第604話 思い出の酒④ 悪評

 エノドアから提供された情報をもとに、トアたちは酒の謎に迫るためリンクルという町を訪れた。

 同じセリウス国内にあるのだが、要塞村からはかなり距離があったため、ドラゴンのシロの背に乗って移動することとなった。

 今回はシャウナ単独でも問題ないのだが、トア、クラーラ、マフレナの三人も同行することに。これは単純に興味関心から来るものであった。


 シロの背中に乗って空を飛ぶことたどり着いたリンクルの町。

 その第一印象は――


「なんというか……普通の町ですね」

「要塞村がいろいろと濃すぎるからというのもあるが……まあ、それを抜きにしたとしても平穏かつ穏やかな町だな」


 特にこれと言って目立つものはない無個性な町並み。

 ここにはエルフも獣人族もいないらしく、行き交う人々はクラーラとマフレナを珍しそうに眺めている。


「私も一応は獣人族なのだが……」

「シャウナさんは見た目じゃ分かりづらいですからね」


 耳と尻尾がある銀狼族のマフレナとは違い、黒蛇族のシャウナは戦闘時など感情が高ぶった時に蛇の目へと変わるくらいでほぼ普通の人間と変わらない。外見の違いで言えば、エルフであるクラーラの方がパッと見ですぐ異種族と分かるほどだ。

 

 周囲からの視線を感じつつ、トアたちは呪いの酒に関する情報を持っているという酒屋の店主を訪ねた。


「えっ? 呪いの酒? ――ああ、ギブンの造った酒のことか」

「ギブン!?」

 

 店主が酒を作ったとされる人物の名を口にした途端、シャウナの目の色が変わる。


「そのギブンという男は今どこに?」

「さあて……俺も新しい酒を探して他国に遠征した際、偶然酒場で知り合っただけだからどこに住んでいるかまでは……」

「で、でも、その人が呪いの酒を造ったのは間違いないんですよね?」


 トアが尋ねると、店主は複雑そうな表情を浮かべた。


「あの酒は……本人曰く、別に人を殺そうとかそういう気持ちを抱いて造った物ではないと語っていたな。ヤツは本当に真面目な男でな。自分の造った酒にそんな悪評がついてひどく落ち込んでいたよ」

「やはりそうだったか……」


 シャウナの表情に影が落ちる。

 さらに、店主は貴重な情報をトアたちにもたらした。


「そういえば、住んでいるところは分からないが、目指している場所ならその時に聞いたぞ」

「「「「目指している場所?」」」」


 店主曰く、ギブンは目的地を持って世界を旅しているらしい。

 その目的地とは――

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