第14話 よるのへいげんで
キュウビキツネまでの距離は思った以上に遠い。
日も落ちて、月が天上まで昇っていく。
夜の行動は控え、身体を休めることにした。
場所は平原。外灯が道に沿っていくつか点いており、少し進んだところにうち捨てられたであろう錆びた装甲車があったので、そこに入ることに。
「中は……意外に綺麗だな。サンドスターの影響で気候がほとんど変わらないとはいえ、ここまで完全な形で残っているとは」
ルーカスは装甲車の内部を確認する。
だが、そこかしこ故障しているようで動きそうにはない。
銃火器はなく、ガランとした内部に4人が入るには丁度の大きさだ。
ルーカスは皆眠るかと思いきや、3人共ピンピンしている。
リョコウバトは兎も角として、ドールもまだまだ元気そうなのが驚きだった。
「体力には自信あるカラ、たまになら夜でも大丈夫デース!」
「私はもう慣れているから……。ルーカスはゆっくり休んで」
「そうですよルーカスさん。ここへ来るまでにサンドスターを見つけて食べたとはいっても、やはり休めるときに休んでおかないと」
「あれはビックリしたデスヨ」
「えぇ、サンドスターそのものをあんなにもおいしそうに食べるなんて。人間って、グルメなのね…」
「いや、その…ごめん、あんまりその話題出さないで下さい。結構恥ずかしかったんですから」
ルーカスは顔を赤らめながら帽子を深く被る。
道中、サンドスター補給の為一度だけサンドスターを食べた。
そのときのドールとサーベルタイガーの食いつきは凄まじく、サンドスターを食べるルーカスをじっと間近くで眺めていた。
ルーカスにとって顔から火が出そうな短くも長く感じられる時間だったそうな。
「とにかく各自休憩! 明日の朝にまた行動しますから!」
「おーう拗ねないで下サーイ。お口を膨らませて食べてるルーカス、なんだか可愛かったですヨ?」
「うん……なんだか、心が温かかった。お腹いっぱい食べてるんだって思うと、幸せな気持ちになる」
「私もルーカスさんが元気になるのを見ているととても嬉しくなります」
「お願いホントやめて!? 恥ずかしいの! 女の子3人揃って可愛いとか言われるのむず痒くなっちゃうの! ぼ、僕は外にいるから、ホラ、皆休んで休んで!」
ぴゅーと装甲車の外へ飛び出し、少し離れた場所の外灯の下にあった小さな岩に座り込み、メモ帳を開ける。
ボールペンを走らせながら、ここまで起きたことをメモしていった。
森の中の洋館。
リョコウバトと出会い、そこで魔術書と書き置きを見つけた。
その書き置きは後に、写真に手ルーカスと共に写る男トオサカのものと判明。
このトオサカという男が自分とどういう関係であったかは不明。
少なくとも、友人のような関係にも見えるが……。
ホテルのこと。
血濡れの写真の裏に書かれてあったパスワードで発見した地下研究施設。
自分はサンドスター研究所の所長。
かつての仲間ディランの亡骸、そんな彼と友人だったハブ。
人工サンドスターとそれを活用した医療装置、火の鳥計画。
人工サンドスターを作る上で、森の洋館と地下で見つけた魔術書は欠かせないものだった。
今その魔術書はリョコウバトが記念に持っている。
(……大体こんなところか?)
ルーカスはボールペンを懐に入れ、しばらくメモ帳の内容を眺めていた。
血で張り付いて固まっている部分を見ることは可能かと何度か引っ掻いては見るが効果はない。
専門の道具があればあるいはいけるのだろうが、そんなものは望めないだろう。
だが、引っ掻いたせいで、その部分がごっそりと根元から破れ落ちてしまった。
「げっ!? あーあー…やっちまっ……――――ん?」
落ちた拍子に半分に分かれるようにバラつくメモ。
そこだけ血が薄く、書かれている文字を読むことが出来た。
筆跡からして、自分の物ではない。
余程急いでいたのか走り書きのように書かれたそれにはこうあった。
【Stairway to Heaven】
If anything happens when you wake up, please use my authority.
