第595話 要塞村を訪ねてきた女① 新しいビジネス
寒さが厳しくなる中、要塞村で人気を集めているのが――温泉である。
市場に参加する多くの商人からの要望もあり、トアはジョブの力を駆使して村民が使用するものとは別の来客用温泉も新たに増築。神樹ヴェキラの根が浸かる地下水を温めることで、疲労回復効果だけでなく病気の予防にもひと役買っているとあり、瞬く間に人気のスポットとなったのだった。
そんなある日、要塞村に珍しい客がやってくる。
「うおっ!?」
「な、なんだ!?」
いつものように盛り上がっていた市場は、その人物の登場に騒然となる。
注目を集めていたのはド派手な赤いドレスに黒い毛皮のコートを着込んだ銀髪の女性で、彼女の周りにはボディガードと思われる五人の武装した厳つい男たちがついていた。
のどかな要塞村には似つかわしくない人物の来訪。
その噂はすぐに村長であるトアの耳にも届いた。
ひとりで対応させるには危険かもしれないと心配してエステル、クラーラ、マフレナ、ジャネット、フォルといういつものメンバーに加え、ローザ、シャウナ、ナタリー、ケイスの四人も同行することに。
「あらあら、随分と大所帯での出迎えね」
トアの前にやってきた女性は三十代半ばくらいで、メイクもかなり派手だった。特にエステルたち若い女性陣は面食らっている様子。
「あなたたち……素材はいいけれど、もっとしっかりメイクした方がいいんじゃない?」
「「「っ!?」」」
まさに今頭に思い浮かべていたことを指摘され、たまらず口をつぐむ三人――ちなみに、マフレナだけは意味がよく分かっておらず、「わふっ?」と首を傾げている。
その時、ナタリーが「あっ!」と声をあげた。
「あなた……もしかしてルクレシア・ローダーさん?」
「私のことを知っている者がいるというのは意外だったわね。――って、あなた、前にどこか会ったかしら?」
「数年前に、ね。うちの商会も贔屓にさせてもらっていますから」
「商会? ……ああ、ホールトン商会の人だったの」
どうやら、ナタリーは要塞村へ来る前に女性と出会っているようだった。
「ナタリーさん、こちらは……」
「彼女は――」
「自己紹介は私がしましょう。それが礼儀というものですし」
そう言って、女性はひとつ息を吐いてから語り始める。
「名前は先ほどこちらのナタリー・ホールトンさんが言われた通り、ルクレシア・ローダーと言います。お会いできて光栄ですわ、トア・マクレイグ村長」
「こ、こちらこそ」
よく分からないまま握手を求められたトアはそれに応じる。
そして、互いに手を握り合ったまま、
「今日はビジネスのお話をしにまいりました」
ルクレシアは妖艶な笑みを浮かべ、そう告げる。
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