第18話 こいんげーむ

 キュウビキツネの後ろをついていきながら奥へと歩く。

 途中で綺麗な中庭を見ると、そこにはフレンズがいた。


 ――――カンッ! カコンッ! ガッ、カンッ!


 カンフー映画でよく見る木人樁を拳法の型通りに拳や足を打ち付けている。

 スムーズな身体の動かし方にルーカスは興味を持った。

 キュウビキツネ曰く、あのアニマルガールは元はセルリアンハンターとして活動していたが、今はこの寺とその周辺を守る『衛士長』という立場についたらしいのだ。


「アイアイ、この4人を奥へ連れて行くから」


「はい、わかりましたー。お客様どうぞごゆっくりー」


 スリットの入った黒いチャイナドレスをまとい、ボブヘアーから耳をぴょこぴょこと動かす可愛らしいアニマルガールが、木人椿を打つのをやめてこちらに振り向き、キュウビキツネにニコリと微笑み返す。

 そして即座にまた木人樁を打ち始めた。


「あの子はアイアイ。他にもあと2人いるんだけど、まだ帰って来てないから紹介はあとでね」


「わかりました。いや~、サーベルタイガーさんみたくこう……武術をやってるアニマルガールって結構いらっしゃるんですね」


「そうね。あの子は確か……えーっと、詠春拳? 師匠にならったーとか言ってたけどどこまでホントかわからないわ」


「オー、カンフー! ワタシ知ってるヨ! イスを使ったり高いところから落ちたり、あと酔っ払って敵と戦ったりするアレネ!」


「まぁ、そんな戦い方が!?」


「すごいわね……私のは独学だけど、やっぱり人間って」


「いや待ってそれカンフーじゃない。……っていうかドールさんやけに詳しいねホントに人間知らない? あ、知らない。あ、そう……」


 雑談を交えながらも奥の間へと辿り着くと、キュウビキツネは上座にゴロンと寝転がり軽く伸びをする。

 ルーカス達は慣れない正座で、並んで座りながら彼女の言葉を待った。


「もう、そんなにかしこまらなくてもいいわ。くつろぎなさいな」


「ん~、いいんですかねそれ」


「いいのいいの。私がいいって言ってるんだから、大丈夫よ」


 モフモフと尻尾を扇のように揺らしながら、キュウビキツネはずっとルーカスの所作を見ていた。

 サーベルタイガー同様見極めようとしている。

 そんな視線に気付き、ルーカスはキュウビキツネに話しをしようとしたとき、彼女はおもむろに制止をかけた。


「もう、せっかちな殿方ね。最初に言ったでしょ。私を楽しませてって、じゃなきゃお話してあげないわ」


「え、楽しませるって……」


「ん~そうねぇ。……ルーカスさん、クイズは得意?」


「クイズ? ……内容にもよりますが、負ける気はしませんね」


「いい返事ね。やっぱり負けず嫌いなところは『彼』そっくりね」


「彼?」


「サーベルタイガーと一緒にいるってことは、もう知ってるんでしょ? ―――――大統領のことよ。アナタのことだからそのこと聞きたいんじゃない?」


「そうですね。他にも聞きたいことはありますが……そこは正々堂々クイズを解いて勝利してからにします」


「フフフ、良い目をしてるわね。じゃあ、24枚のジャパリコインを使ったクイズよ」


 そういってキュウビキツネはジャパリコインを一列に並べる。


「ルールは簡単、一対一でコインを交互に引いていくの。一人が一度に引けるコインの枚数は3枚まで。最後にコインを引いた者が勝者。どう?」


「ほう、なるほど。いいでしょう」


「で、誰からくる? 勿論皆にも参加権はあるわ。ルーカスさんだけじゃ不公平でしょう? 楽しいことは分け合わなきゃ」


「あ、ならワタシやりたいネ!」


 ドールが元気よく手を上げる。

 リョコウバトやサーベルタイガーはやや遠慮がちだが、それでもやりたそうな雰囲気だった。

