第603話 思い出の酒③ 情報提供

 酒専門の商人であるレンドンが要塞村に持ち込んだ、飲むと不幸になるという通称【呪われた酒】――その作り主にシャウナは関心を持った。


 その後、トアはレンドンの証言にあった人物を訪ねた。しかし、彼もまた名も知らぬ商人から興味本位で譲り受け、だんだんその噂が怖くなってレンドンに助けを求めたという。

手がかりを失うも、トアはエノドア町長であるレナードとパーベル町長のヘクターに協力を要請。飲んだら呪われる酒についての情報提供を行った。


 情報がもたらされるまでの間、シャウナはとても大人しかった。

 いつもならエステルやクラーラあたりにセクハラまがいな行為をしにいくのだが、ここ数日は地下遺跡の調査をしつつ、レンドンの置いていった酒瓶を眺めるという日々を送っていたのだった。


「まったく……あいつのあんな態度は始めて見るのぅ……」


 今日もまた大人しいシャウナの様子を見て、要塞村にいる誰よりも古くから彼女と付き合いがあるローザが心配そうに言う。


「ローザさんはあのお酒について何か知らないんですか?」

「サッパリじゃな。ただ、話を聞く限りは八極の一員としてザンジール帝国を滅ぼした後の話みたいじゃ」


 帝国との大戦が終わった後、八極のメンバーはそれぞれ別の道を歩んでいった。ローザは要塞村の原型である無血要塞ディーフォルに残された神樹ヴェキラを研究するためこの地にとどまっており、他のメンバーのその後については知らないという。


 いつもと調子が異なるシャウナの様子に、村民たちは心配を募らせていたが――それから一週間後に事態は急変する。


 きっかけはエノドア自警団に所属するトアの聖騎隊時代の同僚ふたり――エドガーとネリスが訪ねてきたことだった。


「よぉ、トア」

「例のお酒に関する情報が手に入ったから伝えに来たわ」

「ほ、本当か!?」


 ふたり曰く、エノドアにあるエルフのケーキ屋を訪れた人物が、店内に貼られた『呪われた酒の情報を求む』という紙を見て話をしてくれたという。

 彼自身は直接その酒や作り主を見たわけじゃないが、リンクルという町にある酒屋の店主が呪いの酒を作る職人の存在を口にしていたと語ったらしい。


「リンクル……ここから距離はあるな」

「ドラゴンのシロかクロに協力してもらえば半日もせずに着けるはずよ」


 村長室の机に地図を広げていたクラーラの言葉を聞き、トアは決意する。


「すぐにシャウナさんへ連絡しよう。――リンクルへ向かうぞ」

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