第608話 思い出の酒⑧ シャウナとギブン

 呪いの酒を造った張本人が要塞村へとやってきた。


 それはあっという間に村中へと知れ渡ったが、すぐにシャウナが誤解であると説いて回り、そのおかげもあってギブンは村民たちから歓迎される。


 また、要塞村で朝市に参加している商人たちにも同様の情報を流し、ここから世界中へ向けて呪いの酒がデマであると伝わるようにしておいた。


「安心したまえ、ギブン。ここにいる商人たちはみんな信頼できる。これで心置きなく酒を造ることができるぞ」

「何から何まで……本当にありがとう、シャウナ」

「礼なんかいいさ。それより、またうまい酒を造ってくれ。私は君の造る酒が好きだからね」

「いやぁ、八極のひとりであるシャウナさんにそう言ってもらえて本当に光栄です」


 会話に夢中となっているシャウナとギブン。

 その様子を遠巻きから見ていた女性陣はソワソワし始めていた。


「あのふたり……もしかして……」

「シャウナさんってそういう素振りを全然見せていなかったし……」

「わふぅ……気になります」

「確かにそうですよねぇ……」


 エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットが気になっていたのはシャウナとギブンの関係性であった。

 四人は仲睦まじい感じから恋人か、或いは元恋人同士という間柄を創造していたようだが、後ろで話を聞いていたローザがそれに待ったをかける。


「一応言っておくが……シャウナとギブンはお主らが期待しているような関係ではないぞ」

「そ、そうなんですか?」


 残念そうに尋ねるエステルに対し、ローザは説明を始めた――のだが、


「あいつは……いや、やめておこう」

「ちょっ!? そんな気になる終わり方はないですよ!?」


 抗議するクラーラ。

 しかし、ローザの気持ちは変わらない。


「そういうのはあいつの口から直接語られるべきじゃろう。気になるなら聞いてみるといい。もっとも、ヤツは喋らんじゃろうが」

「わ、わふ……さらに気になります」

「今夜は眠れそうにないですね」

 

 シャウナの恋愛トークで盛り上がる中、トアとフォルは少し離れた位置でその様子を眺めていた。


「やれやれ、みんな元気だなぁ」

「あの四人を同時に相手しているマスターも十分お元気ですよ」

「そうかな? というか、元気って……」

「おっと。これは失言でしたね」

「えっ? ちょっと? フォルさん? どこまで知っているんだ?」

 

 今度はトアとフォルがワイワイと騒がしくなる。

 

 ともかく、こうして広まっていた呪いの酒の誤解は解かれた。

 ギブンは世界を旅してさまざまな酒と出会い、新たな酒のイメージを生みだすと言い残して要塞村を去っていった。


 彼の酒が世界中で愛飲されるようになるのは、もうしばらく先のことだ。

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