第598話 春の祭り
ルクレシアの来訪によって騒がしくなっていた要塞村にようやく普段通りの雰囲気が戻ってきた。
あれからバーノン王の使いが村へやってきて、トアに現状を報告。ルクレシアの案件については国が預かることになり、必要があればトアを城に招いて意見を聞きたいという。
「なんだか大変なことになりましたねぇ、マスター」
「それだけ要塞村が注目されているってことだけどね」
村長としては嬉しいが、よからぬ企みを持って近づいてくる者も出てくるだろうという懸念もあった。それについては細心の注意を払いつつ、自分だけの考えで進めないで頼れる村人たちに相談をしていこうと結論をだした。
そんな中、朝の見回りをしようと市場へとやってきたら、
「うわっ!?」
「これは壮観ですねぇ」
目の前にたくさんの人形が飾られた棚が。
見慣れぬ光景に驚くトアとフォル。
そこへ、ヒノモト王国のツバキ姫が従者を引き連れてやってきた。
「トア村長、いかがでしょうか。我がヒノモト王国に伝わる雛人形は」
「ひ、雛人形?」
聞いたこともない名前に、トアとフォルは顔を見合わせて首を傾げた。
ツバキ姫曰く、雛祭りとはヒノモト王国で古くから伝わる行事のひとつらしく、女の子の健やかな成長を祈るために行われると教えてくれた。
「へぇ、そんな言い伝えがあるんですね」
「女の子に限定したお祭りというのも珍しいですね」
フォルの言うように、ストリア大陸にある国でそのような内容の祭りを開催している地域は存在しない。なので、要塞村でも特に女性陣は人形の周りに集まっていろいろと語り合っていた。そこにはもちろん、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの姿もある。
「盛況みたいだね」
「私としても受け入れてくださって嬉しいのですが……残念なことに、この人形は今日の夜には撤去する予定なんです」
「えっ!? なんでそんなに早く!?」
真っ先に反応したのはクラーラだった。
さらに他の女性陣からも「もう少し置いていてもいいのでは?」という意見が飛び交う。
そんな彼女たちに、ツバキ姫は雛人形に関するもうひとつの言い伝えを口にした。
「実は、この雛人形……片づけを遅らせると婚期も遅れるといわれているんです」
「「「「「…………」」」」」
途端に、女性陣はシンと静まり返る。
「なら、仕方ないわね」
「そうね」
「わふぅ……」
「致し方ありません」
クラーラたち四人も納得してくれたようだ。
結局、雛人形はその日のうちに片づけられたのだが、来年はもっと早い段階から準備をするとツバキ姫は約束。
早くも一年後を楽しみにしていると語る女性陣が続出するのだった。
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