第596話 要塞村を訪ねてきた女② ルクレシアの狙い
要塞村を訪れた女性――ルクレシア・ローダー。
以前会ったことがあるというナタリーの話を聞く限り、大陸でもトップクラスの規模を誇るホールトン商会が贔屓にしているらしく、かなりの実力者であることがうかがえた。
問題はそのジャンル。
彼女はどの業界でその名を轟かせているのか。
真相を確かめるべく、トアはルクレシアを円卓の間へと招待した。
「へぇ……」
そのルクレシアは円卓の間に到着するまでの間、興味深げに要塞村の内部を見回していた。円卓の間に到着してからも何度か頷き、なぜか満足げな表情を浮かべている。
「あの、何かありました?」
気になったトアは思い切ってルクレシアに尋ねてみる。
「いえ、本当に要塞を村にして暮らしているのだなぁと感心しました。最初にこの村の存在を耳にした時は、まさかそんな場所があるわけないと信じていなかったんです。ましてや、さまざまな種族が助け合いながら生活をしているなんて」
エルフもドワーフも獣人族も、要塞村での共同生活が始まるまでは人間側との接点が少なかった。しかし、要塞村の存在があちこちで広まると、百年前に起きた世界大戦以降どこかギクシャクしていた種族間の溝が少しずつ、だが確実に埋まっていった。
ルクレシアの耳にも、そんな噂は届いていた。
「初めてこの村を見た時、私は楽園にでも足を踏み入れたのかと錯覚するほど強い衝撃を受けました。これほど素晴らしい村を一代で築きあげるなんて、並大抵の人間には成し得ないことですよ」
「そ、そんな……」
美人に真正面から褒められて思わず照れるトア――だが、背後から四つの凄まじい殺気を感じて「ゴホン」と咳払いを挟んでから本題へと移る。
ちなみに、円卓の間にはトアたち以外にもジンやゼルエス、ナタリーにケイス、そしてシャウナやローザなど、要塞村の中心人物たちが集結していた。
「単刀直入にうかがいますが……ルクレシアさんはなぜ要塞村に?」
「私の店をぜひともこの要塞村にも置いていただきたいと思いましてね」
「お店?」
予想外の話に、円卓の間は騒然となった。
この場合、気になるのは店のジャンルだ。
「あの、一体なんのお店になんですか?」
「厳密に言うとお店ではなく宿屋なんです」
「や、宿屋?」
またしても意外なルクレシアの言葉に、円卓の間を包んでいたざわめきは一層強さを増していた。
そんな中、
「ひとつよろしいでしょうか」
ナタリーが静かに手を挙げてそう口にする。
「今回の一件……バーノン国王陛下の耳には?」
「いえ、この村を訪問したことも告げてはいません」
素直に答えるルクレシアだが、トアとしては「それはまずい」という認識であった。
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