第612話 戻ってきた日常とクラーラの変化?
今年の収穫祭も無事に終わり、要塞村にはいつもの日常が戻ってきた。
セリウス王国協力のもとで行われたこともあって、トアは収穫祭が始まって以来もっとも長く祭りを堪能できたのだった。
「本当に楽しかったなぁ……」
朝市の様子を見て回っていたトアは、思わずそう口にする。
「わふ? 確かに朝市は賑やかで楽しいですよね!」
すぐ近くにいたマフレナは、トアが朝市の盛況ぶりに喜んでいると思ったようだ。
「確かに朝市も楽しいけど、俺が言ったのはこの前の収穫祭だよ」
「収穫祭? でも、トア様も毎年参加しているじゃないですか」
「今年はこれまでと違ってスタンレーさんたちセリウス王国の人たちが手伝ってくださったおかげで、トアさんも自由に動けましたからね」
朝市に出す手製の魔道具が入った箱を抱えたジャネットが、通りすがりにそう告げた。
「そういえばそうでした!」
手をポンと叩いて笑顔を浮かべるマフレナ。
ちょうどその時、クラーラもトアたちのところへとやってくるが、その表情はいまいち冴えなかった。
「どうかしたのか、クラーラ」
「あっ、トア……」
心配になったトアが声をかけるも、やはりどこか落ち込んでいるように映る。
「本当にどうしちゃったんですか、クラーラさん」
「わふぅ……元気ありませんね」
「そんなことないわよ。――ただ、ちょっとこの剣が」
「剣?」
そこでトアはクラーラが手にしている剣がいつもと違うことに気づく。
曰く、現在彼女の剣はドワーフたちの手によってメンテナンスの真っ最中。それでも剣の鍛錬がしたくなり、数日前にエノドアで購入した予備の剣を持ち出してきたという。
「ただ、この剣があんまり合わなくて」
「紫色の鞘か……珍しいな」
クラーラの手にしていた剣はこの辺りではあまり見かけないデザインの物だった。彼女はそれを気に入って購入したそうだが、ハッキリとした出所は分からないという。
「でしたら、私たちの方で調整をしましょうか?」
「うーん……でも、前の剣もじきに戻ってくるみたいだし、それまで我慢しておくわ」
少し困惑したような笑みを浮かべつつ答えたクラーラは、そのまま見回りのため森の方へと歩いていった。
「わふっ、クラーラちゃん、大丈夫でしょうか」
「問題ないとは思うけど……」
この時はまだ事態を重く捉えていなかったトアだが、まさかここからあのような事態に発展するとは、この時微塵も想像できなかった。
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