第22話 かんわきゅうだいっぽいもの
早速皆でキュウビキツネの元へ行って、事情を話す。
彼女は別に怒るでもなく咎めるでもなく、すんなりと事実を受け入れた。
「なるほどね。随分と手荒なことをしてくれるわね、ボスを襲っているソイツは」
「理由はまだはっきりとはしていません。ただ今後も注意は必要です。ここにもラッキービーストはいますから、もしかしたら奴が狙いにくるかも」
「可能性としてはあるわね。わかったわ。報告ありがとう。あ、壁はそのまま放置してもらって結構よ。ボスが直してくれるから」
「そうですか。お世話かけます」
「ごめんなさいキュウビキツネ。私がビックリしたせいで」
「だからいいってば。そんなことよりサーベルタイガー、アナタもそろそろ練習始めたら? そろそろ舞台が始まる時期でしょう」
実を言えば、キュウビキツネは今いるこの道場内で、振り付けの練習を行っていた。
4人はそこに正座して報告をしていたわけなのだが。
「あの、舞台とは?」
「オウ、そういえばルーカスは初めてデシタネ。ごこく華撃団の『ミュージカルステージ』ネー! このごこくエリアの一大イベントなんデス!」
「えぇ! あのPPPにも負けないくらい煌びやかな舞台で歌と踊りが繰り広げられるのですわ! ごこくエリアの皆の一番の楽しみなんですよ」
ドールとリョコウバトが目を輝かせながらルーカスに説明する。
是非とも見てみたいと思ったがルーカスは内心不安を捨てきれないでいた。
このごこくエリアには確実に"何か"が潜んでいる。
ルーカスの本能が警鐘を鳴らし、胸をざわめかせていた。
「そうでしたか。……しかしいいんですか? 今も尚、脅威が迫っているというのにショーというのは……」
「恒例行事なのよ。このごこくエリアは他のエリアと違って危険がいっぱい。特に大統領が現れてからは、セルリアンの動きも活発になって、私達ごこく華撃団や他のセルリアンハンター達も大忙しの日々。そんな時だからこそ、皆の『輝き』でいたいの。私達ごこく華撃団は」
「輝き、ですか」
「えぇ。昔の私なら大勢の前で踊るなんて出来なかったわ。でも……今は違う。私が歌い、踊り、それで喜んでくれて少しでも明日への輝きになるのなら……。何度だって立ち上がってみせるの」
キュウビキツネの胸の内に秘めた決意を聞いては、ルーカスは反対など出来なかった。
サーベルタイガーもキュウビキツネと同じ気持ちだ。
「私も一緒よルーカス。皆を守りたい。でもそれは戦うだけではダメって教わったわ。私の歌やダンスでも皆を笑顔に出来るなら……」
「そうか、なら、僕がとやかく言えることじゃないな。わかりました。水を差すようなことしてすみません。……舞台、成功するといいですね」
「成功するなんて当たり前よ。音楽も脚本も全て私なんだから」
そう言ってにこやかに返すと、彼女はまた練習に打ち込もうとする。
扇子を広げて、鼻歌交じりに、なだらかな足捌きで舞った。
思わず見とれてしまい、動くことが出来なかった。
「……そう言えば、そろそろ"あの子"達が帰ってくるわね。しばらくここにいなさいな。それまで一緒に踊ってみる?」
相変わらず蠱惑的な笑みで挑発するような表情をするキュウビキツネに誘われ、ルーカスはどうしようか迷う。
(あの子達っていうのが気になるな。もしかしたら有益な情報を持っているかも。それまでここで待っているか。……よし、ならば)
ルーカスは立ち上がり、軽く準備体操。
「あら、アナタ踊れたのね?」
「僕が踊れないとでも?」
ルーカスは自信気に笑みながら眼鏡を指で押しながらかけ直す。
ルーカスが躍ると聞いて、リョコウバトは勿論ドールもサーベルタイガーも目を輝かせながら彼を見る。
アイアイが話を聞いていて、ラジカセを持ってきてくれた。
CDにカセットテープ、MDと様々な媒体のものが聴ける優れもの、らしい。
音楽に合わせて踊りだす。
そのキレの良さにキュウビキツネも目を見張った。
直立した状態で、帽子を片手で押さえながら斜め45度にまで傾いたり、滑らかな動きでのムーンウォークを繰り出す等の神業も披露する。
これには「すっごーい!」の嵐。
「じゃあ、最後はこれだ!」
ルーカスは思いっきり楽しんだ。
彼女達が周りの子達を楽しませて皆の輝きになろうとしているように、自分もまたそうなろうとした。
『Thriller』
場の雰囲気は最高潮。
ついにはドールも一緒に踊りだし、最後には一緒に決めポーズも。
「ちょ……いや、すごく上手ね。ねぇアナタ達もごこく華撃団に入らないッ!?」
「キュウビキツネ様が嬉しそうでなによりですー。でも、ホントに上手でしたー」
「すごいですわルーカスさん、ドールさん! こんなにも興奮したのは久しぶりです!」
「ホント……アナタ達、ダンス上手なのね。すごくかっこよかったわ」
「やったぜ。ついに私もスカウトされたネー!」
「アハハ、どうもありがとう。いやぁ、久々にこんなに体動かした」
拍手に包まれ、やや恥ずかしそうにするルーカス。
そんなときだった。
「あら、どうやら帰って来たみたいね」
キュウビキツネが道場の入り口付近をみると、黒い姿の二人組が立っていた。
「ゴクラクフウチョウ」
「カタカケフウチョウ」
―――――ただいま、推参。
そう言いながら、木の実を口いっぱいに詰め込んでリスのように頬を膨らました二人組のフレンズが現れた。
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