The password is our research result.
Kako
("【天国への階段】…………、アナタが目覚めた時、もしものことがあったら、どうぞ私の権限をお使いください。パスワードは私達の研究成果です。 カコ"……これは!?)
次の瞬間、脳内に焼き切れそうなほどの電流が走ったような感覚に襲われる。
自分のメモ帳に書かれていたカコ博士であろう人物からのメッセージ。
(Stairway to Heaven……か。ん? そう言えば、聞き覚えがあるかもしれないな。そうだこれは……一部のスタッフが使っていた"用語"だ)
所長のときの記憶を思い返してみる。
カコ博士もまたこの言葉を使っていた記憶がぼんやりとあった。
だが、ルーカスにはその言葉を使った記憶がない。
彼が携わったのはサンドスターの研究と、人工サンドスターの開発。
一部のスタッフはこの用語を使用し、なにかをしていた。
当時ルーカスは不審に思い調べてみたが、一切不明であったのだ。
(Stairway to Heaven……カコ博士の権限、そしてパスワード。アナタが目覚めた時ってあるけど、――――カコ博士は僕がどうして眠っていたかを知っているのか? なぜ自分の権限を僕に?)
疑念が深まる中、ルーカスは落ちたメモを拾って懐にしまった。
丁度そのとき、リョコウバトがゆっくりと歩いてくる。
「ルーカスさん。なにをしていましたの?」
「なにって…いや、別に」
「いいえ。その顔のときはなにかあるときですわ」
「え゛、わかるの?」
「はい、ルーカスさんは結構わかりやすい御方ですので」
いつのまにやらクセや仕草を把握されていたらしい。
「まいったな。敵わないね。だけど……ごめん。もう少し僕の中で整理させてほしい。ちょっと頭が混乱しているんです」
「フフ、えぇいいですわ。落ち着いたときに話してください」
リョコウバトは特に問い詰めることはなく、外灯の柱にもたれるようにしてルーカスの隣に佇む。
ルーカスは首筋を掻きながら申し訳なさそうに笑いながら。
「……色々聞かれるかと思いましたよ」
「確かに知りたいですけど、私はルーカスさんを信じていますので」
「僕を?」
「えぇ、ルーカスさんは絶対に真実を偽ったり、はぐらかすような方ではないと。それにルーカスさんはとっても頭が良くて頑張り屋ですので、すぐに記憶を取り戻せますわ」
絶大な信頼を寄せられている自分の頬が赤く染まっていることに気付き、ルーカスは帽子を深く被りながら表情を見せないようにする。
それを見ていたリョコウバトは少し意地悪そうに微笑みながら、しゃがみ込んでルーカスの顔を覗き込んだ。
「恥ずかしがらなくてもいんですのよ。私達はもう友達なんですから」
「……その笑顔は、卑怯だ」
「ウフフ。さぁもうお休みしましょう。ルーカスさんには休養が必要なんですから」
ルーカスはなにも言い返せなかった。
だが同時に疑念で曇り切った心が少し澄んだようになっていた。
彼女に誘われるまま立ち上がり、満天の星で輝く夜空を見上げながら装甲車まで歩く。
ゴォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!
「なんの音だ?」
ルーカスがそう呟きながら後方を見る。
リョコウバトもつられてその方向に向いた直後。
「伏せて!」
「伏せるネ!」
「うおわぁ!?」
「キャア!」
血相を変えて走ってきたサーベルタイガーとドールに背中を押されるようにして地面に抑えられるルーカスとリョコウバト。
そして4人はその状態のまま、恐るべき存在を目の当たりにした。
轟音を上げながら翼を広げ超高速で飛ぶ巨大飛行物体。
ほんの一瞬の出来事だったが、それはまるで翼竜のように雄々しく、戦闘機のようなメタリックさがあった。
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