第607話 思い出の酒⑦ 再会

 トアたちはラテーズの町へと移動し、ギブンを探すことにした。

 町の広さはそれほど大きくはないため、まずは宿屋へと向かうことに。


 すると、目的の人物はすぐに見つかった。


「ギブンさんならもうじきに帰ってきますよ」


 彼に話をしたいと告げると、宿屋の店主は快く応じた。

 

「いよいよ例のお酒を造ったギブンさんと会えるのか……」

「どんな人でしょうか!」


 珍しく緊張気味のシャウナをよそに、トアとマフレナは好奇心からウキウキしていた。その横ではクラーラが未だに記憶を呼び戻そうと唸っていた。


「まだ思い出せないのか、クラーラ」

「うーん……もうここまで来ているんだけど……」


 ラテーズに関することか、ギブンに関することか、それすらも曖昧な記憶だが、間違いなくこの状況にかかわりのある内容らしい。


 そうこうしているうちに、宿屋にひとりの男が入ってきた。

 その男を視界に捉えた途端、シャウナの表情が一変する。


「ギ、ギブン……」

「えっ? シャウナさん?」


 再会したふたりはしばらく動きが止まっていた――が、ようやくシャウナの方が改めて声をかける。


「こうしてまた君に会えるとは……嬉しいよ」

「こちらこそ。でも、どうしてここに?」

「例の酒について、いろいろと聞きたくてね」

「酒? ――まさか! あれを知っているんですか!?」

「まあ、立て込んだ事情ってものがあるのさ」


 握手をしながら会話を交わすふたり。

 長い間、お互いに会いたいという気持ちはありながらもさまざまな理由からなかなか会えずにいた者同士が久しぶりに再会したとあって、どちらもとても嬉しそうに会話をしている。


 しばらくして、シャウナが旅の同行者であるトアたちを紹介しようとすると、


「あれ? 君は……あの時お世話になったエルフ族の子?」


 ギブンはクラーラの前で立ち止まると、そう告げた。


「えっと――あっ! 思い出した!」


 ここでようやく眠っていたクラーラの記憶が呼び戻されたらしく、手をポンと叩きながら理由を話す。


 それによると、トアたちとバカンスに行った際、偶然出会って話し込んだことがあったという。以前、同じ時に仲良くなった商人が要塞村を訪れた際にその話で盛り上がり、ギブンの名前も出てきてそれがずっと引っかかりとなっていたのだ。


「まったく……人騒がせだな、クラーラは」

「ご、ごめんなさい」

「まあいいさ。こうしてギブンとも再会できたわけだし……そろそろ行こうか」

「えっ? 行くって?」


 不思議そうに尋ねるギブンに、シャウナは笑顔で答えた。


「君の最終目的地――要塞村へさ」

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