第23話 そしてときはうごきだす……
ゴクラクコンビがやってきて、ルーカスたちと対面する。
『ジャパリ・イン・ザ・ミラー』のハブから事情を聞いたらしく、ルーカスのことは知っているようだった。
「ほうほう、確かに大統領と似ているな」
「だがこちらは温和そうな奴だな。僧正様がこうして招いておられるのなら大丈夫だろう」
「アナタ方がキュウビキツネ様が言われた二人ですか。初めまして、僕がルーカス・ハイドです」
「私の名はカタカケフウチョウ」
「私の名はカンザシフウチョウ。……実を言えばもう1人ここへやってくるフレンズがいるが、今は各地を飛び回っていてそれどころではない」
「少し時間がかかるとのことです僧正様。本当はすぐにでも連れてきたかったのだが……」
「あんまりしつこく誘うとこの間みたいに"やかましいッ! うっおとしいぞこのアマッ!!"と怒鳴られるからな」
「あなおそろしや……」
「あなおそろしや……」
無表情で震えて見せるシュールさにルーカスはどうすればいいかわからず固まる。
その場を仲裁するかのようにキュウビキツネが割って入った。
「ウフフフ、あの子ったら本当にしょうがないわね。いえね、同じごこく華撃団のメンバーなんだけど、ちょっと口が悪いの。でも本当はとっても優しい子なのよ」
「は、はぁなるほど。……それでフウチョウの御二方、もしかしてキュウビキツネ様になにか報告をしに帰ってこられたのでは? もしよかったら僕にもその報告を聞かせてもらえませんでしょうか?」
「……よろしいのですか?」
「えぇ構わないわ」
「では、話そう」
フウチョウコンビはハブから仕入れた情報と自分達が集めていたアムールトラの情報を具に話す。
ボスの集団失踪に関しては、このジャパリ寺にいたラッキービーストから聞いたこととほぼ同じだ。
そしてアムールトラ。
ルーカスはこの名前に聞き覚えがあったと同時に、ぼんやりとシルエットが脳内に浮かび上がっていた。
(そうだ……アムールトラ。ジャパリ・イン・ザ・ミラーで見つけた写真の中にいたあの虎のアニマルガールじゃなかったか? ……でも、なぜ彼女を探しているんだ?)
その理由を聞くと、どうやらアムールトラはかつてハブの先輩にあたる存在であったらしく、フレンズで組織された部隊のエースにしてリーダー的存在だったようだ。
部隊にいるフレンズ達を人間の叡智についていけるよう導き、人間の技術に負けないよう厳しく鍛え上げた。
単独でも人間の部隊と組んで数々の作戦に関わり著しい成果を上げたことから『フレンズ特殊部隊の母』とまで称される凄腕のアニマルガールらしいのだ。
「そう、だったのか……。アムールトラさんもビーストに」
「ハブはずっとアムールトラを探している。互いの情報を交換しつつ、我々も探しているのだが、皆目見当がつかない」
「一体どこへ行ったのか……いや、どこから現れるのかすらわからん」
「ん、報告ありがとう。もう休んでいいわ」
そう言って彼女達が去ろうとしたが、ルーカスはすぐに呼び止める。
「少し聞きたいんですが」
「ん? なにかな?」
「我々の報告に存在なにか不備が?」
「そういうわけじゃないです。少し質問があるのです。……ハブさんの話では"大統領は生きているんじゃないか"ってことですよね?」
「あぁ、確かにそう言っていた」
「それがなにか?」
ルーカスが話を聞いていて引っかかったのは彼女達の話の中に出てきたハブの仮説だ。
ハブの独自の情報網で取り寄せた情報から推察したそれは、確かに根拠のないものなのだろうが、今のルーカスにとってはとんでもないIFを暗示する仮説だった。
「もしも大統領が生きていたとしたら……奴が拠点にしそうな場所はどこだと思いますか?」
「拠点? あぁ縄張りのことだな。……えっと」
フウチョウコンビが考えている直後、話を黙って聞いていたリョコウバトがピンときたように手を叩く。
「ルーカスさん、もしかして……ごこくタワーでは?」
「ル、ルーカス、どういうコトネ!?」
「可能性の話ですよ。実は大統領は生きていてごこくタワーを根城にしてるんじゃないかって。あそこなら研究の資材も色々残ってるだろうし……もしかしたらあのメカ・バードリアンを作り出すことも可能かもしれない。メカ・バードリアンはごこくタワーへ向かったのでしょう? そこが奴のボスがいる場所なんですよ。本来ありえない変化を遂げているセルリアン……誰かが手を加えたというのなら、ソイツはよっぽど専門的な知識と技術を持っている天才だ。……そして、現状の話でそれだけの力を持っている存在は……僕の影である、【大統領】だけだ」
