第21話 ラッキービースト
「う~ん、やっぱり開かないな。特別な鍵がいるみたいだね」
「私のサーベルで斬ってみようか?」
「いや、中身がわからない以上それは危険だろう。それは最終手段にとっておきましょう」
自室へと戻り、ドールやサーベルタイガーも交えて箱を眺める。
だが、結局糸口は見つからない。
箱を部屋の隅に置いて、もう少しばかりゆっくりしようかと思ったときだった。
廊下を歩く音が聞こえて、ルーカス達の部屋の前に止まる。
襖がゆっくり開くと小さな人形のような存在が入って来た。
大きな耳と尾がある一頭身。
二つの足で器用に歩く姿がなんとも可愛らしい。
しかし侮るなかれ、内部にはジャパリパークにおける動物と施設を案内し解説する機能を持った高性能管理AIが搭載されているロボットなのだ。
その名も…。
「ら、ラッキービースト! ラッキービーストじゃないか!」
「あらホント! このボスはお寺に住んでるんですね」
「そっか……お寺にずっといるから他のボスみたいに突然消えたりしなかったのね」
「わーお! ボスの姿久々に見まシタ! 懐かしいこのフォルム……あぁ持って帰りたい」
「持って帰っちゃダメですよドールさん。……ラッキービースト、君は人とは会話出来るんだったね。僕とお話しないかい?」
「え、そうなの? 私達には何も話してくれないけど」
「おお、ヒトと会話するボスが見られるなんて、とても貴重ですよ!」
サーベルタイガーとリョコウバトが期待の眼差しを向ける中、ルーカスは座ったままの状態でラッキービーストの近くによる。
ラッキービーストはそれに反応しピコピコと音を立てると、マニュアルのように話し始めた。
「ハジメマシテ、ボクハ"ラッキービースト"ダヨ。君ハ何ガ知リタイノカナ?」
「あー、僕のこと知ってる? いや、覚えているかい? ルーカスだ。ルーカス・ハイド博士。サンドスター研究所の所長だよ」
「検索中、検索中検索中検索中検索中……」
しばらく待っていると、ラッキービーストは思い出したように反応を示す。
「ルーカス・ハイド博士。記録内ノ名簿ヲ確認、及ビ照合。……久シブリダネ。ルーカス博士」
「あぁよかった思い出してくれて。……ラッキービースト、君に聞きたいことがある」
「何カナ?」
「他のラッキービーストはどうしたんだい? このゴコクエリアではラッキービーストが忽然と姿を消しているらしいじゃないか。何か知っていることはないかい?」
「残念ダケド、ボクニモワカラナインダ。他ノ機体トハ定期的ニ通信ヲ取リ合ッテイタケド、イツノ間ニカ繋ガラナクナッテイルンダ」
「そうなのか。ラッキービーストは故障しても代えが効くっていうけど、やっぱり心配だよ。同じスタッフ仲間がこんな目に遭っているっていうのは見過ごせない」
「ラッキービーストノ補充ガ追イツイテイナイカラ、ボク等ノ仕事モ増エテイルヨ。コノママジャ、ジャパリマンノ配給ガ追イツカナクナルカモ……」
「そんな……」
「な、なんとかならないんデスカ…?」
「私に、もっと力があれば……」
3人のアニマルガールが項垂れる中、ルーカスは顎に手を当てながら思考を巡らす。
出来うるならばある程度の情報を得ておきたい。
それはラッキービーストを助ける為の手段にも繋がる。
「なにか手掛かりとかはないかな? 目撃証言みたいなの」
そう問いかけると、ラッキービーストは一瞬視線を落とすようにして考え込む。
そして思い出したように視線をルーカスへと向けた。
「ナイコトハナイヨ。アル機体が消エル前ニ送ッテクレタ映像ガアルヨ。タダ、ボク等モマダ解析ガ済ンデイナインダ」
「見せてくれるかい?」
ラッキービーストの目から光が放たれ壁に当てられる。
暗視スコープで見たような映像が流れ出てきた。
場所は茂みの中、夜の森をラッキービーストが歩いているのだろうか。
チョコチョコと特有の足音が茂みの音と交わり音声に残る中、ドールが耳をピクリと反応させた。
「変な音が聞こえるネ」
「なに? どこだ?」
「待って、もうすぐ……あ、これはかなり近いカモ」
ドールの耳が異質な音を捉えている。
だがそれは小さな音なのかよく聞こえない。
ドールが低く唸りだす。
普段明るい彼女がこんな表情を見せるのは初めてだろう。
その異様さからか、サーベルタイガーも思わず唾を飲み込み、気づけば柄に手を添えていた。
