第602話 思い出の酒② シャウナと呪いの酒

 商人レンドンが持っていた「飲むと不幸になる酒」――こればかりは酒好きとしては名をはせるシャウナであっても手をつけられないだろう。

 トアたちはそう思っていたが、どうもシャウナとこの酒には何やら因縁があるようだ。


「シャウナさん、このお酒を前に飲んだことが?」

「そういうわけではないが……作り主には心当たりがある」

「ほぉ、それは酒屋である私も興味深いですな」


 王都で酒屋を営んでいるレンドン曰く、同業界隈でこの酒は悪い意味で有名だった。その効果の通り、興味本位で口にした者たちはまるで呪われたかのように不幸に見舞われている――そういった事態から、レンドンはこの酒自体が一種の呪具ではないかと予想していたのだ。


「確かに、身につけただけで不幸にする呪いの装備といった類は帝国時代からも存在していましたね」

「わふ? そうなんですか?」

「えぇ……かく言う僕もご覧の通り喋って動く甲冑ですからね。初見の方には呪いで動いているんじゃないかと怯えられたものです」


 冗談っぽく話すフォル。

 だが、実際にまだ廃墟同然だった要塞で初めてフォルを見た時、トアはちょっと同じことを思った――とはさすがに直接言葉にできなかった。


 気を取り直し、シャウナへと視線を送るトア。

 彼女は例の酒が入った瓶を手に、レンドンへ尋ねる。


「これを譲ったという同業者について知りたいのだが?」

「そ、それは構いませんが……どうするつもりですか?」

「いや何……この酒を作ったのは古い友人でね。久しぶりに会いたくなったのさ」

「「「ゆ、友人!?」」」


 トア、フォル、マフレナの三人の声がピタリと重なる。


「それってつまり……呪いの酒作りをする専門家ってことですか?」


 恐る恐るトアは訪ねる――が、それに対してシャウナは首を横へ振った。


「そんな物騒な酒を作っているわけではないが、最後に会った際に少々気になる物言いをしていたのでね。もしかしたら、この酒とかかわりがあるんじゃないかと思ったんだ」


 シャウナはすべてを語らなかったが、その酒を作ったという職人と過去に何かがあり、心配して会いに行こうと考えているらしい。

 事情を知ったレンドンはシャウナからの願いを聞き入れ、この酒を手に入れた商人を紹介。どうやら今はエノドアで仕事をしているらしい。


「思ったより近場にいましたね」

「レンドン様が要塞村に立ち寄る数日前に訪れたらしいですよ」

「わふっ! 今から行ってもお昼前には着きますよ!」

「そうだな。では、私はちょっとエノドアに行ってくる」

「あ、あの、俺もついていっていいですか?」


 トアの提案に、シャウナは驚いた表情を浮かべた。




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