 ルーカスはすぐにでも挑みたかったが、キュウビキツネや彼女達の意思を真っ先に尊重した。


 楽しいことは分け合う。

 フレンズ同士のふれあいにおいてとても大事なことだ。

 それに、彼女達が楽しそうならばなにも文句はない。 

 思えば自分の厄介事に付き合ってくれているのだから、なにかこうして楽しいことをしてくれるのは、ルーカス自身にとっても、それは喜びに代わるもの。


「じゃあドールさん、どうぞお先に」


「ワーイ!」


「いいんですかルーカスさん」


「えぇ、かまいません。こういうのは皆でやりましょう。きっと楽しいですよ? 僕は最後でかまいませんので」


「でも、もしも私達の誰かがこのクイズを解いたら……遊べなくなる子も」


「あらあら随分と余裕綽々な言葉を出すじゃないサーベルタイガー? 果たして私のクイズがアナタ達に解けるのかしらねぇ?」


 キュウビキツネは自信満々の笑みで、受けて立つ。

 ドールは「さいきょーのずのー!!」と言いながらこのクイズに挑んだ。


 先攻はドール、後攻はキュウビキツネ。

 ドールが一気に3枚とると、キュウビキツネは1枚とった。

 ドールが2枚とると、キュウビキツネは2枚とる。


 互いにばらついた枚数取っていった結果…。


「ハイ、私の勝ちね」


「Oh……ナンデヤネン」


「つ、次は私が挑みますわ!」


 今度は先攻をキュウビキツネが。

 しかし、結果は同じく彼女の勝ち。


 サーベルタイガーも挑んだが、やはり勝つことは出来なかった。


「あらあら、少し難しすぎたかしら」


「うぇえ~~~、つ、強いネ」


「うう、手も足もでないなんて」


「これは、強敵……ルーカス、勝てる?」


(ふむ……)


 ルーカスはこれまでの流れをずっと観察していた。

 眼鏡の奥で目が細まり、思考が深くなる。

 そして真っ直ぐキュウビキツネを見据えて。


「キュウビキツネ様、もしも僕がこのクイズに勝ったら……本当に僕の質問に答えてくれるんですよね? 僕が抱いている謎を解くにはどうしてもアナタの力がいる」


「えぇ、勿論。さぁやりましょう。そうねぇ……ルーカスさん、アナタ後攻ね」


(ん……?)


 こうして向き合う二人。

 息を吞みながら勝負の行く末を見守るリョコウバト達。


「じゃあ行くわよルーカスさん」


「いつでも」


 キュウビキツネが1枚引くと、ルーカスは3枚引いた。

 キュウビキツネが2枚引くと、ルーカスは2枚引いた。


「……ふぅん、もうわかってらっしゃるのかしらね」


「さぁどうでしょう」


「え、なにが起こってるネ。ちょっとよくわからナイ」


 その後も順に引いていく二人。

 キュウビキツネが3枚引けばルーカスが1枚引き、キュウビキツネが1枚引けばルーカスが3枚引く。


 そして決着が着いた。

 

「このクイズ、随分後攻に有利に作られていますね。二人が引いた数が合わせて『4』になるようにやっていけば、後攻は必ず最後にコインを引くことが出来る」


「あらあらぁ~負けちゃったわね。これはもう仕方ないわ。アナタ達の願いを聞く他ないわね」


 ルーカスは確信する。彼女はわざと勝たせるように仕組んだのだ。

 初めに皆でやろうと提案したのは、少しでもルーカスに手順を見させる為。

 最後に、自分を後攻にさせたのは勝率を格段に上げる為だ。

 彼女の掌の上のような感じはしたが勝ちは勝ちだ。

 キュウビキツネと話が出来る権利を得たのだ。

 

「――――……では、よろしいでしょうか」


「まぁ待ちなさいな。今アイアイにお茶を淹れさせてるから。時間はたっぷりあるわ。ゆっくりしていきなさい。大丈夫、逃げたりなんかしない」

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