーベルタイガーは追撃を受けずオウギワシに助けられ、一緒に宙にいたからからそこまでダメージはない。



 だがビーストの次に大きなダメージを受けたのはルーカスだった。

 特殊な肉体とはいえ、身体能力は人並みでしかない。

 

 爆風を受けて身体のあらゆる部分が今にも破裂しそうなくらい痛い。

 吹っ飛ばされたビーストに弱々しく手を伸ばすルーカスを大統領はスネークアームで掴み上げる。


「ぐああああ!!?」


 直後にくる激痛がルーカスを絶叫させた。

 大統領はセル・ビャッコの力で爆風の影響を受けなかったのか、得意気な顔で彼に歩み寄る。


「うぅ、ルー…カス……」


「やめ、て! ルーカスさんに、酷いこと、しないで……!」


 ドールとリョコウバトは涙を流し、キュウビキツネは片膝を付きながら何とかして妖力を練り込み、ルーカスを救うべく攻撃をしようとしていた。


「無駄な抵抗だ、やめたまえキュウビキツネ殿。さて兄弟、お前中々やるじゃないか。戦えないなりにもキチンと策を練るなんてな」


「く…」


「痛いか? もっと痛い思いをしてもらうぞ!」


「や、やめろぉお! その人を傷付けるな!」


 サーベルタイガーとオウギワシが舞い降り、大統領を威嚇する。

 リョコウバト達もルーカスを助けようと立ち上がるか、彼女達の行く手を阻むように突如強風が吹き荒れ、身動きがとれなくなった。


「やれやれ…あのセル・ビャッコっての、厄介だね」


「く、こうも風が強いと……わたくしのショットも効きませんわ」


「大統領ォオオ!」


 フレンズ達はルーカスの解放を訴える。

 しかし大統領はそれ等をほくそ笑みながらルーカスをスネークアームで痛めつけて弄ぶ。


「さて、そろそろ潮時かな。顔見せも出来たし言うことなしだが……、最後に兄弟。お前をぶっ飛ばすことに決めたよ。―――――セル・ビャッコ」


 次の瞬間、セル・ビャッコの強烈な拳がルーカスの腹部を貫いた。

 目を見開き血を吐くルーカスに更に追い打ちをかけるように、拳を引き抜いた勢いを活かした廻し蹴りが脇腹に炸裂。


 ビーストとおなじようにルーカスの身体は落ちていった。


「ルーカスさぁああああん!!」


 リョコウバトの悲鳴が意識が途切れかけのルーカスの耳に響く。

 その次に聞こえたのは、大統領の高らかな笑い声だった。


 落下する中、ルーカスは意識を失いながらも死を覚悟した。

 

(もう、終わり…なの、か? 僕は、僕…は……)


 水飛沫が舞うと同時に視界は暗転する。

 ルーカスの身体はなす術なく流されていった。




「貴様……貴様ァ!!」


「野郎…大統領! こんなオレにも、吐き気を催す悪はわかるぜ!」


「やめたまえサーベルタイガー、オウギワシ。君達の刃と拳ではワタシに傷一つ付けることは叶わない。―――では諸君ごきげんよう」


 またしても高笑いをしながら大統領はセル・ビャッコと共に消えた。

 同時にその場に居るフレンズ達に襲いかかってきたのは圧倒的な絶望感。


「なんてこと…ここまで力の差があるなんて」


「ちょいと見誤ったね。アタシの槍が届かないくらい強くなったなんて」


 キュウビキツネを支えながら起こすセーブルアンテロープ。

 そのそばでサーベルタイガーの感情は燃え上がり、悔し涙を零していた。


「許せない、許せない……大統領ッ!! ――――駆逐、してやる。セルリアンを……このごこくエリアから…一匹残らず!!」


 ごこく華撃団の敗北。

 誰もが失意に沈む中。


「ルーカスさん、ルーカス、さん……。探さなきゃ、ルーカスさんを探さなきゃ!!」


 項垂れていたリョコウバトがヨロヨロと立ち上がる。

 

「リョコウバト……私も、ルーカスを探すネ! きっと痛くて悲しんでル」


「私も行くわ……。ルーカスを見つけて、今度こそ守るの。ルーカスに危害を加えるセルリアンは、全部退けるわ!」


 キュウビキツネの止める声も聞かず、リョコウバト、ドール、サーベルタイガーの3人は川の方へ向かう。


 しかし3日経ってもルーカスを見つけることは出来なかった。

 それでも諦めず探す3人。

 この声が届くと信じて。



 



 場所は変わり、ごこくエリアのとある浜辺。


「フハハハハー! アライさんが一番乗りなのだー!」


「アライさーん、そのまま走って行っちゃダメだよ〜」


「アハハ、アライグマすっごく楽しそう!」


 3人のフレンズが浜辺ではしゃぐ。

 彼女達はきょうしゅうエリアから、船に改造したバスに乗ってやって来たのだ。


「ここが、ごこくエリア……」


 バスの中から1人のが出てくる。

 新たな聖地に胸を躍らせながら、彼女は一歩踏み出した。


「どんな子達がいるんだろー? 楽しみだね、!!」


「そうだね。!」



 絶望の暗雲が立ち込めるごこくエリアに、新たなる希望が舞い降りた。

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