リョコウバトはこのただならぬ雰囲気に不安を感じ、ルーカスの傍へとより裾を掴んでいる。
そして、そのシーンは訪れた。
映像の中でラッキービーストが足を止める。
何かを感じ取ったのか、忙しなく周りを見渡しセンサーを働かせているのがわかった。
そしてある一点にじっと目を向ける。
その先は真っ暗闇だ。
木々の間の闇の中で何かが動いている。
蛇のようなうねりと金属の光をまとったなにかが。
それに皆目を奪われてかたまっていた次の瞬間、高速でそれは飛び出してきた。
軋みを上げながらラッキービーストへと口らしき部位を開いて襲い掛かり、映像にノイズがかかるとプツンと消えた。
映像が終わったとき、ルーカスは嫌な汗でびっしょりになっているのに気が付いた。
同時にアニマルガール達を大いに恐怖させてしまったことも。
「ハァ……ッ! ハァ……ッ!!」
「グルルルルルッ!!」
顔面蒼白のサーベルタイガーはすさまじい速さの抜刀術で映像が映っていた壁を切り裂いていた。
恐怖のあまりの行動なのか、呼吸が乱れている。
ドールにいたっては獰猛な獣のように四つん這いになり鬼のような形相で壁を睨みつけていた。
リョコウバトはルーカスの背中に隠れて目をギュッと閉じて怯えている。
「あ、皆! 落ち着いて! 落ち着くんだ! 大丈夫、これは映像と言って本物じゃない。君達を襲ったりなんかしない。だから落ち着いて欲しい」
ルーカスが半立ちになり、3人、特にサーベルタイガーとドールを制止する。
「3人共僕を見て。僕の目を見るんだ。大丈夫。何も怖くない。ここは平和な場所だ。……ごめんよ。僕が結論を急ぎ過ぎたから、怖い思いをさせてしまった」
ルーカスの声に3人が落ち着きを取り戻していく。
ドールに至ってはクゥーンという悲し気な鳴き声を発しながらルーカスの身体に顔をうずめた。
「ごめんなサイ。ワタシ、なんだか怖くテ」
「わ、私も……。こんな所で剣を抜いてしまうなんて……未熟ッ!」
「少しですが、安心してきました。ルーカスさん、あれは一体?」
「わからない。生き物にも見えたけど、あれは機械だね。……でも、あんな精密なまでの曲線的な動きをする機械なんて初めて見たな」
あの映像に映っていた機械の形状は滑らかな触手に近い。
あれほどの発明を誰がしたのだろうかとルーカスは気になった。
「ラッキービースト。ごめんよ。ビックリさせたようだね」
「……」
「ん、なにか?」
ラッキービーストがルーカスを見つめている。
表情こそないが、それは珍しそうなものを見ているかのような雰囲気だった。
「ルーカス博士、見ナイ間ニ、トテモ優シクナッタネ」
「僕はいつでも優しいさ。仲間は大事にするのさ。当たり前だろう?」
「…………………」
それは何かを考えこむような、何かを思い出そうとしているかのような仕草だった。
ラッキービーストのその仕草は気になったが、ルーカスは次を考える。
とは言ってもこれ以上は3人の精神的疲弊を鑑みてもきっとよろしくはない。
「ラッキービースト。今日はとりあえずここまでだ。ありがとう。またお話出来るかな?」
「モチロンダヨ。何カ用ガアレバ声ヲカケテネ」
そう言ってラッキービーストは去っていった。
部屋には妙な空気が流れる。
ルーカスは申し訳なさそうに3人に微笑みかけながら謝罪した。
「……申し訳ありません。僕が結論を急いだばかりに皆に迷惑を」
「いえ、ルーカスさんが悪いんじゃありません」
「そうダヨ。ワタシもすっごく驚いちゃっテ」
「私の方こそごめんなさい。……ねぇルーカス、壁、どうしよう」
「あー……、うん。僕がキュウビキツネ様に話しておきます。僕が原因だったんだ。サーベルタイガーさんを驚かせたのは僕なんです。僕が責任を取りますよ」
「……いや、やっぱり私が謝りに行くわ。私が未熟だったから……」
「じゃあ、一緒に謝りに行きましょう」
「あ、なら私も謝りに行きますわ!」
「ワタシも行くネー!」
「ありがとう、皆」
3人に元気が戻って来た。
皆そろって謝りに行くため、ルーカス達はキュウビキツネの所まで歩いていく。
(しかし……あの触手は一体? それに、ぼんやりとだけど闇の奥の方でヒトのシルエットが見えたような……。機械の触手が生えた人間だって? よせやい)
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