大統領は生きているという仮説を、ほぼ確定の域まで持っていく。
これにはキュウビキツネも額から冷や汗を一粒、サーベルタイガーに至っては今にも鯉口を切りそうな勢いで握りしめた。
「その可能性は高いかもな。いや、最早正解と言ってもいいかもしれねぇぜ」
開いた戸から雄々しい風が吹く。
頭部にある大きな翼を優雅に開かせながら、舞い降りる鳥のフレンズ。
白い軍服風の衣装に下は黒い短めのスカート。
元動物のくちばしを模した前髪を人差し指で撫でながら、まるで獲物を狙っているかのような眼光を見せる。
中性的な整った顔立ちで、確実にイケメンの部類に入る。
「おっと、名乗り遅れたな。オレはオウギワシ。多分聞いていると思うが、ごこく華撃団のメンバーだ」
「ウフフ、いらっしゃいオウギワシちゃん」
「ちゃん付けで呼ぶんじゃねぇ。このアマ」
「は~い」
クールに肩を竦めるオウギワシに対し、彼女をからかうように返事をする。
その光景を余所に、リョコウバトやドールは突然のVIPの登場に目を丸くしていた。
サーベルタイガーやキュウビキツネ、そしてセーブルアンテロープとは違った貫禄を見せる彼女に、ルーカスもまた思わずたじろいていた。
「オレは空を飛んでずっとこのごこくエリアを見張っているからな。昨晩、妙なバードリアンを見つけたんで後を追ってみたら、ごこくタワーの最上部に飛んでいきやがった。遠くから様子を見てたら、タワーの中から人影を発見出来た。それらしい声もな」
「わ、わかるんですか!?」
「あぁ、目と耳はいい方だからな。あ……所でアンタ名前は? 安心しろ、大統領じゃないってのは感覚でわかる」
「ルーカス・ハイドです。人間と言う種族です」
「人間か。……最後に見たのは7年くらい前か。それも大統領そっくり……いや、この場合セルリアンがアンタの姿をパクったって感じか?」
「そういうことになります。僕にはまだ記憶が欠如した部分がある。奴はそれを持っているかもしれない」
「どうする気だ?」
「出会って、取り返す。それがいい。僕の『輝き』だ。返してもらわないと。……恐らく残りの記憶は、奴が有しているんじゃないかなって」
「……やれやれだぜ」
無事じゃ済まねえぞと言いたげに肩をすくめるオウギワシ。
「一応セーブルアンテロープにも声は掛けておいた。日没までにはやってくるだろう。恐らく今夜、なにかしろのアクションが起こるかもしれん。それまでちょいと厄介になるぜ」
「えぇ、歓迎するわ。アナタがいると頼もしいもの」
「ねぇオウギワシ。"あの子"には、声かけたの?」
喜ぶキュウビキツネの隣で、サーベルタイガーはオウギワシに問う。
あんまり聞かれたくない内容だったのか、オウギワシは縁の方へ移動し、ゴロンと横になった。
「サーベルタイガー、探してきてくれ」
「もう、私達は同じチームなのよ? あれくらいの元気くらい受け止めてあげないと」
「限度があるんだよ限度が。耳元で叫ばれたときには卒倒しかけたぜ」
そう言って目を閉じて少しでも休もうと静かにする。
サーベルタイガーは、最後の1人を呼んでくるということで1人寺を出て駆け抜けていった。
「もう一人のメンバー……私知ってるネ。ごこく華撃団の中で最も熱い魂を持つフレンズ。……あれ、もしかしてごこく華撃団コンプリート出来るマジで?」
ドールがアイアイとフウチョウコンビを巻き込んではしゃぐ。
しまいにはそれがダンスのようにキレの良い動きになっていった。
「やかましいッ! うっおとしいぞこのアマッ!!」
「は~い」
「は~い」
「は~い」
「は~い」
そんな光景を余所に、リョコウバトは心配そうな顔でルーカスの背を見ていた。
―――――今夜。
もしかしたら、その時になにか起こるかもしれないとリョコウバトの胸が騒いだのだ。
そんなフレンズ達の様子を離れて見ていたラッキービースト。
ラッキービーストは瞳を緑色に光らせながら、天を見上げる。
空は曇りなく、穏やかな陽光を風に乗せて運んでいた。
とても荒事が起きるようには見えない。
しかし、ラッキービーストは、搭載されている管理AIの中にある知性から発せられるのは、濃厚な死の気配だった。
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