第19話 ついきゅう/せまるかげ

 キュウビキツネから話を聞く。

 まず自分以外の人間がどこへいったのか。


 曰く、人間がいなくなってから6.7年ほど経っているらしく、最後に見たのは港の方であるらしい。

 その間ルーカスは昏々と眠り続けていたことになる。


 きょうしゅうエリアの火山の大噴火で、パーク中にセルリアンが現れ、人間達が退去することとなった。

 この騒動は多くのフレンズ達の活躍で終息した。

 中でも、『セーバル』という不思議なアニマルガールのお陰で、火山からあふれるサンドスター・ロウが落ち着いたとのことだ。


 カコ博士やミライ、トワ園長、そしてトオサカについて聞いても見たが、残念ながら有益な情報は得られなかった。

 自分のことも当然知らない。


(……となると、Stairway to Heavenについて聞いてみるのも無駄かもしれないな。……―――――じゃあ、問題の大統領について聞いてみるか)


 アイアイに淹れてもらったお茶をすする。

 一息ついてからゆっくりと湯のみを置いて、もう一度キュウビキツネの目を見て質問した。


「アナタは大統領と戦う前にいくらか話していたそうですが、一体なにを話していたのですか?」


「彼は、このごこくエリアを出て、パークセントラルへ行きたいといっていたわ」


「パークセントラル? 都市部か。その理由は?」


「さぁ、そこまでは教えてくれなかったわ。なぜ私を誘ったのかだけど、このエリアには対セルリアン用の結界を張っているの。このエリアのセルリアンは特殊なのが多くて、違う島へ行くことが出来る部類も何匹か以前にいたからその予防にね。この結界を解いて、尚且つ私の力を借りたかったからみたい」


「なるほど。しかし最終的には交渉決裂。実力行使にでたわけですね」


「そう、何度か会いに来てくれたケド。彼の気配からはとんでもないものを感じたわ……なにかはわからないけど、セルリアンとは違うなにかを。…その、アナタの前でこんなことを言うのもなんだけど、アレはいうなれば妖怪の類に近いものを感じたわ」


 キュウビキツネの言葉に偽りはない。

 ルーカスには到底理解できない大統領の目的。

 

(僕の輝きを奪ったセルリアンが……これじゃあ、かつての女王事件と同じじゃないか)


 眼鏡を指で押し上げ、目を細めながらかつて起きた事柄と今を重ね合わせる。

 カコ博士の輝きを奪ったセルリアンの狂気。


 自分の輝きを奪ったセルリアンはなにをしようとしているのか。

 しかも、パークセントラルといえば、そのセルリアンの女王が結界で閉じ込められていた場所ではないか。


 人間がいない以上都市部も機能していないと思うのだが、彼はそこでなにをしようと考えていたのだろうか。


(大統領、もうひとりの僕。……奴はパークセントラルを目的にしているらしいが、なぜ……)


 数々の疑問が深まる謎へと凝縮していき、頭の奥底へと重く沈殿していく。


「では、最後の質問です。……――――――なぜ、ここから北にあるごこくタワーがセルリアンに占拠されているのでしょうか?」


「ごこくタワーですって?」


「えぇ。昨晩僕達は機械化したセルリアン…『メカ・バードリアン』と出会いました。サーベルタイガーさんがなんとか追い払ってくれまして、奴はごこくタワーへ逃げたそうなんです」


「そうだったの……メカ・バードリアン……そんなのは聞いたことがないわ。でも、そっか、昨晩の騒ぎはアナタ達だったのね。すぐに治まったようだから調べるのはあの子達が帰ってきてからでいいかと思ってたんだけど。早急に調べないとダメね」


「……その謎のセルリアンがキュウビキツネ様に存在を気付かれずにタワーを占拠出来るとは思えません。恐らくあれは占拠されてから製造されたものだと思います」


「一体誰が?」


「いえ、そこまでは……」


 ルーカスも考えるが見当もつかない。

 

(とりあえず、キュウビキツネ様に聞けるのはここまでくらいか? あ、そうだ……一番重要なのがある)


 キュウビキツネ、大妖怪がフレンズ化した存在。

 もしかしたら彼女の強大な術の中にあるかもしれない。


「あー、最後の質問と言っておいてアレなんですが、ちょっとした好奇心からの質問なんですが」


「あら、なにかしら?」


「……失った記憶を元に戻す術なんてものはありますか?」


 











 場所は変わり、ごこくタワー。


 サンドスターの影響で美しい輝きに包まれた島ジャパリパークにおいて、このごこくエリアに存在するこの場所には常に暗雲がたちこめていた。


 光や輝きそのものを遮断・拒絶するかのように辺りは静寂な薄暗さが支配しており、タワーの頂上は雲に覆われてっぺんが見えない。


 そのタワーのてっぺんでは、あのメカ・バードリアンが横たわり、無数の機械に囲まれ修復作業が行われていた。

 そして、その近くで眷属の様子をさめざめとした瞳で見守る銀髪の黒衣の男。

 黒いスーツの上から黒いトレンチコートを羽織り、その上から肩と胸を覆うような機械を纏っていた。


 その機械の胸部からは金属の触手マニピュレーターが2本、背後へ垂れるよう伸びており、彼の足元を先端が蛇のように揺らめかせている。


 冷徹な無表情からが心は読み取れない。

 額から左目、左頬にかけての傷が、どれほどの修羅場を乗り切ったかを想像させる。


「……―――――――さて、我が発明品よ。お前のデータを読み取らせてもらうぞ?」


 そう言って触手を動かし、メカ・バードリアンの機械部分に接続する。

 メカ・バードリアンがこれまで記録したものを触手を通して読み取っていくと、男はある存在に目を付けた。


「ほう、これは……」


 データの中で見つけたのはルーカス・ハイドの姿。

 その無様な姿だ。首を裂かれ、胸を貫かれるという。


「……―――――ふふふ、なぁんだ。弱いじゃあないか。てっきりなにか力を持っているのかと思えば。ワタシの敵にはなり得ないな」


 眼鏡を指で押すようにかけ直しながらほくそ笑む。

 この男はルーカスを知っていた。


 それもそのはず。

 この男こそ、キュウビキツネ達とかつて戦ったルーカスそっくりな敵。


 ―――――【大統領】は生きていた。


 大統領は鼻歌交じりにメカ・バードリアンから離れると、ある場所へと向かった。

 そこにはまた別の機械が置いてある。


 煌々と画面が光っているパソコンの前に座ると、大統領は一枚のレコードをレコードプレーヤーにセットする。

 

『レクイエム 二短調 K.626』


 壮大な音楽を聴きながら、大統領は天井を見上げ歯をむき出すようにして笑った。


 ――――会いに行かねば。


 そう思いイスにもたれながら片手でキーボードとマウスをいじると、パソコンの画面に地図が現れる。

 メカ・バードリアンとの交戦場所から、次にルーカス達が行くであろう場所に目星をつけた。




「感動の再会だ。ともに祝おうじゃあないか。

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